戦争開始の合図
第1話
メルジーナ様より任務を受け取った俺は、現在夜のジャパニカの街にいた。夜だと言うのに、街は活気づいており、道では商魂逞しい商人たちが声を上げて客寄せをしていた。
こんな時でもなければ何か買っていくのになぁ……。
いい匂いをさせている店からなんとか視線を逸らしながら、領主が住んでいる館へと向かう。前にここに寄った時は、領主の館は見なかったが、場所は分かる。
この街の端っこにある小高い丘上にある館。あれが領主の家だ。
ジャパニカ領主サクラ家。メルジーナ様から貰った情報によると、この街を作り上げた初代領主『オサム・サクラ』という人物は異世界からの来訪者……らしい。
何故断定系じゃないのかと言うと、ジャパニカが何百年も前に作られた街だということと、そもしも初代領主の情報があまり残っていないということ。
ひとついえるのは、この街の名前の由来も、人気の食べ物もその初代領主の故郷のもの――――に似ているらしい。
「……異世界ねぇ」
この前倒した魔神ビンスフェルトも異世界から来たということらしいし……もしかして異世界ってそんな簡単にビュンビュン移動できるのか?
もしそうなら試してみたい気もするが、失敗したら怖いから辞めとく。それに、この世界には嫁も沢山いるし。
さて、話が脱線したな。とりあえずさっさと領主の館に向かうか。
俺は路地裏へと入り、自身に隠密の魔法をかけてから空を飛んで丘へと向かった。歩くよりもこっちの方が早いからな。
最短ルートで館へと向かい、門の手前で降りようとしたが――――辞めた。
あれは……王都の騎士?何故門番のように入口を見張っている?
メルジーナ様からの情報によると、普段この時間帯に門番の私兵はいないはずだ。しかも、王都の騎士が居る……嫌な予感がするな。
正々堂々真正面から入るかどうか迷ったが、別に迷うこともなかったので堂々と騎士の前に姿を現す。
「!貴様っ!なにも――――」
「止まれ!関係者以外立ち入り――――」
「はいはい、少し眠っててな」
門の前にいた二人を魔法で眠らせる。その後、二人の体に拘束魔法を掛けて立ち上がらせてから門に繋ぐ。
これで館から見れば、この二人はしっかりも門番をやっているように見えるだろ。違和感を感じることは無いはずだ。
それじゃ、お邪魔します。
門を開けて館へと入り、情報を整理する。
領主の部屋は、二階上がってすぐの部屋。今いる玄関から見てちょうど反対方向に位置している。
館をぐるりと一周して目的の部屋がある真下へとたどり着いてから魔法で飛ぶ。普段、この館の敷地内には、魔法を感知する結界が貼られているのだが、俺が侵入するために予めここ一体の結界だけ効果を無くしているらしい。
来たことを知らせるため、ノックをしようと窓を覗き込んだら――――めっちゃデブの男が領主と思われる女性を押し倒している光景が目に入った。
…………ん?
「お断りします」
夜、ティルファが丁度門の前にいた騎士二人を眠らせた頃、ジャパニカ領主であるマイ・サクラは目の前にいる男の頼み事を一蹴していた。
「何故ですかな?ジャパニカは我らアレシオンに属する街です。協力するのは当たり前では?」
マイの目の前にいる男は、でっぷりとした腹をかきながら、マイの体をじろりと舐めまわすように見る。その事に気づいているマイは、男を睨みつける。
「いいえ、違いますよデブリナ卿。ジャパニカは国から特別に戦争参加の拒否権が与えられています。なので、私達――――ひいてはジャパニカは戦争へ参加はしませんし、アレシオン軍への食料供給も一切しません」
「いいえ、するのですよ。これは王命です」
「嫌です。というかその気持ち悪い目で見ないでくれる?キモイんですけど」
ついつい、心の中で思っていることが出てきてしまったマイ。あっ、と思った頃には遅く、デブリナ卿の顔は酷く真っ赤になっていた。
――――うわっ、キモっ……。
「この私を怒らせたな……っ!」
「っ!
激昂し、マイへと襲いかかろうとしたデブリナ卿。それを見て魔法を発動させようとマイだが、何故か不発に終わる。
「え!?どうして!?」
「ふん!」
「キャッ!」
腕を掴まれ、強引に床へ倒されたマイ。慌てて立ち上がろうとしたが、すぐさまデブリナ卿が上から覆い被さる。
「嫌だ!近づかないで!息くさい!」
「ええい!まだ言うか!このままぶち犯して、私の奴隷に――――」
「何やっとんじゃゴラァァァァァ!!!」
「何やっとんじゃゴラァァァァ!!!」
パリーン!と勢いよく窓を破壊してからデブの男を蹴り飛ばす。急いで女の人の状態を確認。少し服が乱れているだけで、どうやら本格的に襲われる前に何とか介入できた。
……あぶねぇ。一瞬見た時は硬直してしまったが、何とか手遅れになる前に助け出せた。マジでよかった。
「大丈夫ですか?」
「え、えぇ……あなたは?」
「俺はティルファです。メルジーナ様の依頼で――――」
「この小僧!!!」
「!」
敵ではないとメルジーナ様の名前を出そうとしたが、後ろから蹴り飛ばしたデフが殴り掛かってきたので、急いで女の人の膝裏と肩に手を回して抱えてから回避する。
そしてその時、初めてこいつの顔を見たのだが、その瞬間脳にピーンと来た。
「お前!アクタ・デブリナ!」
「小僧!勇者パーティーにいた魔法使いか!」
どうやら向こうも俺の事を覚えていたらしい。全然嬉しくなかった。
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