第26話 つれづれなるままに
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[徒然噺]
さて、今日は本当につれづれはなし。
昭和42年の今日、今頃、僕は青森ゆきの
十和田4号に揺られておりました。
その時の事を懐かしく思い出しながら、こうしてオハナシをしております。
上野乗泊は東北線沿いの真新しい鉄筋のビルで、もちろん当時の事ですから
国鉄職員さんが大勢、お国訛りもそのままに
空調の利いた大部屋で、のんびりと昼寝をしたり、マージャンしたりと(笑)
特急乗務員さんはずいぶんと良い待遇だったのですね。
1階だった大食堂も、クーラーがばっちり効いていて
美味しい食事、たしか定食型式でしたが
それでもご飯は食べ放題でした。
清々しい程に洗われたメラミンの茶碗で麦茶を飲むと、「森永ババロア」のCMが
♪〜牛乳1本用意して〜
なーんて、高い位置に木の板で吊られた20インチのナショナルカラーTVから流れて..
終わると、フジTVのローカルニュース、イントロでヘリコプターが映ったり..と
18:00ちょっと前の乗泊は、賑やかで、楽しげでした。
その後、上野駅のあの回廊から下を見ながら、僕はぼんやりと旅立ちの予感を楽しんでいました。
回送列車に頭端式の18番線から乗り込み、尾久客車区へ行き、出発時刻を待ちました。
急行十和田4号の出発まではまだ時間があり、僕は操車場の中で
特急列車や機関車の大きさに驚いたり、ゆっくりと推進で進んで行く
編成の荘厳さに感動したり...
やがて、出発時刻が来て、十和田4号もゆっくり、ゆっくりとバック運転で上野駅へ入ります。
座席夜行など当たり前のこの頃、ホームには沢山の人が入線を待っていました。
当然の事ながら僕は座れるものとは思って居ませんでしたから
その、人なだれを傍観しており、手持ちのハーフ版で写真を撮ったりしていました。
出発は確か21時頃だったと思いますが、夏休みの終わりとあって
やや涼しげな風の吹く上野駅から、ゆっくりと引き出された編成が
都会の喧噪から放たれて、鈍く光るレールを追って青森まで
735.8kmの旅路を刻みはじめた事を、レール・ジョイントの響きが
静かに、確実に伝え
東北夜行の旅は、高揚とともに始まります。
ちょうど今頃、深夜の頃、僕はリコー・オートハーフの
ゼンマイを巻きあげながら車内を飛び回るのにも疲れて
車掌室の叔父のところへ行き、一休みしていた頃、だったでしょう。
急行はここちよいスピードで北へ向かって進みます。
数時間後、蒸気機関車の力強さや
煙の匂い、茶色の客車の厳かな佇まいに
圧倒される事になる少年は、まだ、この時は予感だけに
胸を弾ませていました。
車内は東北へ向かう用務客がほとんど、地味な服装の
実直そうな方々が多いのは
盆の時期を過ぎて、旅行シーズンも終わりに近い
八月二十六日だったから、なのでしょう。
記念に買った上野駅の硬券入場券は、その日付を
今でも懐かしく思い起こさせてくれています。
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