13話 訪問者

 「どうも初めまして、藤原千夏です」

 カップルに若い女の子たちでいっぱいのとあるおしゃれなカフェテリア…。その一角になぜか小春も腰を下ろしていた。青春だなんだという言葉に一切縁のないあの小春がである。それもモデル体型のすらっとした綺麗なお姉さんと一緒に…。明らかに場違いでは?と空気に飲まれつつある小春を、そのきれいなお姉さんは値踏みするように上から下までゆっくりとなめるように目だけを動かして観察していく。

 「…えっと…その…」

 「あー、気にしないで。あなたが噂の白の女神様、ってことでいいのかしら」

 「…はい」

 紗耶香が見れば笑いをこらえるのに必死だったかもしれない。今の小春は借りてきた猫とでもいうべきか、普段とは違った印象を受けるほどに委縮している。

 …うん?あ、紗耶香…来てたのか!!

 「ちなみに私のことは知ってるのかな」

 「いえ、ただ友人に超有名配信者様だ、とは事前に説明を受けました」

 若干誇張はしたが嘘ではない。事前に紗耶香からこの千夏さんについては熱く語られた。今も私の視界の斜め先にひっそりと映り込み、千夏さんを眺めに来ているぐらいはファンなのかもしれない。おかげで少し緊張も和らいだが…。

 「なるほど。そういえばAHを始めてからまだ数か月、なんて記事を見たけど、あれって本当なのかしら」

 「…あんまり記事とかは見ないのでわからないですけど、まだ2週間ぐらい…だと思います」

 「…2週間!?」

 美人さんは驚いた顔も絵になるなぁ…。などと場に慣れてきた小春がカフェラテに口をつけている裏で、千夏はわずかに口角を釣り上げ心の中で笑っていた。

 「もしよければ、あなたうちの配信に出てみないかしら」

 「いや、それは」

 「はい!ぜひぜひ!!って私も出ていいですかね」

 誘いを断ろうとした私の声をかき消すように、割り込んできたのは紗耶香だった。

 「…あなたは?」

 静かな怒りのこもった目を、目の前の美女は紗耶香へと向ける。そりゃあ誰だって怒るよ紗耶香…。私知らないからね?

 「私は…プレイヤー名アリス。今回の情報提供者です」

 …え?

 舌をペロっとだしてこちらに片目ウインクを向ける紗耶香。

 「あなたね?戦乙女第5席のアリスさん。いいわ、彼女も一緒なら歓迎します」

 戦乙女の1桁席プレイヤーが3人も集まるんですもの…。贅沢な配信になるわ。そんなことを呟きながらにやける口元を隠そうともしない美女。そしてそれ以上に悪い笑顔の紗耶香に、私は恐怖を覚えながらも配信当日を迎えることになるのであった。

 

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