第29話 再びの二人の会話

    大和艦橋へ戻った晃司は、一早く山本に会った。


岡本晃司「山本長官、ただいま戻りました」


山本五十六「おお、晃司、高橋から暗号電文が届かず、先に高橋旗下の

      者が来ての、一方的な完全勝利との報を得とる。

      やはりお前の言う通り海軍暗号も解読されていたと

      言う事だな」


晃司「はい、長官。戦闘でそのことがはっきり確認出来ました」


山本「しかし暗号が使えんとなると戦果の報告や連携が遅れるな、

   困ったな」


晃司「今回に関しては、暗号が解読されていることを逆手にとり勝利

   出来ました。

   高橋中将から山本長官と永野総長宛てに、今回の戦果について

   書面を預かっていますので、恐らくその書面に、具体的に

   今回の戦果等について、書かれているかと思います。

   とりあえずこれを、渡させて頂きたいと思います」


山本「そうか。それでは両方とも預かっておこう。

   永野総長には別の者に使いをやる」


晃司「長官、僕が直接、永野総長に書面を渡したいと思います」


山本「なら他の者と別行動で行け。早く帰って来いよ。

   次の作戦をお前に任せたいと、思っているからな」


晃司「次の作戦ですか。ひょっとして、インド洋方面の作戦ですか?」


山本「そうだ。未来から来たお前なら分かっていると思っていた。

   まあ俺宛ての、高橋からの書面をもらおう」


晃司「分かりました」

 

    山本は高橋からの報告文を晃司からもらい読んだ。


山本「晃司よくやった。お前のおかげで、これほどまでの戦果になるとは

   思わなかったと、高橋も言っている。

   しかしお前、高橋が言っているが、深刻な悩みにとらわれている

   様だな。それは困ったものだ。

   次の作戦には、より期待出来るんだがな」


晃司「山本長官、その件について、長官にご相談したいことがあります」


山本「いや、大方の事は高橋の文面からわかる。俺が言うことも大体、

   高橋がお前に言ったことと同じだ。

   お前その文面を永野総長に渡した後、園田少尉に会ってこい」


晃司「お察しありがとうございます。なるべく早く帰ってくるように

   しますのでお待ち下さい」


山本「わかった。しかし未練は残すなよ。ちゃんと覚悟して

   帰って来いよ」


晃司「了解しました。次の戦闘があることを、考えておきます」

 

山本「うむ、行ってこい」


晃司「はい、行って参ります」


    晃司は鉄道で軍令部へ向かった。

    そして軍令部に到着した。


軍令部兵「伊藤次長、連合艦隊の、岡本中尉が来られました」


伊藤整一「岡本中尉?ああ園田少尉と関係のある人物だったな、通せ」


軍令部兵「はっ」


    軍令部の兵士が晃司の元に戻り面会の許可を伝えた。        


軍令部兵「岡本中尉、伊藤次長がお会いになるそうです。

     こちらへどうぞ」


    やはり永野総長は伊藤次長に、主に軍令部の

    仕事をまかせたのか。

    晃司は史実を振り返り、どう接したものか考えった。


軍令部兵「岡本中尉が来られました。では私はこれで」


    軍令部兵がこの場を後にした。


晃司「お初にお目にかかります、伊藤次長。連合艦隊所属、

   岡本晃司中尉です」


伊藤「うむ。こちらこそお初にお目にかかる。軍令部次長伊藤整一だ、

   岡本中尉。

   岡本中尉、どういう訳かはよくわからんが、君は総長の命で、

   連合艦隊の旗艦の配属となった、それも艦橋に。

   その君には話しておこう。

   我々海軍は米国との早期和平を望んでいる。米国に長期戦で

   勝利する等、不可能だと私は考えている。

   早期の和平だ、これはある意味勝利するより難しい。

   この事は山本長官もよくよく分かっておられるはずだ、

   君も聞いてみるといい」


晃司「山本長官とは、その件についても、何度かお話しさせて頂きました。

   あの方も同じ考えです次長。

   開戦後、半年、長くて一年、それ以内に米国と和平に

   持ち込まなければ、日本本土は焦土と化すると考えておいでです」


伊藤「そうか。まあそうだろうな。山本長官は長官なりのお考えで独自に

   動いておられる。

   我々が言う事は無いだろう、君もあの人の言うことには

   耳を傾けるといい。

   で、わざわざ軍令部まで来たのはなにか要件があってのことだろう、

   聞こうか」


晃司「はい次長。総長閣下にお会いすべく、山本長官に拝命されました」


伊藤「そうか。総長ならここにはいない。総長のところまで案内する者を

   遣(つか)わそう」


晃司「はい。ありがとうございます。では失礼します」


    晃司は慣れない手つきで敬礼をし、永野総長の

    ところまで連れて行ってもらった。

    部屋には一花の姿もあった。


晃司「岡本晃司です。入ります」


園田一花「こう・・、先輩」  


永野修身「やあ、岡本君、話はきいたよ。交渉成功に、初陣の勝利。

   未来を知っているとは言え大したものだ。

   初陣は一方的な完全勝利だったそうじゃないか、どうだね感想は」


晃司「はい。実は素直には喜べません。山本長官もそれをお分かりのようで、

   こちらへ私を遣わされました」


永野「そうか。君達の日本には軍隊は無かったんだったな。山本長官も君を

   ここに来させたのも私に会すためじゃないだろう、私は席を外そうか?」


晃司「いえ、総長、ここは総長の執務室です、そういう訳には、私たちが出ます」


永野「そうか、わかった。ではそうしてもらおう」


晃司「それと総長、高橋中将から総長へ書面を預かっておりますのでこれを

   お渡し致します」

  

永野「そうか。早速読ませてもらおう。君たちは行っていいぞ」


晃司「はい、ありがとうございます。行こう園田少尉」


一花「はい、岡本中尉」


    晃司と一花が退室していった。


永野「かたっ苦しくしおって」


    晃司と一花は外出して人気のない場所へ行き

    二人とも腰を降ろした。


一花「初陣お疲れさまでした、勝利おめでとうございます。

   ご無事でよかったです、ほっとしました晃司さん」


晃司「ありがとう、一花。ただ一花、今回君をAL作戦から外そうと

   思ってるんよ」


一花「え、どうしてですか?私に期待してくれていたんでは

   なかったんですか?」


晃司「そうやったんやけど、やっぱり、だめや」


一花「どうしてなんですか?そこまでおっしゃる理由を教えて下さい」


晃司「君に人殺しをさせたくない」


一花「そんな、人殺しだなんて」


晃司「軍人になりたかったかもしれん、なんて言った、こういう俺も

   情けないながら結構つらいんよ、途中から高橋中将に指揮を

   変わってもらったとはいえ、罪の意識でいっぱいなんよ」


一花「晃司さん・・」


晃司「俺も自衛官になったことはないけど、やっぱり自衛隊と軍隊とは

   違うと思うんよ」


一花「自衛隊も防衛のためとは言え、他国家や組織に国家が攻撃されれば

   これを阻止しなければなりません。

   例え他人種で、それを殺傷することになろうとも」


晃司「うん。強いね一花は。ただそうなんやけど、まあ最近では俺も

   この戦争は改めて防衛の為の戦争やと実感してきていたんやけどね。

   とは言え、防衛の為の戦争と言っても、専守防衛とはまた違うと思う。

   もちろん君も分かっていると思うけど、専守防衛とは、

   防衛上の必要があっても、相手国に先制攻撃を行わず、

   侵攻してきた敵を、自国の領域において防衛力を以って撃退する

   方針のこととされてるね。我々のいた時代では実質武力的攻撃を

   受けないと反撃してはいけない」


一花「ええ、そうですよね、一般に近代戦争遂行に役立つ程度の装備、

   編成を具えるものが自衛力とされ、更にまた一般に、外に出て

   戦い得るような装備と編成を持つているものは、

   戦力の部類に入る、とい言うことも知っています」


晃司「そやね、君ならちゃんと知ってるよね。そこまで知っているのに

   多人種と言えど、人を殺させることはできない」


一花「晃司さん、いや岡本中尉、私ももう軍人です。どうかAL作戦に

   参加させて下さい」


晃司「やっぱりだめや、君には綺麗なままでいてほしい」


一花「嫌です。晃司さんがそっちへ行くなら私もそちら側へ行きます。

   あなたを一人にはさせません」


晃司「一花、君はそこまでしてこんな俺のことを・・」


一花「はい・・お慕いしております、晃司さん」


晃司「分かった。でも今回だけやからね。とは言え、ひょっとすると和平が

   成立せんかったら、総長の許可をもらって、君をこっちの陣営に

   呼ぶかもしれん」


一花「はい、晃司さん。晃司さんの望む事なら、なんでもする覚悟は

   出来ています」


晃司「わかってるよね一花、これは軍事行為なんよ。自衛でもなければ防衛とも

   少しちがうんよ」


一花「はい晃司さん、防衛とは、軍事のうち、予防的なものも含めた他国への

   攻撃、打撃を除いたもの、ですよね」


晃司「そうやね、これから俺は君を軍人として見るよ。だけどAL作戦までは、

   それ以外極力君を防衛のうちにとどめさせたい」


一花「お気持ちお察しさせて頂きます、嬉しいです。でも私も一人の人間です。

   自分の責任は自分でとります。それが例え、晃司さんの考えた作戦で

   あっても」


晃司「分かった、ありがとう、一花。俺は少し君の人格を無視していたところが

   あったみたいや、ごめん。君のおかげで、少し目が覚めたよ」


一花「どうか色々、お辛い事があったら私に、打ち明けて下さい。

   出来る事ならなんでもします」


晃司「ありがと。そういえば俺、近々また出兵なんよ、

   山本長官から命が下ったんよ」


一花「インド洋方面の海戦ですね」


晃司「そやね。作戦は大体考えてあるよ」


一花「でも晃司さん、この海戦も史実では連合艦隊の勝利で終わりますよ。

   前回の海戦は史実の確認も含めて、行ったんですよね?」


晃司「うん。今回もそれも必要あるし、あと前回同様味方の犠牲を減らすためと、

   今回は史実より完全な勝利を考えてるんよ」


一花「そうでしたか。ただ本当にこういっちゃなんですけど、多人種とは言え、

   また人を多く殺傷しますよ」


晃司「そうなんよね、そこが辛いとこなんやけどね。でもほっとけば日本人の、

   特に非戦闘員の大量殺戮につながるからね。

   それに今回は山本長官の命令もあるしね」


一花「そうですね。でも晃司さんばかり辛い思いさせて、私は何もしないなんて

   こちらも辛いです」


晃司「ごめん。だからこの作戦が終わったら、また会って欲しいんよ」


一花「はい、晃司さん、私もそのほうが嬉しいです」


晃司「ありがと。気持ちが楽になったよ」


一花「お役に立てて嬉しいです」


晃司「うん、君がいてくれて良かったよ。俺一人では、

   どうかなっていたかもしれん。

   軍人になりたかったかもしれん、なんて言っておいて情けないけどね。

   軟弱な男と思われるかもしれんね」


一花「私はそんな風には思いません。私たちはこの時代の人間ではないんですし。

   それに私、晃司さんのこと・・好きですから」


晃司「ありがと。俺も君が好きよ、一花」


一花「晃司さん、以前のお約束覚えていますか?」


晃司「覚えてるよ」

     

    ・・二人はゆっくり顔を近づけお互い目を閉じ・・  

    ・・そして、口づけを交わしたのであった・・

    ・・晃司は一花をぎゅっと抱きしめたのであった・・


晃司「一花、しばらくこうしていたいよ」


一花「私もです晃司さん、もう少しこのままで・・」


    ・・ずっとこうしていたい・・一花はそう思った・・

    ・・晃司もそれは同じであった・・

    ・・そしてしばらく時間がたってから・・ 


晃司「一花、総長の所にもどろうか」


一花「はい、晃司さん」


    晃司と一花は永野の所へ戻った。


晃司「永野総長、岡本中尉、今戻りました、園田少尉も一緒です」


永野「うむ、おかえり二人とも」


晃司「総長、早速の報告を失念(しつねん)していましたが、

   私はまた出兵します。

   恐らく今月中に旗艦から前線へ、出立すると思います」


永野「そうか、それはご苦労なことだな。また君の提案か?」


晃司「いえ、今回は山本長官の命令です、総長。ちょっと戸惑いも

   ありましたが、総長のおはからいのおかげでその迷いも

   取れました。感謝致します」


永野「そうか、礼なら山本長官に言うことだな」


晃司「はい、総長。山本長官が早く帰って来いとのことですので、

   今から戻りたいと思います」


永野「鉄道で来しなと同じ旅程では、日数がかかるだろう。

   軍用機を貸そう、偵察機だがね」


晃司「何から何までお心遣いありがとうございます、総長」


永野「かまわんよ、何せこのお国の将来を担っている身だからな、

   君らは」


晃司「今回も責務を果たしてきます」


永野「うむ、宜しくな、岡本君。では軍用の電話で手配させよう。

   あと空港までは車を用意しておく」


晃司「ありがとうございます。では総長、失礼致します」


一花「総長、私も先輩をそこまで送っていきたいと思います」


永野「いいだろう」


一花「ありがとうございます。ではすぐ戻りますので」


    晃司と一花は永野の部屋を後にした。


晃司「軍人も捨てたもんじゃないね」


一花「ですね。でも私たちのことばれちゃいましたね。

   先輩のほうは大丈夫ですか?」


晃司「今の所分かってられるのは山本長官くらいや。

   これくらい知っておいてもらったほうが

   何かと都合がいいよ」


一花「それならよかったです。私たち、それぞれ海軍のトップの公認に

   なっちゃいましたね。すごい歴史作っちゃいましたね」


晃司「まだまだこれからよ。車が来たここからは中尉、少尉で会話しよう」


一花「はい。空港までって、言ったらよかったなあ」


晃司「またすぐ会えるやん」


一花「そうでしたね」


    会話をしている二人の前に一台の車が止まって一人の

    下士官が下りてきた。


下士官「岡本中尉でありますか?」


晃司「はい、そうです」


下士官「永野総長から連絡があり、中尉を空港まで送るようにとの命を

    受けて参りました」


晃司「宜しくお願いします」


下士官「ではこちらへ」


晃司「じゃあ行ってくるよ」


一花「お気をつけて」


    ここで二人は別れ、晃司は帰路についたのであった。

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