第3話 四月も憂鬱
「おーい。ん、なんだ?聞いてるのか?」
私目掛けて、声がまっすぐ飛んできている。そんなに距離はない。男の声。なんだかヘンテコなイントネーション。どこかで聞き覚えがある。どこだろう。家ではないよな。とすれば……、まさか学校か⁉私は、ハッと目を覚ました。
「どうしたんだ?ほら、この問題の解は?」
声の主は、数学の先生。その顔は、多少いら立っているように見える。周囲からは、クスクスという、細やかな笑い声が立ち込めている。
この状況は一体。私は、考えることもままなっていなかった。が、このままでいるのも気まずい。なので、とりあえず、先生の顔からゆっくりと視線を外し、そのままそれをゆっくりと、真右に動かした。
すると、私の視界には、黒板の隅に書かれた今日の日付が入った。私は目を疑った。そこには、四月二十六日と書いてあったのだ。ちょうど三月前の日付だ。これを見て途端、驚くことに、私は、頭より先に口が動いていた。
「あの、すいません。さっきまで夏休みだったハズなんですけど。どっちが夢なんですかね?」
先生のぽかんとした表情。クスクスという笑い声はピタリと止んだ。その間、時間にして約二秒。
それから、ザザザーと空気が揺れ、その直後、地鳴りのようなクラスメート達の笑い声が教室を埋め尽くした。こうなれば、こっちのものだ。流石の先生も、もう真面目に怒れる状況ではない。現に、その顔に浮かんでいるにんやりを抑えきれないでいるようだ。
「たわけ。何を言っとるか」
先生のこの決まり文句に、教室がより一層騒ぐ。私はやっと、今の状況のことを頭で考えられるようになってきていた。この空気、この臨場感、リアルな世界と全く同じだ。なるほど、あっちが夢なのか。よし、そうと分かればこうしてはいられない。
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