最悪 ー 絶望・恐怖短篇集
MAGI
ほろびのうた
ある日、ひとが多くいなくなりました。
おかあさんがいなくなり、おとうさんと
わたしだけで、生活していました。
おとうさんが、ごはんを持ってくるといって、
お外によく出かけて行ったのをおぼえています。
いつもわたしは、おうちでねこちゃんたちと
いっしょにあそんでまっていました。
ひとがいなくなって何日たったのか
わからなくなりましたが、ある日
おとうさんはいいました。
「ごはんが見つからなくなってきた。
もうすぐここをはなれなければいけないかも」
わたしはいやでした。
おかあさんがここに帰ってくるのに、
なんではなれないといけないの?
ごはんはガマンするから、ここでおかあさんを待ってようよ、
というと、おとうさんはくらい顔をしてうなずいてくれました。
その日からさらに何日かして、おとうさんのようすが
おかしくなってきました。
ごはんもそんなに多くなかったので、
おとうさんはわたしに食べさせてくれるばかりで
ほとんど水しかのみませんでした。
かお色がわるくなり、ひとりでなにかしゃべっていたり、
ものにあたることが多くなりました。
そして、おとうさんはこういいました。
「おとうさん、もうつかれたよ。おまえは、
ここで、おかあさんを待ってなさい・・・」
そういっておとうさんは、わたしとねこちゃんたちをおいて外に出ていきました。
おとうさんがかえらなくなってもうなんにちたったかわかりません。
ねこちゃんたちはなぜかいっぱいふえて、さびしくなくなりました。
おとうさんとおかあさんがかえってこないから
さびしいのに、な ぜか
とてもしあわせです
とつても やわらかい
ちいさいねこちゃんたちは
ぐ ぐると はしりまわっていて
おちつかな ですが、
とってもしあわせです
ここでまってたら
おとうさん
おかあさん
かえってくるかな
いつまでもまってるね
男はひとり、かつて賑わっていた繁華街を彷徨っていた。
廃墟だらけの中、ただひとり宛もなく。
そこで、携帯電話ショップだった廃墟だろうか、バッテリー駆動の
フォトフレームがまだ動いていて、さすがに廃墟だらけの中
異質だったのか、男は無気力に目を止めた。
フォトフレームに写っていたのは、知らない家族が次々と入れ替わっていた。
皆知らない顔だが、誰も彼も、幸せそうな笑顔で写っている。
今ではもう見る事の出来ない幸せそうな風景だ。
俺も本当はこうだったはず・・・
朧げに男の頭の中でそんな思考が現れ、突然、覚醒したかのようにあっと叫ぶ。
「なんてことを・・・、こんなとんでもない状況でも自分の事ばっかり考えて・・・!」
先程の無気力さとは打って変わり、男は猛ダッシュで後ろに振り返って走り出した。
最後に残された"幸せ"を取り戻しに・・・
しかし、男は家に辿り着いたものの、そこにはもう"さいごのしあわせ"はなくなっていた。
男は幼い少女の体を抱き起こして、本来なら一眼に憚る程であろう、大声を出して情けなく泣いていた。
娘であろうか、肌は熱を帯びておらず冷え切ってグッタリしている。
男はどれほどの日数、外を徘徊していたのか、妻には先立たれ、頼るべき協力者が死ぬまで誰もいない極限状況の中、守るべき者まで捨ててしまった。
男は絶望に泣いていた。
動かなくなった娘のかたわらに、画用紙が一枚、残されていた。
出だしは"いつまでもまってるね"と綴られていた。
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