第7話 パラレルワールド

 どう考えてもおかしい。これが本当に夢なのか。疲れのせいなのか。いや、違う。今まで私に起きたこれらの五つの出来事は、不思議ではあるものの、幻覚的ではないし空想的でもない。それらは、現実味を帯びた、物質的なものだった。間違いない。私の身に、常識では説明できない異常事態が起きているのだ。


 私は少し考えて、暫定的に、ある一つの結論を置いた。


 私は、二つの世界を、同時に生きている。つまりはというと、私が、今いる世界で生きている「私A」と、もう一つの世界で生きている「私B」とが、完全に連動しているということだ。例えば、Aが「あ」と言えば、Bも「あ」という音を、口を開けて発するし、Aがシャドーボクシングをし始めれば、Bはもしかしたら、誰かを半殺しにしているかもしれない。


 このもう一つの世界。それはほとんど、私の生きている世界と変わるところが無いのだが、厄介なことに、時がずれている。おそらく、もう一つの世界は、今からちょうどぴったり三か月前の世界だ。つまり今日は、向こうは五月三日ということになる。私が初めてあの世界に接触した時の、あの黒板の日付がその根拠。それに、あるはずのない学校の授業中へと飛ばされたということや、母がまじめに私を朝七時に起こしてきたということからも、もう一つの世界は夏休みなどの長期休みの期間に入っていないことは明らかだ。だから、これは間違いないはずだ。


 パラレルワールド、ということになるんだろうが、そう呼ぶにはあの世界はあまりにも、面白くない。ファンタジー要素も何も無い。私の夏休みを台無しにしようとする、私にとっては邪魔な存在、ただそれだけでしかない。


 けれど、私の感情が本当にそれだけかと言われれば、そうではない。私は、一応わくわくもしている。だってそうだろう。確かに、あの世界は面白くないが、それでも、その存在自体は非日常的であることは間違いない。私は、生まれてこの方、予定調和の人生しか送ってこなかったから、あれは、そんな私を彩るのには十分なのだ。

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