第99話 アップデート待ち
島主の館の窓枠の中で、創造神だと称する美青年が、抑揚の少ない中性的な声で改変後の世界について語っている。
その様子を眺めながら……。
「結局、
ケインがぼやいた。
「それは無理だって、最初からナンシー先生が言ってたじゃん」
マイマイがケインの背中を叩く。
創造主が設計した枠組みを逸脱することはできないと、ナンシーが断言していた。
ケイン達が不具合や問題点を指摘し、より完成された"ゲーミングワールド"にするために提案した事項の内、6割程度が採用されたようだったが……。
ケイン達は"ゲーム"がやりたいわけではない。
人類が滅亡する確率を少しでも下げるために、あれこれ画策していたのだ。
初めて渡界した時に、人類の滅亡を確信した。
地球の人類は、理解どころか知覚すらできない存在を相手に、一方的に"遊び"を押しつけられたことを体感したからだ。
「……今回の改変で、滅亡を回避できると思うか?」
ケインがキララとマイマイを見た。
「大丈夫でしょ? 最初の状況よりは、かなりマシになったわよ」
「少しは地球側も落ち着くんじゃないかなぁ……モンスターエリアの仕切りを設置できたのはおっきいよぉ~」
2人が缶ビールのタブを引き開けた。
"神の啓示"は、まだまだ続きそうだった。
***
・ステーションから最初に渡界する場所が、"神の大地"から"始まりの島"に変更された。これに伴い、新たに"始まりの島"が配置される。
・ステーションに連続して滞在できる時間は、48時間を上限とする。
・ステーション内に、ワールドマップが設置された。
・ステーション内に、地球側の"鏡"と交信できる魔導装置が設置された。
・ステーション内に、別のステーションと交信できる魔導装置が設置された。
・ステーション内に、別のステーションと物品の取引ができる魔導装置が設置された。
・シーカーズギルド内に、モンスターのデータベースが設置された。
・シーカーズギルド内に、対モンスター戦闘訓練施設が設置された。
・
・
・
***
創造神の声と共に、画面の文字列が次々に流れていく。
一度で把握できるような情報量ではなかった。
「細々したところは、ピクシーちゃんのヘルプで確認すればいいのよ」
「やったら分かるよぉ~」
几帳面にメモを取っているレンを見て、缶ビールを片手にキララとマイマイが笑っている。
「前からあったステータスの項目が、【ステータス】と【キャラクターシート】に分かれるぜ。ステータスはシーカーズの検索情報なんかに公開されるが、シートの方は非公開になる」
さきいかを
「大きな仕組みは何も変わってないわ。神様ごっこをしていた思念体を、魔王という
「イーズの商人とか、まんまキーキャラだよねぇ~」
マイマイが赤ら顔で缶ビールを呷った。
「イーズの商人を島から追い出しましょうか?」
レンは、"神の啓示"をメモしている手を休めてマイマイを見た。
「なんでぇ~? いいじゃん、イベント上等じゃん!」
「でも、何か変なイベントが起きたら大変なことに……」
「どうせ、魔王を倒すでしょう?」
不意に、キララが言った。
「えっ?」
「あいつらに狙われているわよね?」
「……間違いなく、目を付けられたと思います」
レンは頷いた。
「なら、絶対に襲ってくると思うよぉ~? だって、自分達が悪者にされちゃったのは、私達のせいだって思ってるもん」
「そうね。
キララが笑う。
「まあ、そうだろうな」
ケインも笑っていた。
「改変したのは、ナンシーさんですよね?」
「でも、今回の改変のために不具合の洗い出しとか、不正介入の痕跡探しをやったのは私達だから。そのくらい、あいつらは分かっているわよ」
「魔王討伐とか、王道ど真ん中じゃん! やっちゃえ、レン君っ! ぶっとばせぇ~!」
ビール缶を振り上げてマイマイが吠える。
「……魔王って、どんな生き物なんですか?」
「魔王は……魔王よ」
キララがマイマイを見た。
「角が生えた兜かぶって、黒マントを羽織ってるイメージかなぁ~?」
「どんな銃を……武器を所持しているんですか?」
武器の種類くらいは把握しておきたいが……。
「えぇ~ 鉄砲じゃないと思うよぉ? おっきな剣とかじゃないのぉ~?」
「魔王といったら魔法でしょ?」
キララが言う。
「銃は使ってこないんですか?」
イメージが纏まらずに、レンは首を捻った。
「まあ、魔王ってのが登場するゲームは"剣と魔法の世界"が多いからな」
ケインが参加する。
「鉄砲が効かないかもぉ? バリアで護られてたり~?」
「あるかもしれねぇな」
「剣は見えますけど、魔法は……肉眼で見えますか?」
レンは、いつかの試練で遭遇した手強い人形を思い出した。あの時の人形は、光刃の付いた腕を飛ばし、強力な魔導砲を撃ってきたが……。
「さぁ~? ゲームなら……派手なエフェクトが出るよねぇ?」
マイマイが新しい缶を開けた。
「理不尽なくらいに、大規模な攻撃魔法を連発してくるんじゃない? 生命力も無尽蔵かってくらいあって、ダメージを与えても回復しまくる感じかな?」
キララも次の缶に手を伸ばす。
「そうだな。魔王というくらいだ。半端な強さじゃねぇだろう」
ケインが頷く。
「……そんなのと戦うんですか?」
レンは、顔をしかめた。
仮に、試練で襲って来た人形が、壊しても壊しても再生して攻撃してくるとなると……。
「レン君は、特異装甲があるじゃない。あれ着てたら魔法なんか効かないんじゃないの?」
「特異装甲……」
レンの表情が曇る。
手に
「しかし、魔王だぜ? 人間の装備で防げるような魔法じゃねぇだろ?」
「魔王のデータは教えてもらえなかったのよね。居場所も分からないし……でも、特装なら何とかなるでしょ?」
「……っていうかぁ~、そんな無敵ちゃんなら、向こうから襲ってくるんじゃなぁい? レン君の居場所くらいわかってるよねぇ?」
マイマイがケインの手からさきいかの袋を奪った。
「それもそうね。向こうから来ないってことは、何か制約があるのか……レン君を警戒しているのかも?」
キララが頷いた。
「そりゃあ、まだアップデートが終わってねぇからだろ?」
「魔王より強くなっちゃえばいいじゃん!」
「モンスターを狩れば金策にもなるし資源も手に入る。時間はかかっても、魔王より強くなれるはずだぜ」
ケインがマイマイからさきいかを取り返した。
「魔王の方は能力固定でしょ?」
こういうゲームのお約束で、どんなに時間を掛けても魔王の強さは変わらず、プレイヤー側だけが強くなっていくものなのだそうだ。
「海の魚を狩って強くなれますか?」
この辺で狩ることができる手頃なモンスターは、海の巨魚になるが……。
「レベルのような明確な線引きは無いけど、モンスターを討伐すると身体能力がじわじわと向上して、所持しているスキルの性能がアップしていくわ」
「今まで、かなりの数を狩りましたけど、それはノーカウントですか?」
試練で遭遇したモンスターだけでなく、赤い巨鳥や巨大なトカゲ、オオカミ、蟻やネズミ、ファゼルナの飛空兵、デシルーダのゴブリン等々、レンはかなり多くのモンスターを討伐してきた。
「しっかりカウントされるわ。"神の啓示"が終わったら、ピクシーちゃんを呼んで持ち越し
「分かりました」
レンは安堵しつつ頷いた。
どうやら、これまでの戦闘経験は無駄にならないらしい。
「イーズの商人はどうする? イベントに絡みそうだが……」
ケインが訊ねた。
現在、第九号島にはイーズの商船長が2人も滞在中だ。
「ファゼルダの情報をくれなかったんでしょ? 適当に距離を置いて様子見でいいんじゃない?」
「そうか。それでいいか、レン君?」
「……そうですね。ファゼルダ、デシルーダ、それから魔王の情報を売ってくれるまで相手にしなくていい気がします」
「よし! その方針で、イーズの商人は俺達が相手をしておこう」
「仮に情報を売ってくれると言っても、本当に正しい情報かどうかは分からないわ。自力で情報を手に入れる方法を考えないと駄目ね」
「イーズの商人、美味しいお酒とか持ってないかなぁ~?」
空になった缶ビールを振り振り、マイマイが呟いた。
「……それにしても、長いわね。こんなのデータでポンと配っちゃえば良いのに」
キララが溜息を吐いた。
未明から始まった"神の啓示"が、まだ終わらない。
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魔王と戦うことが、既定路線になっている!
"神の啓示"が長過ぎる!
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