My Magic!
小佐内 美星
第一部
一章 プロローグ
prologue
逆らいようのない事実を、この世界が全て作っている。逆らいようのない事実は、逆らいたい事実であることがほとんどなのも、この世界のめちゃくちゃな悪趣味だった。
目の前で大好きな幼馴染が車にぶつけられて死ぬ時、私は人生で一番激しく呼吸をしたのに、何が起こったのかを理解していた、という意味で、脳内だけは明瞭で、それでいて冷静だった。過呼吸、と言われ、口にビニール袋があてがわれるその応急処置が恐ろしいほど苦しくて、イヤイヤと暴れるのを、大人の男たちに抑えられて、女の人が抱いてくれるまでずっとそうしていた。
照る赤いライトとか、無機質な白とか、そういうのが完全にボヤけているのが、記憶というものだった。技術が発達してどんなに映像が麗しく綺麗に観られるようになっても、頭の中だけは常に霧がかっている。
恨みつらみを吐き出せば楽になると言われ、母にカウンセリングに連れてかれたけど、カウンセラーは私に愛が死んだということを思い出させるだけで、なんの意味もなかった。精神科は私の知能をテストして、詳細な私のプロファイリングをして、それを書類にして見せてきたけど、そこに書いてある私のことが本当に私のことなのかは、周りの人以外は知る由もなかったし、薬を飲む気にはなれなかった。
物みたいに吹っ飛ぶ好きな子の身体と、それで流れる鈍い血と。その後に見えたグロテスクな光景を、寝る前に必ず想起させられた。毎日毎日、それがどのくらい酷かったかということを、悪化していく病状を見つめるみたいにして思い出す。
精神は壊れれば壊れるほど、なぜか私を健康な状態にしていった。そういうのにもなんらか病気の名前が付くらしかったけど、私は別に、そのことへの興味は起こらなかった。なんと呼ばれたっていいと思っていた。快活なら快活で、それはそれで利用しようと思って、なんとか普通の生活を送れるようになったのがほんの数ヶ月前のことだった。でも高校に復帰すれば、私は友人を失った可哀想な女の子でしかなく、周囲の色眼鏡は、私が健康であればあるほど濃くなっていき、結局、私は薄情者の烙印さえ押されるようになった。
母はそれを見かねて、私を別の高校に編入させてくれて、それが新しい私の人生の幕開けだった。幕開け、と言うとめでたい気もするが、それはそれまでの人生に幕を下ろしたのと同義でしかない。
こう言うと、また薄情者と呼ばれるのかもしれないけど、人生に意味なんてないということを、私の友人は、身をもって教えてくれた。どんなに美しく生きたって、命は運転を誤った鉄の塊に持っていかれる。彼女の残したみやげは、そうしたこの世への深すぎる恨みと、私の心臓に空いた深い穴。そしてそれは、一生物の悪意と呼ぶべきもの。
人に入れ込めばそういうものを貰う。というのが、残念ながら私の、最愛の人を失ったことから得た、残念な教訓だった。
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