第8話〜青い鳥はずっと…

…………。


廊下に一枚の羽が落ちていました。


「この羽は…」


空のように青いその羽は、少年にとって見慣れたものです。


見間違えるはずもありません。


毎日のように眺めている、友達からもらった大切な…


少年はポケットから羽を落としてしまったと、慌てて拾います。


しかし…


「あれ?」


青い鳥からもらった羽は、しっかりと胸ポケットにしまってありました。


つまりこの羽は…


「っ!」


少年は辺りを見渡します。


間違いなくこれは青い鳥のもの。


近くの窓にかけ寄り、目を皿のようにして青い鳥を探します。


「……いない」


青い鳥はおろか、羽一枚見つかりません。


しかし青い羽がここに落ちていた以上、青い鳥は間違いなく近くにいるはずです。


少年は探しました。


久しぶりに屋敷を抜け出し、森を探し回ります。


太って体力の落ちた体はすぐに悲鳴を上げますが、それでも足を止める事なく歩き回りました。


一目だけでいい、また青い鳥と会いたい。


それだけを考えながら。


…………。


辺りは薄暗くなり、太陽は沈み始めます。


結局、青い鳥を見つける事はできませんでした。


重い足取りで屋敷に帰ってきた少年は、自分の部屋のベッドに横になります。


「この羽は、どうして廊下にあったんだろう…?」


今更ながら疑問に思います。


屋敷の外であれば、あの青い鳥、もしくはその仲間の羽だったかもしれません。


しかし、青い羽は屋敷の中にありました。


少年の父親が落としたのでしょうか?


しかしあの辺りは父親の書斎から離れています。


あの近くには…


一日中青い鳥を探し回り疲れ切っていた少年は、そのまま眠りにつきました。


…………。


目を覚ました少年は、拾った羽を眺めます。


この羽は青い鳥の、少年の友達のもの。


それは間違いないでしょう。


窓越しに羽を空に透かします。


少し、ほんの少しだけ、少年が持っていた方と比べて色が薄いようです。


「君は、今…」


ベッドから起き上がります。


久々に動き回って体が悲鳴を上げていますが、そんなの些細なことです。


少年は昨日羽が落ちていた場所までやってきました。


一晩寝て冷静に考えました。


あてもなく歩き回っていましたが、羽を見つけた場所、そこは…


「…………。」


そこは弟の部屋のすぐ近くでした。


昨日会ったのもちょうど部屋を出てすぐだったのでしょう。


もしかしたら、何か知っているかも…


「…………。」


心の奥底にある答えからは目を背けます。


裕福になった生活、変わってしまった互いの立場。


とても見た目のよく似ていた、少年の弟…


…………。


弟の部屋の扉をノックします。


しかし弟は留守でした。


あの後出かけてしまったようです。


中からは物音一つしません。


「…………。」


少年は、懐から、笛を取り出しました。


そして久しぶりに、本当に久しぶりに笛を吹きました。


それはあの日、青い鳥と出会った時に吹いていた、あれから何度も一緒に唄った曲…


始めはたどたどしく、次第に滑らかに…


ーーー…ィ


少年の耳に、小さな、本当に小さな声が届きました。

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