第6話 乙女ゲームを復習しましょう2 ★
※書き直しレベルの加筆修正をしました(2021/09/02)
(ウィルの事は前に振り返ったけど、一番近くにいたし、もうちょっと思い出せるはず……書けるだけ書いてみるか。ゲームとの相違とか何かわかるかもしれないし)
まだまだ不調の最中だったのもあり、思い返したと言えど十分ではない。
俺はウィルことウィリアム・ジュードとノートに名を書くと、先に思い出した部分を書いてから、改めて彼の事について考え始めた。
(ゲームとの違いはあんまり無いんだよなぁ。真面目で誠実で、ノエルの事もちゃんと見てくれているし)
アルフレッドが倒れたあの日。ノエルの事を『悪役令嬢』と罵ったアカリに対し叱責していたウィリアムは、確かにノエルの事を良く言っていた。それも、ちょっと私情が入っていそうなまでに。
(そう考えると複雑だけど、ノエルの味方がいてくれるのは有り難いな。ゲームの中の彼女は孤立しがちだっったから、誰か理解してくれる人がいて良かった)
何も悪くないのに、ゲームのノエルはアルフレッドたちに目の敵にされて孤立していた。それでも堂々と胸を張っている彼女は眩しく見えたものだったが、孤独な面がどうしても気になっていた。
だからこそ、ゲームのウィリアムが彼女を庇うシーンでは、俺は彼の事を盛大に褒め称えた。今思えばオタクの極みみたいな行動だったが、それぐらいウィリアムには感謝いていたし、実際の彼もノエルを守ろうとしてくれている事に頭が上がらない。多少の私情も許容してしまう。手を出すのは許さないが。
(ノエルとのことはこれで良いとして、ウィルの家族構成とか、どうだったっけ?)
うーん と、首を傾げて考え込む。
脳裏に浮かぶのは、ウィリアムと同じ黒髪に金色の瞳をする、弟より優しい目付きのこれまた美丈夫の姿……
(……ヴィクター。そうだ、ヴィクターだ! ウィルと六つ離れたジュード家嫡男の優しいお兄さん!)
思い出せて良かったと安堵する。
友人の兄。それも日頃から目を掛けてくれる人を思い出せないなど、恥の極みでしかない。
(アルフレッドの事を弟のように接してくれてたな……優しい人だ)
要はそれだけ交流があり構ってくれているという事で、思い出せないまま会う事になっていたらと思うと、冷や汗が流れた。
薄情な人間だと思われたくないし、ただですら少ない信頼を完全に失うもの怖すぎる。
(よく登城してその度に挨拶に来てくれるし、それだけ相手にしてくれているから、流石にアルフレッドも覚えてるか)
彼らの祖父が王宮の片隅で剣の稽古をしているのもあり、弟ほどではないけれど、祖父に会いに彼もよく王宮に来ている。その際に、別にこちらに用はないだろうに挨拶に来てくれるのだ。時間があれば遊んでくれる事もある、ウィリアムと同じでお兄さんタイプだ。というより、実際お兄さんなのだけど。
(後は、確か四つ上にお姉さんもいたはず。最近婚約が決まったとか聞いた気がするし。ご両親も健在だしな。後は……妹か)
そこまで書いて、ふと違和感を覚える。
アンジェリカ と、少女もといアカリに向かってウィリアムは呼んでいた。だが記憶の中にアンジェリカという名は何処にも存在していない。
(聞いてなかった……なんて事はないな。姉の話は聞いてるのに、妹の話を聞いてない事は流石に無いかな)
顎に手を当てて考える。
話しを聞き流していた訳では無いとすれば、彼らから話しを聞いた事がなかった事になる。
(妹の話だけしないなんて事あるのか?)
ウィリアムからもヴィクターからも、そして彼らの祖父・ビルからも、ジュード家の末娘の話を聞いた事はない。姉の婚約の話しは出るのに、あの仲良し家族にしてはおかしい話しだ。
(だとしたら、従妹とか? だったらウィルの事をお兄ちゃんって言ってもおかしくないけど……うーん、違和感)
そこら辺も会った時に聞こうと、今度はメモ長を開いて“聞きたいことリスト”の中に書き込んでいく。
謎がある分モヤモヤするが、ウィリアムの苦労してるだろう姿を思い返すと同情の気持ちが強くなってくる。
(大変だよな、俺も前世そうだったし……性被害に遭ってないといいけど)
違和感以上に危機感を強く覚えて、思わず身震いしてしまった。
まだ幼いし大丈夫だろう、と、思う反面、中身はあの十八才のアカリだと考えれば、そんなのお構いなしに手を出しそうで怖い。
(ウィルにはなるべく早く話しを聞かなきゃな)
対策ノートとメモ帳にそれぞれ書き込み、次はウィル以外の攻略対象の事を書こうと記憶を掘り起こし始めた。
(確か……ウィル同様幼なじみであり未来の側近候補で、三大貴族の内の二家と、魔導師団団長の伯爵家の嫡男だったな)
ゲームと変わらないのかと、変化の見えない人間関係に何とも言えない思いを抱きながらアルフレッドの記憶を巡っていく。
王家に派閥があるように、貴族にも勿論派閥が存在する。
この国の貴族は大きく分けて三つの派閥で構成されており、一つはノエルの家の本家であるランベール公爵家。本題のニ家は、一つは前王妃であり俺の祖母の出であるコートネイ公爵家で、現王妃であり俺の今世の母親の実家であるマスクウェル公爵家。この三家が下の貴族をまとめ、王家を支えてくれている。
因みに、王家に嫁ぐ令嬢は、この三家から順番に選ばれる。公爵家に令嬢がいなければ、その家に連なる家から選ばれる。伯爵家の令嬢であるノエルが俺の婚約者に選ばれたのは、公爵にも侯爵にも令嬢がいなかったからだ。
(物凄い確率だけどな。強制力の一つなんだろうか……)
俺としてはノエルが婚約者で嬉しいが、これが本当に強制力が働いた結果なのだとすれば、今後の展開を注意しなくてはならない。
今は心からノエルを幸せにしようと誓っていても、強制力はそんな意志すら一瞬にして消し飛ばしてしまう。気付いた時には手遅れ……なんてシーンをライトノベルでたくさん読んだ。本当に気をつけたいところだし、俺以外に危ない奴がいれば、今のうちに矯正……もとい真っ当な人間になってもらえるよう尻を叩かなければ。
(まずはコートネイのところのリオンだな。今のところ、目立った何かがあるわけじゃないけど……)
俺の幼なじみの内の一人――リオン・コートネイ
彼は前王妃の血筋で、ゲームの中ではアルフレッドの側近の一人として側にいる。
ウィリアムと一緒で真面目で公平さを持つ。が、ちょっと……否、大分頑なな部分がある。俺の言えた事ではないけれど。
(ゲームでも、青髪紫目の見た目麗しい感じだったな。現宰相が開くサロンに参加しては次期宰相になれる様に学んでた――けど、マリアに惹かれて彼女との時間を大切にするようになったんだったな。婚約解消もしちゃうし)
始めこそ、貴族のマナーがなっていないマリアに対し渋い顔をしていたリオンだったが、関わっていく内にマリアの内面を知って惹かれて行き、最後は結ばれるのが彼のルートだ。
(けど……)
ゲームの彼と現実の彼を比べて、どうにも気持ち悪い感覚に俺は唸った。
(今はまだ十才だけど、それでも現実のリオンがそんな簡単にマリアみたいな子に惹かれるとは思えないんだよねぇ。今ですら宰相と関わろうと必死になって働きかけてるし、婚約者にもゾッコンなのに)
既に将来を見据えているリオンは、親の手助けなしに頻繁に登城しては宰相の話しを聞こうと奮闘し、大人に交じって講演会にも出席している。以前『聞いてて意味わかるの?』と尋ねた事があったが、彼は『今はわからなくても、いつか疑問と疑問を繋ぐピースになるからな』と、爽やかな笑顔付きの答えを返してきた。我が友人ながらあっぱれな返答だった。今更ながらに拍手したくなってきた。
(婚約者……リリーシア嬢の方はさておき、少なくともリオンの方は彼女を大切にしてるように見えるけど)
リオンの婚約者――リリーシアは、コートネイ家の分家筋のご令嬢だ。
ゲームでは名前すら出てこないモブ令嬢だったが、二人の仲は大人ですら羨ましがるほど良好だ。元々相性が良いのだろう。彼女も一緒に講演会に出席するというのだから、お似合いのカップルなのだと思う。
(だからそ納得出来ないんだよなぁ。婚約者大好きのリオンがそんな簡単に心変わりするのか? イアンじゃあるまいし)
リオンとリリーシアの間にクエスチョンマークを書いて、次は頭に浮かんだ顔の人間に関して考えを巡らせていく。
イアン・マクスウェル
攻略対象の一人で、ウィリアムやリオンとは大分違った性格の幼なじみだ。
(ゲームで必ずいる女たらしキャラかぁ……この年から女の子大好きとか、お兄ちゃん心配になっちゃうよ)
光に当たると微かに紫かかる銀髪を持ち、天使の微笑みと云われる程の完璧なスマイルを作る彼は天性の女たらしで有名だ。
本人の中ではちゃんとボーダーラインが引かれているようだが、毎度違う淑女と一緒にいるのを目撃する。人のことは言えないが、将来が心配になってくる少年だ。
(まぁ、外見年齢関係なく女性に紳士的なのは評価するけど)
イアンは確かに女好きだが、誰とでも分け隔てなく関われるのはある種の才能だ。しかも彼はただの女たらしではなく、男も会話を楽しませる事が出来る。老若男女繋がりを持てるのは誰にでも出来る事じゃない。
(年齢や性別、性格に相手の好みと、話題も豊富……要はそれだけの知識と情報を蓄えてるって事だよな。相手に対して会話を変えられる……十才でそれが出来るのは才能と言っても過言じゃない)
争いも起こさないしな、と、ノートに書き込んで行く。そう考えると、女たらしというよりも、単純に人が好きなように思えてならない。
(うーん……近々会って見極めなきゃ。そう言えば、イアンの家系の事も他と比べて情報が少ないし、そこら辺も踏まえてもう一度しっかり向き合わなきゃ)
ゲームでは、女たらしのイアンを一途にさせるのがマリアだった。が、彼が女好きというより人付き合いが好きという予想が当たっていれば、イアンルートもまた違ってくるのではないだろうかと、そんな気がしてくる。
婚約者がいないので比較的穏やかなルートだが、不穏な芽は摘んでおきたい。骨は折れるが彼の事も手を抜く訳にはいかないのだ。
(イアンも取りあえず会ってから、という事で、次は魔導師の家系――ディルクだな)
最後の友人であり攻略対象の名を書き込む。
ディルク・プラネルト
父親が魔導師団の団長で、プラネルト伯爵家の嫡男。それが彼だ。
彼自身も魔導師として活動をしており、繊細で強大な術を扱う彼は歴代魔術師をとうに超えているという、生まれながらの天才だ。
(でも身体は普通の十才と同じなんだよな。俺たちと遊ぶようになるまでは、確か寝たきりだった筈。魔力量が多すぎて、身体に負荷がかかり過ぎてたんだったな)
よく持ち堪えてくれたな、と、アルフレッドの記憶を漁ってしみじみとする。
膨大な魔力を持って生まれてくるのは、魔導師の家系では大歓迎される事ではある、が、彼の場合は違った。
(まさか一族総出で魔力を根本から減少させる方法を探す事になるとは、想像すらしてなかっただろうな)
生まれながらに魔力が高いのは、それだけ身体に負荷がかかる。
ディルクは起き上がる事も困難なほど影響を受けていたため、医師からは『そう長くは生きられないだろう』と云われていたらしい。
当時はディルク同様アルフレッドも幼かったため、単純に病弱とだけしか聞かされていなかった。暫く経ってから真実を知って、その衝撃にアルフレッドも唖然としたようだ。
(アルフレッドでもその反応なんだから、家族はもっとショックだっただろに)
魔導師としては高い魔力は喜ばしい事だ。しかし生死に関わるとなれば話しは別だ。
プラネルト家は息子の命を最優先に考え、魔導書や各地の遺跡に何かヒントはないかと探しまくったそうだ。
(知らない間に元気になって一緒に遊ぶようになったんだよな……どんな方法だったんだ?)
記憶を漁るも、そこら辺の情報は何も出てこなかった。とすると、本当に何も知らないのだと悟る。
家庭の事情の範囲なので深入りする気もないが、彼の症状を伏せられていた事を考慮すると、意図的に隠されている気もしてくる。
(まぁ、今は魔術師団の団員として各地に飛び回るぐらい元気になったからいっか。婚約者との仲も良好なようでなによりだよ)
ディルクにも婚約者がいる。会った事はないが、婚約者殿もまた魔術師らしく、大体一緒に行動しているらしい。十才で名のある魔術師になるとは……天才夫婦になりそうだ。
(たった十才で魔術師団に入る才能と度胸と余裕があるのに、自信がなくて落ち込んでるところをマリアに励ましてもらって惹かれるっていうのも、なーんか有り得ないんだよなぁ)
考えれば考えるほど、周囲の人間がぽっと出の少女に心を奪われる未来が遠ざかっていく。
ゲームの中の彼らとはまるっきり違う以上、たとえマリアが登場したとしても同じにはならないだろうが、まだ先は長いので油断出来ない。なんとしても、ノエル断罪を回避しなければ……
「まぁ……俺、というかアルフレッドが一番注意しなきゃなんだけど」
他の攻略対象以上に自分が悪い事を改めて突き付けられて、俺はノートの上に突っ伏した。
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