第9話

 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。


 クラスの女子と連れ立っているところを見たことがないし、いつもひとりだ。

 そんな彼女の持っている文房具などはとても女の子らしくて、どこか繊細な雰囲気の物が多かった。


 ある日の10分休み。徳大寺さんのスマホが、机の横にかけているバッグから床へ落ちた。


「あっ、シャルル……」


 衝撃で、スマホについていたストラップが割れてしまった。シャルルというのは、そのストラップの名前だ。 


「あ、シャルルが割れちゃったね」

「仕方ないわ……儚いガラス製だから。これ、もう5代目ぐらいかしら」

「ずっとガラス製の物なの?」

「そうなの……こわれそうなものばかり集めてしまうの」

「そうなんだね」

「やっぱり……ガラスの十代なのよね」

「え?重大?なにが?」


 僕はまた、徳大寺さんが何を言っているのかよく分からなかった。


「……また少し、世代を間違えてしまったわ。その昔、ローラースケートを履いたアイドルがそう歌っていたの」

「そうなんだ。とにかく、儚いんだね」

「そうなの。とにかく儚いのよ、十代は」


 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 ちなみに、彼女のスマホケースは、米軍採用品の選定基準をクリアした耐衝撃性だった。

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