第88話

 ……あ、群れが来るのに、ディール……大丈夫なのかな?強かったけれど、でも……。

 ダメだ。町まではそんなに距離がないんだよね。もう、町に行けば大丈夫なんだから、ディールに助けてもらわなくても大丈夫なんだから。

 一度大きくした火を消そうと思い直す。

「って、水もない、あー、そうだ、砂をかけて消火する方法もあった。

 とりあえず、狼煙の玉を棒で突いて焚火から取り出す。

 煙さえ出なければいいんだから。

 黙々と煙を上げている狼煙玉?に土をかぶせる。

 不完全燃焼してるから煙がこんなに出るのかな?不完全燃焼なら土をかぶせたくらいじゃ収まらない?窯で炭を作るときとかも空気ってかなり遮断されるんだっけ?

 あー、どうしよう。

 必死に土をかぶせていく。

 土の隙間から煙はまだ出ているけれど、量は減ってきた。

 これなら、大丈夫そうだ。もう少し土をかぶせればなんとかなりそう。

「!!」

 ぞくりと、背中に殺気を感じて振り返る。

「うそ……」

 森の中。

 木々の影になっている部分に、光るものが見える。

 あれは……獣の目?

 猫の目が暗闇で光っているようなものが、無数に見える。

 しまった。

 もしかしたら、血の匂い、もしかしたら仲間の死、もしかしたら……何か、原因になるものがあって……あって……。

「ぐるるる」

 じりじりと、森からウルビアが姿を現した。視線は私一点に集中している。

「ああ……」

 群れだ。

 何十というウルビアが次々に森から出てくる。そして、気が付けば、私はウルビアの群れに囲まれるようにして逃げ場を立たれていた。

 急いでリーダーらしき、初めに森から出てきたウルビアと視線を外さず、足元に置いた手動ミキサーの位置を確認する。

 傷を負っても、ポーションがあれば……。

 ポーションで治しながら逃げる。なんとか森の木に登る。ウルビアは木に登れない。

 どうしよう。もし、私が木の上に逃げられたとして、ウルビアたちは、町に向かって歩いてるみんなの方へ行ったりしないだろうか。もう、みんな町についただろうか。

 素早くしゃがみこみ手動ミキサーを抱えたところで、ボスが動いた。私に向かって駆けてくる。それを合図に、四方から何匹ものウルビアが駆け寄ってきた。

 ああ、甘かった。逃げる隙なんて与えてくれないんだ!

 肩と、わき腹に痛みが走る。

 とっさにミキサーのふたを開け、手を突っ込んでポーションを指で舐めた。

 痛みは一瞬引いたものの、ずっと食いつかれているためすぐに痛みが戻る。

 ぐふっ。

 ふくらはぎにも別のウルビアがかみついて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る