勇者の到着と王の間

 

 1週間ほど掛けて王都に戻ってきた。半年以上も旅を続けていたにも拘らず、思いの外あの場所が王都に近かったことには驚いた。まあ、それでも1週間かかったのには違いが無いのだが。


 そして先ほどから視界に入っている王都の様子が明らかにおかしい。と言うか、これはどう見ても国の危機に該当するような事態だよな。


「おや、ちょっと遅かったですかね」

「え?」


 ちょっと遅かったって勇者はこうなるタイミングがわかっていたみたいだな。……いや、単に状況を見てそう思っただけかもしれないな。


「ああ、いや、何でもないさ。さあ、行こうか書記官君」

「え?」


 気のせいかと思っていたら、勇者が王都に突撃するとか言い始めたんだけど。嘘だろう? あの黒い靄が立ち込めている所に行くのか? それに勇者のことだ。十中八九靄の中心に行くつもりだよな?


 勇者はいいかもしれないけど、俺はそこまで強くは無いのだぞ?

 まあ、そんなことを考えている間にも勇者は王都に向けて走り出しているんだけどな。仕方ない、これも勇者の付き人をやっている以上、行かなければならないか。


 そう決断して、周囲を警戒しながらも勇者の後を追った。


 ☆


 いきなり馬車が軋むような音が聞こえたと思ったら視界が真っ黒に染まった。

 何が起きたのかはわからなかったけど、少なくとも良くない状況なのは理解できたので直ぐに結界を張る。そして数秒もしない内に馬車の中でもその近くでもない場所に飛ばされたことに気付いた。


「ここは…」


 何処か見たことがあるような場所だけど、この雰囲気の場所に心当たりはない。


「お前が聖女か?」

「ひゃっ!?」


 いきなり後ろから声を掛けられて驚きのあまり変な声を出してしまった。声がした方に振り向くとそこには王子の姿があった。でも、どうにも元の雰囲気とは確実に違う。

 何時もだったら、もっと頭が空っぽと言うか軽い雰囲気なのに今は見ているだけで重苦しいほどに雰囲気が暗い。


「あなたは誰ですか。王子ではないですよね?」

「私を見て直ぐに正体がわからないとは、今の聖女の力はこの程度なのか? それとも人違いなのか。ふむ、その可能性もありそうだな。見るからに弱いな」

「うっ」


 確かに私は弱い。聖女をしているのにお姉ちゃんにも勝てないし、お兄ちゃんにも勝てない。まあ、お姉ちゃんに勝てたら問題なのだけどね。


「こいつが聖女ならば俺を殺せると言っていたが、これでは無理だな。そもそもダメージを受けるとは思えん。拍子抜けだ」

「こいつが…?」

「この体の…いや、説明するのは面倒だな。どの道殺すのだから説明は要らないだろう。さっさと死ね」

「え、きゃっ!」


 王子?が話の途中でいきなり攻撃して来た。前もって張っていた結界がその攻撃を防いだのだけど、衝撃までは殺せなかったようで私の体は結界と一緒に数メートル吹き飛ばされた。


「む? 想定以上に硬い結界だな。ああ、そうか。お前は防御型か。確かにそれでは弱くも見えるな」


 王子?の攻撃により吹き飛ばされたことで、周囲が確認できるような場所まで来ることが出来た。

 周囲を見渡せば確かに見覚えがある空間。何度か来たことがある王の間だと思う。前に来た時は魔王討伐の旅を命じられた時だから半年ほど前なのだけど、雰囲気が全然違う。


 玉座に座る王子は見たことが無いほどに圧を感じる。そして、その隣に佇んでいるのはもしかして王と大臣?

 2人の視線は何処を見つめているかがわからない。もしかしたら2人は既に亡くなっているのかもしれない。

 そして先ほど王子?からの攻撃を受けたことで、目の前で玉座に座って居る王子の正体も分かった。


「しかし、防御型とは言え、何度も俺の攻撃は防げまい。何度防げるかは見ものだな」

「まさか魔王?」

「今更か、遅すぎるな」

「ひぃっ!?」


 結界が魔王の攻撃を防ぐ。攻撃が当たるたびに私の魔力がごっそり無くなって行くのがわかる。これだともう何発も耐えられそうにない。


「このままじゃ…」

「そろそろ、お前の魔力も尽きそうだな」


 魔王は攻撃の手を緩めるつもりはないらしい。表情を見るに甚振って殺すと言う感情は見受けられないため、単純に邪魔だから殺すと言う考えのようだ。


「ごめんなさい。お姉ちゃん、お兄ちゃん、もうダメ見たいです」


 魔力が尽きかけ、次の攻撃を防ぎきれないと判断した聖女はそう小さく呟いく。


 聖女がもう駄目だと判断して呟いた瞬間、王の間に2人の人影が滑り込んできた。そして、その内の一人が開口一番にこう言い放つ。


「てめぇええ!! 人の妹に何やってんだぁあああ!!」

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