第3話〜青い羽の奇跡

…………。


今日もまた、少年と青い鳥は遊んでいました。


勉強や習い事があるので毎日は遊べませんが、数日おきには少年は森に来ていました。


笛を吹くとそれを合図に青い鳥はやって来ます。


笛を吹いて、一緒に歌って、森を散歩して。


早朝の散歩に、勉強の合間に、1人と1羽は目一杯遊びました。


最近は父親も怒る事が少なくなり、少年の自由な時間も増えました。


生活も少し豊かになったようです。


少年はまた新しい楽譜を買ってもらい、青い鳥と共に曲を奏でます。


…………。


今日は森の探検です。


危ないので森の奥には行きませんが、森の縁沿いを進んでいきます。


普段は行かない場所まで。


見覚えのない景色は少年の冒険心をくすぐります。


赤い実の成る木、綺麗な小川、森の生き物たちの鳴き声。


森には色んなものがあって、少年は注意が散漫になっていました。


「いたっ!」


そのせいで、足元にある木の根っこにつまずいて転んでしまいました。


手のひらを擦りむいて、血がにじみます。


指先にも小さな傷ができてしまったようです。


傷のせいで笛が吹けなくなる、手の傷を見て少年が真っ先に思ったのはそんなことでした。


痛みよりもそちらの方が少年にとってはショックでした。


実際は傷はそんなに深くありませんでしたし、数日もすれば全く気にならなくなるようなケガだったのですが。


目に涙を浮かべた少年の傍に、青い鳥が降り立ちます。


少年とその怪我をした手を何度か見て、何やら覚悟を決めたようです。


少年の手に向かって翼を広げました。


「……え?」


一瞬、青い鳥の羽が淡く光りました。


すると、少年の手から痛みがスッと無くなってしまったのです。


代わりに青い鳥から羽が一枚、はらりと抜けて落ちました。


抜けた羽は色褪せて、真っ白です。


「もしかして、君が治してくれたの?」


それは青い鳥、ルリルルの持つ奇跡の力でした。


手のひらにも、指先にも傷一つありません。


「ありがとう。でも…」


少年は感謝と共に友達の羽が一枚でも死んでしまったことを悲しみました。


青い鳥は悲しむ少年の肩にとまり、頬に頭をすりよせます。




羽ならまた生えてくる。


それよりも友が元気な方が嬉しい。




まるでそう言っているようでした。


少年は青い鳥に感謝し、青い鳥は少年に優しく寄り添います。


1人と1羽の友情はこうして深まっていくのでした。


そして…


離れた位置からその光景を見ていた人影には、最後まで気づく事はありませんでした。


しばらく前から少年の後を追いかけていた人影。


その正体は…

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