第47話 スキル

 まさかぶつけてくるとは思わなかったのか、あるいは回避の余力が無かったのか……。

 ミルゼッタが強引な操船をやり、レンとユキが待機している艦橋を白い船の左翼側に擦りつけながら速度を合わせた。



 ギィィィィィ……



 耳障りな金属同士の摩擦音が鳴り、激しい振動が船体に伝わる。

 その衝撃でM2重機関銃の銃撃で破損していた白い外壁が歪み、長さ3メートルほどの亀裂が開いた。

 接舷できたのは、ほんの数秒の間だったが……。


『探知範囲内に、ゴブリンタイプのナノマテリアル体が多数存在します』


 すでに補助脳が探知を終えて、船の透過図を描画し始めていた。補正された視界内に、"ゴブリンタイプ"を表す光点が多数点在している。


「閃光弾使うよ」


 レンは、白い船の亀裂めがけて跳んだ。

 まだ空中にいる内に亀裂めがけて閃光発音筒を放り込む。170デシベルの爆発音と100万カンデラの閃光を発する手榴弾だ。


(……ぐっ)


 鼓膜を打つ炸裂音に耐えながら閃光の中へ跳び込むと、レンは棒立ちになっている灰色のゴブリンを撃ち倒して奥へと走った。

 運良く通路の中に入れることができたらしい。


(右から2、左が1)


 背後から来るユキに合図をしながら、T字に分かれる通路の先へ閃光発音筒を放る。


 通路右の2体をレンが、左の1体をユキが射殺した。

 ゴブリンタイプの急所は脳がある頭部と胸腹の神経節へ繋いでいる頸部、そして背骨に沿って点在する複数の心臓だ。胸部や腹部などは少々破損しても動き続ける。

 レンは、やりたくもない解剖をしたおかげでゴブリンの構造に詳しくなっていた。


「奥から3体来ます」


 報告しながら、ユキがHK417で狙い撃つ。


「楯持ちが来た」


 体が隠れるほど大きな楯を構えたゴブリンが通路を封鎖しながら進んでくる。

 レンはピンを抜いた衝撃手榴弾を天井すれすれへ放りながら、床に片膝を突いて射撃した。

 狭い通路だ。ゴブリンが3体並ぶと通れなくなる。


(でも、あのぐらいの楯なら……)


 レンとユキはHK417を連射した。

 ゴブリンが構えている大きな楯に銃弾が命中して激しく揺らす。かなりの銃弾が貫通してゴブリン達を穴だらけにしていた。おそらく、魔導銃の光弾を防ぐための楯なのだろう。実弾に対しては、あまり有効では無さそうだ。


 直後、楯越に銃弾を浴びながらも楯を構えて動かないゴブリンの背後で、放物線を描いて落ちていった手榴弾が爆発した。

 楯を持ったゴブリンを先頭に、後ろに連なっていたゴブリン達が跳ね転がる。


(どこかに、黒い奴もいるのか?)


 周囲に気を配りながら、レンは倒れて足掻いている灰色のゴブリンの頭部に銃弾を撃ち込んでいった。



******


 オフィサー [ ゴブリン・ジャック ] を討伐しました!


******



 案の定と言うべきか、目の前に銀色に光る字が浮かび上がった。



 討伐ポイント:490

 異能ポイント:14

 技能ポイント:8

 採取ポイント:0



(楯持ちも、同じ種類なのか?)


 死骸を見ながら、レンは通路の突き当たりめがけて衝撃手榴弾を放った。


「後ろは来ません」


 背中合わせに、ユキが後退してくる。



 ドォーン!



 重たい爆発音と共に、通路の空気が揺れる。

 レンとユキは躊躇無く通路を駆け抜けると、HK417を構えて曲がり角から飛び出しながら引き金を引く。

 レンは水平方向を、ユキが床面めがけて銃撃した。

 短い魔導銃を握っていた灰色ゴブリンが全身に銃弾を浴びて仰け反る。突進したレンは、仰け反ったゴブリンに体当たりをして後続のゴブリンめがけて押し倒し、低い姿勢のままHK417を連射して止めを刺す。


「増援、来ます!」


 短連射をしつつ通路奥を牽制していたユキが声を上げた。呼吸を合わせて、レンとユキが破片手榴弾を放り、止めを刺したばかりのゴブリンの死体を引きずり起こして壁にする。


「8体見えました」


「追加で2体」


 弾倉を入れ替えながら言葉を交わした直後、手榴弾の爆発音が腹腔を揺すった。



******


 オフィサー [ ゴブリン・ジャック ] を討伐しました!


******



 討伐ポイント:280

 異能ポイント:8

 技能ポイント:3

 採取ポイント:0



「これ、一々うるさいですね」


 ユキが銀色の文字を見ながら顔をしかめている。ある程度は纏めて表示されるようだが……。


「行こう」


 レンは、ゴブリンの死骸を捨てて走った。


 探知した情報が視界に表示されている。

 扉の後ろ、壁の向こう、通路を曲がった先……。

 ゴブリン・レイスのような魔法を使わない限り、レンには相手の居場所が分かる。

 目視できない場所は、補助脳が音と熱と魔素、ナノマテリアル等から対象位置を割り出す。その上で、探知した対象に ▽ 記号と通し番号が振られる。レンが意識すれば、周辺の俯瞰図を表示してくれる。

 補助脳による支援は、恐ろしいくらいの優位性をもたらしていた。


 レンとユキは、【アイテムボックス】によって持ち込んだ潤沢な手榴弾と銃弾を惜しみなく使用して船内を制圧していった。


(ゴブリンだけ? 他にはいないのか?)


 灰色の外殻をしたゴブリンばかりが出てくる。所持している武器や外殻の形状が多少違う程度で、脅威の度合いとしては大差ない。外殻の強度は、通常の防弾チョッキ程度だ。試しに使用した9ミリ自動拳銃は防がれたが、MP7の4.6×30mm 弾は問題なく貫通した。HK417の7.62×51mm 小銃弾は、固い頭部も問題無く撃ち抜ける。


(船内の熱源位置を再取得)


 広々とした船室を見回しながら、レンは補助脳に探知情報を表示させた。


(……この光点は?)


 こちらに集まってくる光点とは別に、留まって動かない光点がいくつかあった。


『含有するナノマテリアル量が5%多い個体です』


(それって多いの?)


『誤差の範囲です』


(……ふうん)


 いずれにせよ、灰色ゴブリンとは別種らしい。


(この動かない奴をマーク。こいつらへ辿り着く最短経路を出して)


『順路表示します』


 補助脳のメッセージと共に、視界に青い破線が浮かび上がった。


「この銃は初めてですね」


 ゴブリンが所持していた魔導銃を拾い上げてユキが呟いた。これまでは大型の拳銃のような魔導銃ばかりだったが、ユキが拾った魔導銃は発射筒が三つ合わさったような形状をしていた。


「回収しておこう」


 レン達には使用できないが、どこで役に立つか分からない。

 迫ってくるゴブリンの光点を見ながら、手早く魔導銃や楯などの装備品を拾って【アイテムボックス】に収納する。


「次、正面扉向こうに7体……待ち伏せてる」


 レンはユキに伝えながら銃座を出して、M2重機関銃を据え付けた。



 ダダダダッ! ダダダダダダダダッ……



 扉ごと撃ち抜いてから、M2重機関銃を【アイテムボックス】に収納する。


「正面突き当たりの小部屋に1体いる」


 先行して駆け出したユキに伝えながら、12.7×99mm 弾を浴びて散乱しているゴブリンの残骸からめぼしい物を回収する。



******


 オフィサー [ ゴブリン・ジャック ] を討伐しました!


******



 討伐ポイント:460

 異能ポイント:14

 技能ポイント:2

 採取ポイント:0



 また討伐表示が浮かび上がった。


 その時だった。



 ダギィッ……



 重たい衝撃音が聞こえてきた。先行するユキがいる方だ。


(まさか……)


 レンは、HK417を手に走った。


「……これは?」


 部屋の中を覗き込むなり、レンは動きを止めた。

 赤茶色の外殻をしたゴブリンが床に転がっていた。壁際に、突起が付いたヘルメットのような頭部が転がっている。これまでの灰色ゴブリンより一回り大きい。


「ユキ?」


「銃弾が弾かれたので、膝を蹴ってからナイフで首を狙いました」


 ユキが手にしたナイフを見せる。64式銃剣が柄元からひん曲がっていた。

 膝下を刈って姿勢を崩したところをナイフで攻撃する。戦技課で訓練する基本の近接戦闘術だった。

 今回は、銃剣で突かずに首の切断を試みたらしい。


「膝を蹴った時に凄い音がして……ああなりました」


 ユキがゴブリンの片脚を指さす。

 ゴブリンの脚が膝から折れて曲がっていた。全体に外殻の厚みがあり、灰色ゴブリンより頑強そうな雰囲気だったが……。


『パワーヒットの効果です』


 視界に、補助脳のメッセージが浮かんだ。


(パワーヒット?)


『使徒ちゃんのイベント報酬です』


(……ああ)


 レンはわずかに眉をひそめた。すっかり忘れていたが、そんなものがあった。



******


 オフィサー [ ゴブリン・ブレイカー ] を討伐しました!


******



 討伐ポイント:200

 異能ポイント:10

 技能ポイント:4

 採取ポイント:0



 沈黙する2人の前に、討伐表示が浮かび上がった。







======


レンとユキが暴れている!


ユキの"パワーヒット"が発動した!

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