第20話

「今日は楽しかった?」

「はい。蒼太くんのおかげでとても楽しかったです」


 目的地に着いた俺達はベンチに座り、軽く今日の事を振り返っていた。


「……」

「……」


 会話が途切れ、二人で目の前のライトアップされた城を眺める。周りには人が居らず、プレゼントを渡すなら今が絶好のチャンスだった。


「……紅愛。聞いて欲しいことがあるんだ」

「…はい。何でしょうか?」


 紅愛が微笑を浮かべてこちらを振り向く。その顔はまるで俺がこれからする事を見透かしているようで、それでいて期待しているような顔だった。


「紅愛は初めて会った時のこと覚えてる?」

「えぇ勿論です。告白を振って襲われかけた私を蒼太くんが助けてくれましたよね……あの時からでしたね。蒼太くんを意識し始めたのは。優しく接してくれていたものですから私コロッと落ちちゃいました」

「俺も紅愛と少しずつ話してくうちに優しさっていうのかな。そういう所に惹かれたんだ。あと笑顔が凄く可愛いとこ。幸せにしてあげたいって思うような」

「もう……///そんなこと面を向かって言われると照れちゃいます///」

「俺はきっとこれからも紅愛のことを好きになってくと思う。だから伝えたいことがあるんだ」


 ベンチから立ち上がり、モジモジと恥ずかしそうに身をくねらせている紅愛の目の前で片膝を突く。

 紅愛も膝を突いた俺を見て、真面目な表情でこちらを見つめてきた。目が合っているせいで妙に恥ずかしい……


 ポケットからプレゼントを取り出し、紅愛に中の物が見えるように箱を開く。流石にプレゼントの中身は分からなかったのか、中の物を確認した瞬間、紅愛は驚きに目を見開いた。


「……紅愛、一年後…高校を卒業したら俺と結婚してくれないか?」


 俺が購入したのは小さなダイヤをあしらった銀の指輪である。所謂婚約指輪と呼ばれるもの。本来なら納期に数週間かかるところを爺に頼み込み、篠崎グループの力を駆使して無理矢理用意してもらったのだ。そのため、あの時は帰りが遅くなってしまった。

 紅愛は両手で口元を覆い、涙を流し始めた。


「は、はい……喜んで。こ、こう、高校を卒業したら……わた、私を…………ぐすっ…」

「ありがとう。右手、出してくれる?」

「ひぐっ……ぁい」


 指輪を取り出してケースを仕舞う。紅愛の震える右手を左手で押さえ、薬指に指輪を嵌める。紅愛が自分の右手で光る指輪を見て、さらに涙を流す。


「あ、ありが、ひぐっ……ずみまぜん…」


 あまりにも紅愛がボロボロと涙を零すので持ってきたハンカチで目元周りの涙を拭き取る。


「謝らなくていいよ。それよりも指輪気に入ってくれた?」

「はい……とっても、素敵です…」

「それなら良かった。気に入らないって言われたらどうしようって思ってたよ」


 紅愛は絶対そんなこと言わないと思うが、俺が冗談めかしてそう言うと俺の予想通りの回答が返ってきた。


「ふふっ、蒼太くんがくれる物ならほぼ全て気に入るのでそんな心配しなくて大丈夫ですよ」

「ほぼ全て?」

「離婚届は嫌ですから」

「離婚なんて考えてなかったから思い付きもしなかったよ」

「もう…///蒼太くんはいつもいつも嬉しい事を言ってくれますね……蒼太くん、私をお嫁さんにしてくれるんですよね?」

「うん」

「……付き合う時にも言いましたが私はとてもとてもめんどくさい女です。そんな私と一生を過ごせますか?浮気はしませんか?」

「絶対にしないよ。俺は紅愛だけを一生愛し続ける」

「なら今からそれを証明してくれませんか?具体的に言うと今夜はいつも以上に愛していただけませんか?」


 あれ?この展開は……これってもしかして嵌められ…いや、そんなまさかな…


「こうしてはいられません。早くお家に帰りましょう」

「えっ、あっ……え?この後夕食…」

「蒼太くんが私を喜ばせたのが悪いんです。早く帰りますよ。予約していた料理店にはキャンセル料を支払っておくので安心してください」


 紅愛に腕を引かれ、駆け足気味に夢の国を退園する。この後の俺の計画が全て紅愛に崩された瞬間だった。


「……んふっ♪」


 紅愛が薬指に嵌められた指輪を見て笑みを零す。

 ……紅愛が嬉しそうだしまぁいいか。終わり良ければ全て良しだ。

 最後はいまいち締まらなかったが紅愛に振り回される最後もそれはそれで俺達らしい気もする。今は横にいる最愛の彼女の温もりを感じることにしよう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

前回の本編投稿から約20日……誠に申し訳ございませんでした!!後、R18の方も投稿しましたので18歳以上の方は是非ご覧下さい。

さてと……言い訳させていただいてもよろしいでしょうか?筆が……とにかく筆が乗らなかったんですっ………賢者タイムさながらの冷静さが僕の頭を支配していたんです……やっとの思いで解放された僕は今こうして投稿することに成功しました。

これからも更新が滞ってしまう時があるかもしれません。しかし、絶対に更新するので根気よく待っていただける方はフォローそのままにしていただけると有難いです。

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