第210話:ボルフェリオ火山⑨

 ――ゴゴゴゴゴゴ。


 凍りついたマグマにひびが蜘蛛の巣状に広がっていく。

 まるでマグマの奥底から何かが近づいてきているような、そんな振動が足元を揺らしている。


「氷が、砕ける!」


 ひびの隙間からマグマが噴き出し、それを契機として穴が様々なところに出来上がってしまう。

 噴き出したマグマに当たらないよう注意しながら、カナタとアルフォンスは少しずつ後退していく。


「このマグマをどうにかできなければ、どうしようもなさそうですね」

「レッドホエールはどうなっているんですか?」

「マグマの中を動き回っているようですが、何をしたいのか、こちらへの攻撃の意図はないように感じられます」


 魔獣が人間の天敵であるように、人間が魔獣の天敵にもなるはずだが、レッドホエールからは攻撃の意図を感じないとアルフォンスは口にした。


「……全ての元凶は、やっぱり魔族か」


 そこまで考えたカナタは、一度賢者の石を呼び戻した。


「賢者の石はマグマの中でも活動できるのか?」


 カナタの問い掛けに、賢者の石は否定するかのように伸ばした首にも見える部分を左右に振った。


「さすがに無理だよな。となると、マグマをどうにかしないといけないのか。錬金鍛冶でマグマを別の物質に変換することはできないか?」


 一人で考えても埒が明かない考えたカナタは、すぐに答えを持っていそうな人物に声を掛けた。


「ロタンさん!」

「ひゃ、ひゃい!」

「マグマを別の物質に変換するとしたら、どんなものがありますか? こちらに無害なものが助かります!」

「……マ、マグマを、別の物質に変換? ちょっと待ってくださいね!」


 すぐに自らを落ち着かせて考え始めたロタンだったが、しばらくすると首を横に振った。


「……難しいと思います。そもそも、マグマはゆっくりと冷え固まってようやく火成岩になります。冷える速度でマグマに含まれる鉱石が変わってくるんですが……ううん、今そこはどうでもいいですね。どちらにしても、一度冷え固めなければならないということに変わりはありませんよ!」


 冷え固まらせるだけならすでにアルフォンスがやっている。

 だが、現状ではマグマの表面だけが凍っているだけで、さらに下から熱が伝わっていることですぐに溶かされており、それを繰り返している状況と言えるだろう。

 同じことを錬金鍛冶でできるのかどうかは定かではなく、あまりにも不確定要素が多すぎるため実践できないと歯噛みしてしまう。


「カナタ様! ロタン様! お下がりくださいっす!」


 話し込んでしまいマグマが迫っていることに気づかなかった二人へ、リタが大声で伝える。

 慌てた様子で下がった二人だったが、その拍子にカナタは魔法袋を落としてしまった。


「しまった!」


 手を伸ばして魔法袋を掴み取ったカナタだったが、そこはすでにアルフォンスの結界の外であり、熱波が彼の右手に襲い掛かった。


「あっつううううっ!?」


 あまりの熱さにカナタは思わず声をあげてしまい、その場にいる全員の視線がそちらへ向いた。

 すぐに手を引いたので大事には至らなかったが、それでも軽い火傷を右手全体に負ってしまったことに変わりはない。

 だが、そこから一つの光明を見出すとは夢にも思わなかった。


「だ、大丈夫っすか、カナタ様!」

「あ、あぁ、大丈夫だ。助かったよ、リタ」

「こここここれ、ポーションです!」

「ロタンさんも、ありがとう」


 カナタはロタンからポーションを受け取ると、すぐに右手へ液体をかけていく。

 軽い火傷は一瞬にして元通りに治ったのだが、そこでふと思いついてしまった。


「……ポーションって、液体だよな?」

「え? それはまあ、そうですね」

「……飲み水もだし、スープも言ってみたら、液体だよな?」

「そ、そうっすね」

「…………このマグマ、魔法袋に入れられないかな?」

「「……………………はああああああああぁぁああぁぁっ!?」」


 カナタが思いついた作戦に、リタとロタンは驚きの声をあげた。

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