第20話

 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。


 でも「隣の席」でいられるのは、今日が最後かもしれない。クラスで席替えが行われることになったからだ。


「席替えって、どうして必要なのかしらね」


 徳大寺さんが物憂げにつぶやいた。


「確かに、荷物移動があるし面倒だよね。でも、席替えしてもずっと隣になるね」

「そうね」

「偶然って続くものなんだね」


 これまで3回席替えが行われたけれど、僕と徳大寺さんはなぜかいつも隣だった。

 こんな偶然って、本当にあるのだろうか。


 僕たちのクラスの席替えは、タブレットのアプリで行われる。クラス全員分の名前を登録しておくと、自動で席を振り分けてくれるものだ。目が悪い人なども考慮されるので、とても便利だった。


 今回もそれを使用して、滞りなく席替えは終了した。

 嬉しいことに、僕は窓際の席になった。そして隣は――


「また隣だね、徳大寺さん」

「ええ、よろしくね」

「これで4回連続で隣の席かぁ。僕たち、縁があるのかな」


 すると、徳大寺さんが意味ありげに含み笑いをした。


「私、縁というものは黙って待っていても繋がらないと思っているの」

「さすが、深いね」

「浅いようで深いけれど、その実、とても浅いかもしれないわよ」

「どういうこと?」

「縁は実力で引き寄せて掴む、ということよ」


 そう言って、徳大寺さんは右の拳を力強く握った。


 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは変わっている。

 クラスで使っている席替えアプリの制作者名が「AKARI TOKUDAIJI」だと知ったのは、もう少し後のことだった。

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