スクラップ・ノート
@chased_dogs
お見合い
二〇三六年二月七日、双方の合意を伴わない異性間での婚約および交際の禁止に関する法律、通称「自由恋愛禁止法(自禁法)」が施行された。
自禁法により、異性間での婚約および交際は、双方が成年であって、国または自治体が認可する第三者機関の仲裁の下で執り行われることとなった。
この第三者機関の選定に関しても議会内外での喧々諤々の議論があった。結局、事前調査の上、開業から五年以上経過している結婚相談所数百社に対して、自禁法施行日から認可されることとなった。
自禁法制定により、恋愛市場には未曾有の混乱が齎された。青少年の恋愛は法律で禁止されることとなり、直接ないし間接的な描写を含む書籍や映像・音声作品は、自治体が定める条例によって、あるいは国内に拠点を持つ放送局、出版社、通信事業者、ECサイト運営者の自主規制によって、流通を著しく制限されることとなった。また、市民による自主的な青少年の恋愛を含む作品の不買運動も折りに触れ行われるようになった。
代わりメディア事業者は、自禁法適合な恋愛作品の展開を望んだ。その結果、お見合いを題材にした作品やリアリティショーが次第に人気を博すようになった――。
現在。ニ〇四九年一月某日、夕刻。都内某所。
「いけ! ランチに誘え!」
「……よし来た!」
「そぉだ!」
男達の声がアルコールの匂いと共に部屋中を飛び交う。男らの視線は皆一様に、煙が立ち込める薄暗い部屋の片隅、壁二つに挟まれた天井際に向けられていた。釘と針金で無理やり固定された液晶テレビ。画面には、お見合い相手にランチを誘う若い男の姿が映る。
「あっ、あーっ!」
「駄目! 駄目だよぉー! っかー!」
「そこは新宿じゃなくて銀座か六本木だろぉおい!」
男達が一斉に非難の声を上げる。ランチの誘いは失敗に終わりそうだ。
『ランチと言えば、神保町に美味しそうな天ぷら屋があったんですよ。新宿じゃないですけど、どうです?』
女性が別の提案を持ち掛ける。
「おっ?」
「いいのか? これいける?」
「アンタ、こりゃ体のいい断りですよ」
男達に動揺が拡がる。
『天ぷら屋、ですか……』
画面の男の表情が一瞬曇る。が、すぐに表情を切り替えた。
『いいですね。行きましょう』
にこやかに男が言う。
『はい。じゃあ、日取りはいつにします?』
『次の土曜日はどうでしょう』
『分かりました。予定、開けときますね』
トントン拍子でランチの予定が決まる。テレビを前に男達は固唾を呑む。
『あ、それと』
女性が言葉を継ぐ。男達のアルコールで血走った視線が一点に注がれる。
『今日は、その、楽しかったです。よければ結婚を前提にお付き合いしたいなと、思います』
沈黙。そして――
「ウオォォォ!!!」
「やったな!」
「よし今日は奢りだ!」
「大将!
男達の
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