第1話
夏の季節が近づいてきた。ガレオンの野郎をぶっ飛ばし、メリウスもわざと国外追放を受け、過去との繋がりを全て断ち切りただのメリウスとしてこの魔法学園に通うことになった。
メリウスに対して心配するのは、身元引受け人のことで、年齢的には100歳を軽く超えているのだが、エエルフ世界で言うならばまだまだ子供で、保護者が必要な年齢なのだが――――
「メリウスちゃんは私達で面倒見ていいですか?」
「おん?」
と、言うことなのでアリスとルーナがメリウスの保護者代わりということになった。あいつら、一体何を考えているんだ……?
とまぁ、そんな出来事からはや二ヶ月が経ち、気温も大分高くなり、何もかもがやる気を無くす鬱陶しい季節が近づいてきた俺たち、特例クラスなのだが―――
「……どうして、先生とメリウスちゃんは汗をかいてないんですか?」
「ん?そりゃカレン……俺たちが神童だからだろ?」
「温度調節……これ、確かに気持ちいいです…‐」
俺とメリウスが神童特権をこれみよがしに使い、夏の暑さを回避していた。
自分を中心とした半径50センチ程の特に効果のない簡易結界を敷き、その中だけの温度を下げているから、俺とメリウスは汗ひとつもかいていない。
説明をすると簡単そうに思うだろうが、ほんの少しの範囲とは言え、世界を騙す必要があるので、求められる技量は高く、神童以外でできる人物を俺は兄さんと父さんくらいしか知らない。
「えー……いいなぁ……先生、私にもそれかけてください……暑いです」
「ほらよ」
特に拒否する理由もないため、指をパッチンと鳴らして簡易結界を設置する。
「温度を少しずつ下げていくから、ちょうどいいタイミングで教えてくれ」
「はい…………あ、ここです!」
「ほいほい」
合図が来たので辞めると、カレンの目がだんだんと蕩けてきて「涼しい~」と寛ぎ始めた。
「よし、じゃあ全員くつろぎ始めたから、少し真面目な話をしようか」
「真面目な話―――ってあぁ、そういえばもうこんな季節ね」
「カレンちゃん?」
経験済みなカレンは、すぐさま思い当たることがあったのか、なるほどと言った感じで頷いた。一方、メリウスはこちらに来たのがその季節をとっくに過ぎていたということもあり、知らない様子だ。
「毎年恒例、全世界魔法学園対抗試合が迫ってきている」
全世界魔法学園対抗試合とは、この世界にある魔法学園全九校で行われるイベント行事である。
あらゆる側面から、どの学園が一番優秀かを決めるイベントで、このイベントの順位で序列が決まる。この序列が高ければ高いほど、入学しようと学園の門を叩く生徒の数に影響するので、この序列の順番は非常に大事で、このディルクロッドの魔法学園は、ここ何十年かはずっと序列一位に鎮座している。
「先生は出たことがあるんですか?」
「当たり前だろ。MVP取ったわ」
その対抗試合で、一番成績の良かった生徒にはMVPの称号が与えられ、その年代一の魔法使いとして名前が刻まれる。そして、俺が出た年は俺と姉さんがMVPをもぎ取り、なんと史上初二人でMVPという記録を成し遂げた。
「これを知らないメリウスのために説明をするが、まず、この学園でこの対抗試合に参加する生徒を50人まで絞り込む」
「ということは、またあのイベントね……私もあれ嫌いなんですけど……」
「安心しろ。今のカレンなら余裕で予選は突破できる」
今のカレンは、メリウスを除けばこの学園でもトップクラスの実力がある。休みの日は兄さんに揉まれているからな、自然と実力は付く。
「さて、この50人をどうやって絞り込むかなんだが、大きく分けて、知識面と魔法力面で優秀な成績を残した上位50名から選出される」
知識だけあってもダメ、魔法力だけあってもダメ。ちゃんと両方を高い水準で身につけた生徒だけが、代表選手という栄誉を貰うことが出来る。もうここに選ばれただけでかなり勝ち組だからな。将来は安泰だろう。
「知識面は、制限時間2時間の100点満点のテストを行い、魔法力に関しては、実力を示してもらう」
そう言った瞬間、カレンの目から光が消えた。どうやら去年は相当嫌な目にあったようだな。
「せ、先生。実力を示してもらうって、一体どうやって示すんですか?」
「よく聞いてくれた」
カレンの様子から気になったメリウスは手を挙げて質問をする。確かに気になるよな。どうやって実力を示すのかなんて。
まぁ、その方法は至ってシンプルだ。俺はニヤリ、と笑ってその競技の名前を告げた。
「それはな――――鬼ごっこだ」
「鬼ごっこ……?」
「あぁ、それもただの鬼ごっこじゃない。メルジーナ様が追いかけてくる恐怖の鬼ごっこだ」
逃げ、生徒。鬼、メルジーナ様。
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鬼ごっこという名の地獄
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