錬金鍛冶師の生産無双 生産&複製で辺境から成り上がろうと思います

渡琉兎

第一章:錬金鍛冶師

第1話:プロローグ

「――さあさあ! 今もっとも勢いのあるロールズ商会がイチオシの職人! フロックとバントが作り出した至高の一振! さあさあ、20000ゼンスから、買う人はいないかい!」

「25000ゼンス!」

「30000ゼンスだ!」

「ちまちまと! 俺は50000ゼンス!」

「50000! 50000ゼンスだ! 他にはいないか!」

「……100000」

「「「――!?」」」

「さあさあ! 大台100000ゼンスだよ! 他にはいないか? いないな! 100000ゼンスでお買い上げだよ!」


 活気のあるオークション会場では、一振の剣に100000ゼンスという高値が付いた。

 だが、この場にいる誰もが知らない事実がある。

 進行役が至高の一振だと紹介したこの剣が、実は制作者からすると紛れもない失敗作だということだ。

 では、彼らに見る目がないのかと聞かれるとそうではない。

 制作者からすれば失敗作だが、一般的な視点で見れば、この剣は間違いなく至高の一振だからだ。


「……これで、私も上級冒険者になれる!」


 剣を落札した女性は拳を握りしめ、競りに負けた者たちは悔しそうに歯噛みする。


 ――だが、彼らは知らなかった。

 今後、フロックとバントの二人組からなる作品が何度もオークションに姿を表すということに。

 そして、それらが100000ゼンス以上の値を付けることになることも。


「くっそー! 次は絶対に競り落としてやる!」

「あれが手に入れば、俺だって!」

「次のオークションでは、全財産を!」


 そんな声があがる中、オークションは終了した。


 ――一方で、剣の制作者としては予想外の大金に驚きの声を漏らしていた。


「……じゅ、100000ゼンス?」

「手数料を引いても90000ゼンス! これなら仲介役のロールズ商会も大儲けだわ!」

「あ、あんなのでよかったのかな?」


 オークションが行われていた王都アルフォニアから、遠く離れた辺境に領地を賜っているワーグスタッド騎士爵領では、そんなやり取りが行われていた。


「だから言ったじゃないの! あなたの作る物はどれも一級品なんだってね!」

「でもあれ、試作品だよ? それに100000ゼンスも払うなんて、なんだか申し訳ない気がするよ」

「制作者がそんなことを気にしちゃダメ! 作った物を高く売ることだけを考えなきゃね!」

「それは商売人の考え方だよね? 俺はこれでもなんだけど?」


 綺麗な赤髪が特徴的な彼の言う通り、剣の制作者は職人の卵であり、一流の職人と呼ばれる者ではなかった。


「何を言っているのよ! 師弟制度があるのは理解しているし、必要だと思っているけど、規格外のあなたには当てはまらないわ!」

「規格外ねぇ……」


 一からやり直すために故郷からワーグスタッド騎士爵領まで足を運んだ彼にとっては、自分が規格外だとは思えなかった。

 だが、そんな彼にも一つだけ規格外だなと思える部分が存在している。


「まあ、俺の製作方法が規格外だというのは理解できるけどさ」


 そう口にしながら、彼は作業途中だった素材に手を触れながら作業を再開させる。

 途端、素材が眩い光を放ち、ひとりでに形を変化させていく。

 そして出来上がったのが、オークションで100000ゼンスの値を叩き出したものと全く同じ質の一振りであった。

 だが、これは普通の鍛冶とは異なっている。そして、普通の錬成とも違う。

 フロックでもバントでもない、見た目は単なる少年である彼が一瞬で作り出してしまった。


「……これで100000ゼンスですよ? 素材代が10000ゼンスなわけですから、十倍近い値段で売れたわけですよ」

「私としてはありがたい限りだわ!」

「それはそうなんですが……なんか、これでいいのかなって感じが……」

「楽に作れて、楽に稼げる! 商売をする中で、これほどありがたい結果はないわね!」

「えっと、そうですけど……」


 ウハウハだと喜ぶロールズ商会の女性商会長は、彼から剣を受け取るとスキップをしながら専用の工房から立ち去っていく。


「……まあ、俺は今まで通りに鍛錬を続けるだけか。でも、錬金鍛冶師ねぇ……本当に、何なんだろうなぁ」


 そして、彼は言葉通りに鍛錬を続けていく。

 それが辺境の貧乏貴族家を巻き込み、さらには自らを追い出した伯爵家を、そして王族すらも巻き込む波乱を巻き起こす事になるとは予想もしていなかったのだった。

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