第10話
「お客さん、そろそろ着きますよ」
その言葉で、俺の意識は覚醒する。一つ欠伸をして腕を伸ばそうとしたが、左右から俺に抱きついて寝ている二人が居たので、それは一旦諦めてからまず起こすことにした。
「ルーナ、アリス、着くって」
「んんっ……」
「ふわぁ……」
ゆさゆさと、俺が揺れてから振動を与えて2人をさ起こすことに成功。二人が俺の腕を離したので、立ち上がってから馬車の外の景色を見る。
「………久しぶり、だな」
六ヶ月ぶりか。一年もたたずに戻ってきたが、何故かものすごく長かった……具体的に言うとなんか三年くらい帰ってなかったような感じがする。
見えてきたのは魔物の侵入を阻止する防壁ーーーではなく、魔法で出来た巨大な街1つ覆ってしまうほどの大結界。
一体誰が作ったのか、いつ作られたのか、いつ設置されたのかがまだ何もかも分かっていないが、ディルクロッドの住民は、日々この結界に感謝しながら生活している。
俺的には、多分俺と同じように神童が作ったものだと思っているが、まぁさほど興味はない。その気になれば俺も作れるし。
「見えたの?」
「ふぁ……おはようございます、ティルファさん」
後ろから二人の声がするので、俺は頷いてから二人に向けて言った。
「2人とも、今一度ようこそ、魔法の街『ディルクロッド』へ」
魔法の街、『ディルクロッド』。世界で一番『魔法』が発達しており、魔法が戦闘以外の場面でも役に立っていて、新しく『魔法技術』という分野が出来た街でもある。
前に一度、ルーナにも教えたことがあったが、本来魔法とは戦闘で使うものであり、戦闘以外のでは全くもって役に立たないというのがこの世界の一般常識なのだが、そこに異議を唱えたのがめちゃくちゃ昔のディルクロッド公爵家の当主。
一応、王族の親戚なのだが、そんな考えしてる奴は僻地にでもやっちゃえー!的な感じで王都からかなり離れた地に追いやられ、そこで独自の発展を遂げている。
それが今のディルクロッドであり、別名魔法大国。国じゃないのに二つ名で国を付けられたのはこの街が史上初である。
そして、ディルクロッド公爵家は魔法使いの育成にものすごく力を入れ、魔法三家という特に魔法の才能に溢れたーーーー魔法に愛されている貴族の家が出てきた。
一つ目が、ディルクロッド公爵家。二つ目がマックイーン伯爵家、そして三つ目が俺が生まれたディルソフ伯爵家だ。
つまり、俺そこそこ偉い立場にいる………いるんだけどなぁ……勇者は王家のバックがあるから俺が貴族であろうと関係なしだったもんな………クソが、外面だけはいいから王家のヤツらに信用されてるのマジでクソ。ディルクロッド公爵家が王族大っ嫌いなのがなんか何となく分かったような気がした。
「………あ」
「どうしました?」
「どうしたの?」
そういえば、と思い出して俺はもう一度顔を二人へ向ける。
「二人って、王都出身だっけ?」
「はい、一応そうですね」
「まぁ、そうね」
おっと。マジで危なかった。聞いておいてよかった。
「二人とも、出身は王都って絶対に言わない方がいいぞ。言った瞬間、この街の住民から凄く睨まれるから」
「……よく分からないけど分かったわ。王都出身って言わなければいいのね?」
「分かりました………理由はあるんですか?」
「んー……ま、入ればわかるよ。うん」
そして遂に、俺たちはディルクロッドへ足を踏み入れた。
「………ん?」
ディルクロッド領、魔法学園と呼ばれている学園長室と書かれた部屋の中で、透き通るような水色の髪をした女性がピクリと眉を上げる。
「知っている魔力反応……しばらく感じてない、懐かしい波動………まさか!」
思い当たることがあったのか、手元にある書類をバサりと放り投げてから立ち上がる。
「ふふ………遂に、遂に会えるのねティルファ」
「フィア姉ーーーーじゃなくて、フィアン学園長。新しい予算見積もりの紙がーーーー」
「ごめんなさいアイリ!そこ置いといて!そして私はしばらく学園長休みます!」
「…………………え!?ちょ!?フィア姉!?」
フィア姉と呼ばれた人物は、響く女性の声なんてなんのその、そのまま後ろの窓を上げて片足を窓枠に乗せて、帽子を被る。
「ティルファが帰ってきたから、一週間ほどイチャイチャしてくるわね!学園のことは任せたわよアイリ~!」
と、そのまま窓から飛んでいってから姿を消した女性。紙を持っていた女性はしばらくボーっとしていたが、慌てて窓に近づいて叫んだ。
「ちょっとフィア姉ー!!私もティルファに会いたいんですけどー!!」
なんかごめんなさ~いと聞こえたような気がした。
魔法学園学園長、フィアン・ディルソフ。ディルソフ家の長女で、ティルファのことをこよなく愛する姉である。
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誰が俺の推しを考察しろと言った(当たってた)
お昼に新作を投稿しますので、もしよろしければ気にしてください
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