日がな一日チェスを指す。

山岡咲美

本編「日がな一日チェスを指す。」

「うーんどうだろう?」


 僕、白崎黒伍しろさきこくごの今日はと言うと簡素な造りの小さな家で手の平程の小さな木片と小さなナイフを手に木工細工にいそしんでいた。


「まあ、馬に見えない事も無いかな……」


 僕はつたない技術でチェスのこまを彫った、彫ったと言っても随分と不格好な駒だったそれでもその素朴なデザインは気に入っていた。


「確かチェスの駒ってピースとか言ったっけ?」


 いや、確かポーンはそのままポーンっ呼んでピースって呼ばなかったような???


「まあ僕は日本人だし日本語でこまと呼べばいいか」


 僕はデザインがめんどくさくて最後に作った駒、馬頭うまあたまのナイトを見つめ、まあまあの出来にニンマリと微笑んだ。


「色の濃い方の木は堅くて彫りずらかったな~」


 完成が日暮れ近くに成った僕は自作のチェスを指すのを楽しみに今日は食事をとり早めに休む事とした。



□■□■



「うん良い感じだ」


 朝の食事を済ませたあと白い木と少し濃い色の木で作り上げたチェスの駒を自作した1人用の小さなテーブルの上に並べマジマジとながめる。


 まんまる頭の歩兵ポーンは前に1つ進み斜め前の相手の駒を取る、良く重なる駒で将棋で言う二歩のルールは無い。


「でもこの駒、初期配置からは2マス進めたり、あんまり使わない2マス進んだ直後で後ろに相手ポーンが入られると通過取りアンパッサンされるって意地悪なルールがあるんだよな」


(たまにやられてへこみます……)


 僕は1番小さな駒ポーンをつまみ上げ使いふるされたタオルで磨き上げる。


「次はルーク、城だな」


 城と言ったのは言い得てみょうだった、まさに西洋の城って形をしていて将棋の飛車みたいに縦横真っ直ぐに進めその先の相手駒を取れる駒だ。


「こいつそのままキャッスルとも言ったけ? 確かこいつも入城キャスリングって面倒なルールがあったな」


 キャスリングは初期配置のキングを2マス横に動かしてルークと入れ換るルールで良く使うので忘れてはいけないルールなのだ。


「次は1番彫るのに苦労した騎士ナイトなくさない様にしないとな、また作るって成ると骨が折れる……」


 僕は今までより慎重にナイトを手に取り磨き上げる、最後に作ったナイトは今までの駒より上手うまく、うまの耳まで再現出来ておりけっこうお気に入りの駒だった。


「やっぱナイトはカッコいいよね♪」


 四方に2マス進んでその横のマスに敵味方の駒を跳び越えジャンプする、ナイトは四方に跳ぶ将棋の桂馬けいまと言った特殊な駒だ。


「で、次はいろんな意味で簡単だった僧侶ビショップ


 この駒は斜めに切れ込み入れるだけでだったから簡単に作れた、動きもシンプルに四方の斜め進んで取るだけ、分かりやすく将棋のかく見たいなやつだ。


「次は女王クイーンだ、作る時最初どうしょうかと思ったよ……」


 クイーンは頭にミルククラウンみたいなかんむりを付けてて作りにくそうだったが冠を子供が描くチューリップみたいにギザギザの三角でシンプルに彫るアイデアを出してからは以外と簡単だった、動きとしたらルークとビショップを合わせた8方向に真っ直ぐ進める1個しかない最強の駒、まさに勇者クラス!


「あっそうだ、ポーンが相手の最終ライン、チェス的に言う横のマスはランク縦マスはファイルって言うから最終ランクに入った時の為にクイーンの予備も作っといた方がいいかな?」


 ポーンが盤面の最終ランクに辿り着くと将棋で言うところのり、プモーションってルールで好きな駒に成れるんだけど、大抵クイーンに成るから……


「まあルーク裏返すかポーンにリボン付けるさ」


 僕はここに来る前はよくスマホアプリでチェスをしていたがスマホではプロモーション時グラフィックが変わるのだか現実のチェスではプロモーションが起きれば大抵勝敗が着くのでその前に敗北宣言リザインする事になる、そしてここは最悪な事にスマホが使えない場所なのだ。


「まっいいか、友達と指してた時はポーンの2個置きとかもしてたし何とかなるさ♪」


 僕は自分が楽観主義者で良かったと思っている。


「で、最後は大事な大事な王様、キング様だ」


 キングは頭に十字架付きの冠をしていて将棋の王将おうしょう玉将ぎょくしょうと同じく回りにある8マスに進める駒で、取られちゃうと敗けって駒だ。


 ようはチェスとはこのキングを追い込んでいくパズルゲームなのだ。


「相手キングにこっちの駒の移動先が当たるとチェック、チェックがかかっても取られるしか無いと詰みでチェックメイト、なんかチェス用語ってカッコいいよね♪」



□■□■



「じゃ始めるか」


 僕はテーブルの上に白い木と濃い色の木を組み合わせ作った白と黒に見える市松模様いちまつもようのチェス盤を置いた。


「まずは最終ランク真ん中2つの白マスの方に白のクイーンを置きそのファイルの真正面の最終ランク黒マスに黒のクイーンを置く、そしてその横にキング、ランクの両端からルーク、ナイト、ビショップ、その前のランクにポーンを並べるっと」


 僕は「ふと」コトコトと良い音して並ぶ駒達を見て考える、確かこう並ぶ筈だけど……白の時と黒の時でクイーンとキングの位置が逆になるであってたよね、僕は古い記憶をたどる。


「まあいいか、どうせこの島には僕しかいないしね♪」



 僕は自分が楽観主義者で良かったと思っている。



 何故ならこの無人島に流れ着いて10年、僕はこの環境ですら娯楽を忘れないで居られたからだ。



「じゃ、先手の白からね」



 僕は拾い集めた道具を使い自分で建てた小さな家で静かな時間を過ごす、あの船の事故にあった甲板の陽射しのなか友達と指した様にd2ディーツークイーン前のポーンを2マスすすめd4ディーフォーへ、久しぶりのチェスの時間が始まる。



 コトリ



 ポーンが心地良い音を立てる、ここにはキングを倒す/倒す振りのサインで勝敗をつける相手も握手する友達も居ないが時間は沢山あるし黒の駒も自分で動かせばいい。



 僕は小さな家のなか日がな一日チェスを指す、ここに助けが来るかどうかはわからない……。

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