第31話 インド洋方面の海戦(セイロン沖海戦)中編

    南雲忠一は晃司の話を聞いて更に驚嘆した。


南雲忠一「なんてことだ、この大日本帝国がそんなことになるとは、

     信じられん。

     それと前回の海戦の事も、本当の事の様だなあ。

     これらの事実については他に誰が知っているのかな?」


岡本晃司「はい、南雲長官。今の時点でこのことを知っておられるのは、

     連合艦隊では、山本長官と、宇垣参謀長と、黒島首席参謀と、

     南雲長官と、高橋中将だけで、連合艦隊以外では、永野軍令部総長

     だけです。

     その書面に書かれていないかもしれませんが、他に私と同じ境遇の

     女性で、同じ時代の日本の防衛大学校の生徒だった、園田一花少尉が

     居ます。

     彼女は今、永野総長直下です」


南雲「それだけか。にしても永野総長までか。でその女性士官というのは、

   君と同期なのか?」


晃司「未来では1つ下の後輩です」


南雲「そうか。君と同じ境遇の人間がいるとはなあ、しかも同じ養成大学校の

   後輩の女性とはな」


晃司「南雲長官、彼女のことももちろん含めて、このことはあと、

   草鹿参謀長以外には口外なされないようにお願い致します」


南雲「うむ。わかった。で、このフーヴァーとの交渉成功というのも本当か?

   細かいことを教えて欲しいのだが」


晃司「そのことについても、特に詳細には書かれていないようですので、

   説明いたします。

   これについては高橋中将もお知りになっていないので、草鹿参謀長以外

   には、絶対に口外なされないようお願い致します」


    晃司は南雲にフーヴァーとの密会の内容についても語った。


南雲「な、なんと、そんなことが?その内容も信じられないが本当のことなん

   だろうな。

   このことも本当に高橋中将以外、今言った中では皆しっているのだな」


晃司「はい南雲長官。あとご存知ないのは草鹿参謀長だけです」


南雲「草鹿参謀長にはこのことも含めて言っていいのだな?」


晃司「はい南雲長官、長官の口からおっしゃっていただいて結構ですよ。

   質問等で、必要があれば私からも補足します」


南雲「わかった」


    しばらくして、草鹿龍之介参謀長が作戦室に入ってきた。


草鹿龍之介「南雲長官どう致しましたか?急でしたので何かと」


南雲「草鹿参謀長よく来た。まず紹介したい人物がいる。

   岡本中尉、挨拶したまえ」


晃司「はい。初めまして、草鹿参謀長、連合艦隊旗艦大和所属、

   岡本晃司中尉です」


南雲「草鹿参謀長、彼は若いが山本長官の腹心なんだ」


草鹿「腹心ですか?それはまた。こちらこそ岡本中尉、草鹿龍之介だ。

   この艦隊の参謀長をさせてもらっている」


南雲「草鹿参謀長、話はまず、この書面を読んで見てくれ、山本長官から

   私宛の命令書だ」


    草鹿龍之介は山本からの南雲への書面を読んで驚いた。


草鹿「こ、これは、本当のことですか?南雲長官。

   にわかには信じられませんが」


南雲「私も今色々聞いて驚いているところなんだ。岡本中尉から聞いた話も

   含めて説明しよう」


    南雲は草鹿に命令書に載っていないことも話した。


草鹿「なんてことだ、我が大日本帝国がいや世界の未来がそんなことに?

   そしてこの若者いや、岡本中尉とその園田少尉という女性士官が

   未来人ですか。そのフーヴァーとの交渉の内容も、にわかには

   信じがたいのですが」


南雲「私も未だに信じられないんだ、草鹿参謀長。しかしこれは山本長官の

   直筆の命令文書だ。

   信じないわけにもいくまい。私にはこの命令に従う義務があるが、

   参謀長きみもそうではないのか?」


草鹿「ええ南雲長官、わかりました。とにかくこの文書と南雲長官を信じます。

   岡本中尉のことももちろんです」


南雲「岡本中尉、草鹿参謀長はじめ参謀閣員には申し訳ないが、今回は君の

   作戦を採用する」


草鹿「私もそれに従うよ、岡本中尉」


晃司「ありがとうございます。南雲長官、草鹿参謀長」


南雲「ではここには今、事実を知った三人しかおらんので、早速岡本中尉、

   お願いする。いいかな、草鹿参謀長、岡本中尉」


草鹿「わかりました宜しいです、南雲長官」


晃司「はい。それでは話させてもらいます。まず今回の作戦の骨格は草鹿参謀長

   以下皆さんで一旦お決め下さい。私は要所要所提案しますので」


草鹿「うーん、一旦決定した作戦をいくら参謀長とは言え、

   私だけで修正してしまうというのは」


晃司「ではこうしましょう、一旦南雲長官と草鹿参謀長お二人で後日までに、

   立案して頂いて宜しいでしょうか?それを私が検討させてもらう

   ということで」


南雲「草鹿参謀長、私はかまわんが君はどうかね?」


草鹿「参謀の中で私一人でですか。せめて源田中佐くらいだめでしょうか?」


    晃司はその直後大事なことを忘れていたことを思い出した。

    そして言ったのである。


晃司「南雲長官、お二人には大変失礼なことを申し上げねばならないのですが

   宜しいでしょうか?」


南雲「何かな岡本中尉?」   


晃司「実は、未来でもこの艦隊が源田艦隊と噂(うわさ)されると伝わっている

   くらいだったという事を、失念(しつねん)しておりました。

   源田中佐もお呼び頂いて、今まで話した内容もお知らせ頂いて、

   この作戦の立案に加わって頂いても宜しいでしょうか?」


南雲「そういうことなら私は構わんが、いいのか?岡本中尉?」


晃司「ええ、山本長官には私から後で言っておきます。何とか説得出来ると

   思いますので任せて下さい。

   ただあまりこの事実は多くの方には知られたら危険ですので、

   将官以外で知っておられる方は、我々当事者以外は、黒島首席参謀

   だけで、他は誰もいません。

   その点はご本人に南雲長官か草鹿参謀長から伝えておいて下さい。

   ただしフーヴァーの件は源田中佐には内密にしておいて下さい。

   こういうことは先ほど申し上げた園田少尉が詳しいのですが、

   今回は確認し損ねておりましたので、今申し上げます、すみません」


南雲「わかった。そういう事だ草鹿参謀長、

   君からも念を押しておいといてくれ」


草鹿「分かりました。それでは源田中佐を呼び出しますので、

   少々お待ち下さい」


    草鹿参謀長が源田中佐を呼び出してからしばらくして

    源田が現れた。


源田実「源田実中佐ただ今参りました」


    南雲と草鹿が源田に全てを説明し、晃司も自己紹介を兼ねて

    それに加わった。

      

源田「し、信じられません、参謀長、長官」


南雲「これ全部本当の事みたいなのだ、源田中佐。この艦隊の噂もこの

   岡本中尉があとから指摘したんだ」


源田「そうなんですか?草鹿参謀長?」


草鹿「それは本当だ。私と南雲長官が直接ここで聞いた。この話も信じがたいが

   信じなければ事が進まないのだ」


源田「岡本中尉、君本当に75年後の未来から来て、この国いや世界の未来を

   知っているというのか?」


晃司「はい。大雑把(おおざっぱ)に常識程度なら大概のことは存じております、

   源田中佐。この大戦に関しては、ざっとした史実は、今話してもらった

   通りです」


源田「本当かよ、そんなことが」


草鹿「源田中佐、私も歯がゆいが、君が居ないと作戦を立てるわけには

   いかんだろ。

   だから真実をここで君に知ってもらった、今回だけとは限らんしな」


源田「分かりました、未来においても、私が高く評価されたものと考え、

   光栄に思い、信じましょう」


南雲「ありがとう源田中佐。ただこの事実を知っているのはこの艦隊以外にも

   ごく少数で将官以外は、大和の黒島首席参謀と君だけだ、源田中佐。

   多くの人間にしられては危険だということだ。

   くれぐれも他言しないよう頼むぞ」


草鹿「私からも念を押しておく、絶対に口外せぬようにな、源田中佐」


源田「了解しました、南雲長官、草鹿参謀長。岡本中尉、君もだったな」   


晃司「勝手言ってしまってもうしわけありません、

   南雲長官、草鹿参謀長、源田中佐」


南雲「かまわんよ。このお国の将来がかかっているものとみた。

   最近はそうでもないが、私は以前は山本長官には何かと対抗してきたが、

   この事も先ほど岡本中尉に指摘を受けたところだ。

   今回の事実に関しては、私は、山本長官を全面的に支持することにする」


草鹿「そういうことなら私もそのように致します、南雲長官」


源田「私も僭越(せんえつ)ながらそうさせて頂きます」


南雲「では今から作戦立案と行こう。どうせなら君も決定まで付き合って

   くれ、岡本中尉」


晃司「はい、わかりました南雲長官。南雲長官、草鹿参謀長、源田参謀、

   宜しくお願い致します」


    作戦会議は4人で二日かけて練(ね)られた。

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