第4話 プランB再び失敗
翌日―
私は再びプランBを実行することにした。今朝は姉と一緒に馬車に乗って通学している。
ガタゴトガタゴトと揺れる馬車の中で、姉は一心不乱に小説を読んでいる。
「お姉さま、今日は何の本を読んでいるのですか?」
すると姉は顔をあげて微笑んだ。
「ええ。今日の小説は悪いドラゴンに攫われた姫を勇敢な王子様が助けに行くお話なの。」
「へえ~・・・素敵なお話ですねえ・・・。」
「ええ、ここに登場してくる王子様は本当に素敵な方なのよ。」
姉はうっとりした顔で本に目を落とした。成程・・・やはり姉は恋愛に大いに興味があると言う事だ。ただ、相手があのクズ男ジェイクだから駄目なのだ。
「お姉さま。ジェイクは本を読みますか?」
「さあ・・・どうなのかしら?今まで一度も本を読んでいる姿は見たことがないけれども・・。」
「それでは本をよく読む男性はどうですか?」
「そうねえ・・いいと思うわ。」
「いい・・ですか?」
私は目を光らせた。
「ええ、本が好きって事は共通の話題が出来るって事ですものね。でも・・それがどうかした?」
「いえ、何でもありません。ちょっとしたリサーチです。さ、どうぞ読書の続きをしてください。邪魔をしてすみませんでした。」
「え?ええ・・・・。」
そして姉は再び読書を始めた。そんな姉の姿を見て、私は次の姉の恋の相手になる男を決めた。
よし・・・さっそく昼休み実行よ―。
***
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン・・・
よし、昼休みだっ!授業が終わり、私は勢いよく席を立った。
「ねえ、ルチア。僕と一緒にお昼・・・。」
呼びかけてくるセルジュに私は言った。
「ごめん、セルジュッ!しばらくは一緒にお昼は無理、ごめんねっ!」
そして猛ダッシュで姉の教室へと向かった。
***
ガラッ!!
勢いよく姉のいる教室のドアを開けるとそこには姉が教室に残って本を読んでいる。
「お姉さまっ!」
入り口で姉を呼ぶと顔をあげて私を見た。
「あら、ルチア。待っていたわよ?」
「す、すみません・・お、お待たせして・・・。」
ハアハアと荒い息を吐いて姉のもとへと行く。
「それでルチア。今日はお昼どこで食べるのかしら?」
「はい、天気が良いので中庭で食べましょう。もうお昼2人分買ってきたのですよ?」
私は手に持ったバスケットを掲げてにっこりと笑った。
***
「ふう・・それにしても、本当に良い天気ですねえ・・・。」
中庭のベンチに座り、青い空を見上げながらのサンドイッチは最高に美味しい。
「ええ、そうね・・・でも・・。」
姉は怪訝そうな顔をする。
「でも・・何ですか?」
「ほら・・・あそこ・・見て・・・。」
姉は顔を赤らめながら前方の大木を指さす。
「うっ!」
そこには木によりかかり、情熱的なキスを交わすカップルがいた。
「私達・・お邪魔じゃないかしら・・?」
「アハハハ・・べ、別にいいじゃないですか。この中庭はあの人たちの者ではありません。皆のものですから。」
笑ってごまかす。
「そう・・?」
姉は顔を真っ赤にしながら言うが、ダメダメ。ここは絶対に譲れない。何故なら・・・。
私はベンチの背後にある校舎をチラリと見る。私たちの座るベンチの真後ろには図書室があるのだ。そして・・・。あ!いたっ!
窓から青い髪に眼鏡をかけた知性的な男子学生が読書をしている。彼もまた姉と同じ学年の生徒で名前は「アイザック・コスナー」。
とても読書好きで、そして密かに姉に恋しているのも知っている。彼は図書委員で姉が本を借りに来るとき、真っ赤な顔で対応しているからだ。
「お姉さま。アイザック様が図書室にいるわ。ちょっと声を掛けてみませんか?」
「あら?アイザックが?」
姉もアイザックの存在を確認した。私はベンチから立ち上ると、図書室の窓をノックした。
コンコン
するとアイザックはそれに気づいたのか、顔を上げてこちらへとやってきた。そして窓をガラリと開けると声を掛けてきた。
「君は確か・・・。」
「はい、リリアンお姉さまの妹です。」
「ああ、そうだったね。リリアンの・・・えっ!」
そこでアイザックは姉の存在に気が付き、真っ赤になる。
「リ、リリアン・・・。」
「こんにちは、アイザック様。」
姉は笑顔で挨拶する。
「こ、こんにちは・・。」
ますます顔を赤らめるアイザック。うん、この反応は間違いない。彼は絶対に姉に惚れているっ!
「アイザック様、お昼は食べましたか?」
「い、いや・・まだなんだ。この本を読んでから食事に行こうかと思って・・・。」
すると姉が声を掛けてきた。
「あら。アイザック様はどんな本を読んでいるの?」
「い・今読んでいる本は『ムーンライトに照らされて』って本なんだ・・。」
う~ん・・・悪いけど私にはさっぱり分からない。けれど・・・。
「まあ、アイザック様もその本を読んでいるの?実は私も今同じ本を読んでいるのよ。偶然ね。」
「ええ?本当かい?」
アイザックは嬉しそうに笑う。おお・・・これはなかなか良い雰囲気なのでは・・?
「アイザック様、一緒にお昼を頂きませんか?実は多めにサンドウィッチがあるんです。このベンチで食べませんか?」
「そうね、それがいいかもしれないわ。」
おおっ!姉も乗り気だっ!一方のアイザックは顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに言った。
「そ、そうかな?それじゃ・・・そっちに行かせてもらうよ。」
少し待っていると校舎からアイザックが現れた。
「ささ、どうぞここにお座り下さい。」
私は自分の席をアイザックに譲った。
「え?ルチア。君の席はどうするんだ?」
「ええ。そうよ、ルチアはどうするの?」
2人は交互に尋ねてきた。
「ええ、実は・・・もうお腹いっぱいでして・・・。後はお2人で食べて下さい。そうだ、お姉さま。実はこの学校の近くに本が自由に読めるカフェがオープンしたんですよ?お2人で行かれたらどうでしょうか?」
「そう言えば・・・先週話題になていたな・・・。そこのカフェは新刊もそろえてあってコーヒー1杯で自由に読書が出来るって・・。」
アイザックの言葉に姉は目を輝かせた。
「素敵・・・行ってみたいわ・・。」
「な、なら・・・お・俺と・・い、一緒に・・・。」
アイザックは真っ赤になりながら姉を誘った。
「ええ、そうね・・。」
姉は微笑む。なら、決まりだ。
「それでは、是非今日はお2人でそのブックカフェに行ってきてください。私はこの辺で失礼しますね。」
「それじゃあね、ルチア。」
「また・・・な。ルチア。」
私は2人にぺこりと頭を下げるとその場を後にした・・・。なのに―。
***
姉は今日も私より先に帰宅していた。
「お姉さま・・・アイザック様との約束は・・どうされたのですか?」
自室で読書している姉に尋ねた。すると姉は顔を上げて困惑気味に言う。
「ええ・・それがまたノーラ様とジェイク様が現れて、アイザック様に『男のくせに読書好きなんて女々しい男だ。』と言って・・・チャーリー様に言った言葉と同じことを言ってしまったの。それでアイザック様は席を立って・・帰ってしまったのよ。また悪いことをしてしまったわ・・・・。」
姉は溜息をついた。
おのれ~!ジェイクの奴め!次から次へとことごとく人の計画をつぶしてくれて・・・
でもね、後最低でも4人は姉の恋人候補のなってくれそうな人物がいるんだからね。絶対に姉には誰かと恋人になってもらって、あんたとの婚約は破棄させて貰うんだからねっ!
しかし・・・私の計画はことごとくジェイクの手に寄り、潰されてしまった―。
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