第4話
「それじゃ、よろしくお願いします」
「あいよ、任せな兄ちゃん」
あれから、準備を終えた二人を連れて、姉さんが用意してくれた馬車に乗り込んだ。なんと、御者さんはディルクロッドに帰ってきた時に乗ってきた馬車の御者さんと同じ人だった。何たる偶然。
馬の嘶きが聞こえ、ゆっくりと馬車が動き出す。御者さんと一言二言だけ会話をしてから二人の元に戻る。
「カレン、メリウス。今から確認しておきたいことがある」
「確認ですか?」
「あぁ、具体的にいえば、俺達の設定だ」
「設定ですか?」
カレンの言葉に頷く。別に、今まで通り先生と呼ばれてもいいが、ガレオンの手下がどこに潜んでいるか分からないし、メリウスを狙うためだけに悪魔を召喚したような奴だ。昨日みたいに悪魔が呼び出される兆候は感じ取っていないが、召喚したのが一体だけとは限らないからな。
そのことを伝えると、二人は納得して頷いてくれた。
「なるほど、そういうことでしたら先生のことを先生と呼ぶのは危険ですね。折角こうしてこっそりと殴り込みに行ってるんですから」
「あぁ、それとフォレストキシニョフに着いた時の訪問理由の方も考えておくか」
前にも説明したと思うが、フォレストキシニョフには特殊な結界が張られており、亜人以外の種族が通ろうとすると、悪人は通さないような結界になっているし、門番だっているだろう。
キシニョフに訪問する人はそこそこ多いので、観光で通るかもしれんが一応念の為である。
「そうですね……では、お兄様というのはどうでしょうか?」
「お兄様?」
「はい。私たちと先生はそんなに歳は離れていないので親と子供は不自然と言うのと、ふ……夫婦はまだ流石に早すぎますし!私まだ生徒ですから!」
「どうどう。落ち着こうね、メリウスちゃん」
と、何やら不穏なことを言い始めたメリウスの後半の言葉は聞かなかったことにする。うん、顔真っ赤にしてるメリウスなんて知らないし見てないから。
だがしかし……ふむ、兄妹設定は行けるかもしれんな。お兄様呼びだけで、多分門番は俺たちのことを貴族だと思うだろう。貴族なら別に養子を取る事なんて珍しくもないしな。顔の似てない義理の兄妹という感じにするか。
「よし、メリウスの案を採用しよう。二人はこれから、俺の事を『兄』だと思うように」
「分かりました先せ――――お兄様!」
と、早速俺の事を兄と呼んでくれるカレンに、よく出来ましたという意味も込めて頭を撫でておく。その調子で頑張って。
「お、お兄様……」
よしよし、メリウスもよく頑張ったな。
「さて、それじゃ次の議題のキシニョフの訪問理由だが――――」
「あ、兄ちゃーん!」
「はいはい今行きまーす」
次の議題に入るまえに、御者さんから呼ばれたので一旦中止。二人もなぜ俺が呼ばれたのか分かっているようで、コクリと頷いた。
今回のルート。安全よりも速さの方を優先しているため、少々危険なルートを通ることになっている。
姉さんから説明されていたのだが、通るルートに盗賊の縄張りがあるのだとか。「ウザイからもし遭遇したら殺っちゃって☆」と姉さんからの許可も貰っている。
御者台に出ると、目の前には10人くらいの盗賊がいた。
「へっへっへ……ここが誰のナワバリか分かって通ってんのか?通りたきゃ有り金と荷物と女置いて歩いてとおり――――」
「邪魔」
聞くだけ時間の無駄なので、両手をパンっ!と叩いて魔法を発動させる。
重力魔法である
「ぐえっ!」「へぶっ!」という悲鳴がきちんと10回分響き、動けなくなったところをゆっくりと拘束魔法で縛る。グラシャ=ラボラスの時ぐらいにギチギチに縛っておくか。
「はい、いっちょ上がり」
「流石だな兄ちゃん。相変わらず凄い腕だな」
「いやぁ、当然ですよ」
さてと、こいつら一箇所に集めて――――一気にディルクロッドまで送るか。
恐怖の空の旅をご堪能ください!
「お、お前!これから俺らをどうする気――――」
「牢屋に決まってんだろバカ。いってらっしゃーい」
手を振ってから盗賊をディルクロッドまで魔法で飛ばした。すぐさま盗賊達が空に消えていき、叫び声が徐々に小さくなって行った。
「さて、さっさと抜けましょうか」
「あいよ、任せな」
動き出した馬車に乗り込んで二人の元に帰還する。
「大丈夫か?盗賊達に紛れてガレオンの手下とか来てないか?」
「はい、大丈夫ですけど……私、お兄様がキシニョフの結界を通れるかちょっと心配になってきました」
大丈夫大丈夫。あれは犯罪者を捕まえただけだから。きちんと捕まえてねって言われたからね。
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