第10話

「まぁとりあえず、お前の言い分は分かった――――が、聞いた上で思うのは、お前もそこの勇者の父親と同じくらい………いや、それ以上のクズだよお前は」


「そうだね、ティルファくんに全面同意。あなたは人を殺しすぎた」


 あのウルゴスがあいつの父親を憎む気持ちも分かるし、俺はこんなにも辛い目にあってるのに、なぜ奴の息子はこんなのうのうと人生勝ち組みたいな生活をしてるんだと恨む気持ちも分かる。


 でもよ、お前もそのクズと同じ土俵まで堕ちるのはどうなのよ。


 悪魔の力を借りてさ、無関係の奴らまで巻き込んで、お前もあの父親と同じように女性を襲い、飽きたら殺す。その時点で、お前はあの父親よりもクズだよ。充分な。


「………俺のクソ親父が色んなやつに恨まれていることは知っているし、親父が殺され、行き場のない恨みを俺にぶつけてきたやつだっている」


 チャキ、と勇者が聖剣を引き抜いた。


「別に、俺に恨みをぶつけるのはいい。慣れてるからな…………だがな、無関係の女を巻き込むのは感心しねぇな」


「黙れ!貴様には……っ!あのクズの息子である貴様には!何も言う資格はない!」


「黙れ、俺とクソ親父あいつを重ねるな」


 勇者は一瞬てウルゴスに肉薄し、剣を振るうが、その一撃はラプラスによって防がれる。


「俺も充分にクズだという自覚はあるが………お前はそれ以上のクズだ、ゴミカスが」


「っ!ラプラス様!」


 ウルゴスがそう言うと、勇者が剣ごと吹っ飛ばされる。ふーん、前戦ったときよりもラプラスの強さが上がってはいるな。


「マリナ様」


「どうしたの?」


「三十秒、守ってください」


「! なるほど、アレを使うんだね!分かったわ!お姉さんにおまかせ!」


 と、マリナ様は俺の前に出てグラムを抜き放つ。


 さて、俺も今回は充分にキレている。久々に出すだ。精々、準備運動程度にはなってくれ。


 我々、神童には一つ、最大の切り札とも言える勇者の聖剣みたいな神童専用の武器がキチンとある。


 それを呼び出すために、俺は今からを行う。


「―――我、神童の名に於いて、母である神との接続を開始する」


 その瞬間、辺りに魔力の衝撃が撒き散らされた。






(……っなんだ!?)


 勇者であるエリアスは、突然の力の波動驚きを隠せずにいた。


 ズンっ!と体の奥深くにまで浸透するかのような魔力と、強大な―――それこそ、今目の前にいるラプラスよりも遥かに、強大な力の気配。


 ラプラスをアスカロンで吹き飛ばし、その力を垂れ流している人物に目を向けると、エリアスは驚きで目を見開かせた。


「なっ、役立たず!?」


 知っている。エリアスはティルファの事はそこら辺にいる魔法使いよりも遥かに優秀であることを。


 ティルファは普段、詠唱という七面倒臭いことを嫌っている。どうして、口に出さなくとも発動できるものを『詠唱』を介して発動しなければならないのか。そうルーナと話していた事を覚えている。


 それでも、エリアスは勇者の足を引っ張っている時点で役立たずとは思っていたそうだが、それも全てはティルファが手を抜き、エリアスを怒らせて追放させるためにとった手段である。


 この街で、再会し、流れで共闘した時から、「こいつ、もしかして俺といた時は手を抜いてたんじゃないか?」という考えが出ていたが、それも今確信した。


 ティルファあいつは、どれほどの力を隠しているのだろうと。


「ラプラス様!そこのクズは後回しです!先にあの魔法使いを!」


 と、ウルゴスがラプラスに指示を出すと、ラプラスは何も言わないでティルファの方へ突貫する。


「おっと、邪魔はさせないよ。だって今、ティルファくんは神聖な儀式をしているんだから」


 しかし、一瞬でラプラスの目の前に移動したマリナが進路を妨害。ラプラスをはじき飛ばした。


「ラプラス様!………っ、それならば!私自身が――!」


「おっと、そうはさせねぇ」


 ウルゴスが今度は攻撃を仕掛けようとしたが、それはエリアスが邪魔した。


「っ、貴様ぁ!!」


「うるせぇ、汚い顔を近づけんな。唾がつく」


 エリアスが視界に入ったことで、抑えきれない憎悪が目を眩ませる。


 ウルゴスがエリアスに気を取られているうちに、場は整った。


「―――解放、そして降臨せよ」


 天から、頭上の雲を切り裂いてティルファの元に舞い落ちるのは、美しい装飾の施された銀色の杖。ティルファはそれに一礼して杖を掴んだ。


「神器解放―――久しぶりだな、相棒」


 神器、『神杖ロンギヌス』


 ティルファが、神により与えられた、世界最強の武器である。



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久しぶりに後書き書かなかったら、魔法使いがブラック企業に務めてたり、勇者の父親が逆に襲われてたりと事故が沢山起きていた。



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