第85話
「でも、ダーナがっ!」
「借りは作るつもりはないって言ったろ、これで貸し借りなしだっ!早く行け!走れないならその辺の木にでも登れよ、クズが、ぐずぐずするなっ!」
獣の鋭い歯が、ダーナの振り回す籠をかみちぎるのが見えた。
逃げろって言ったって、この足じゃ……。
「あ、そうだ」
作ったポーションを指につけて舐める。思った通り、すぐに痛みが引いた。
「ダーナ、私がおとりになるから、あなたが逃げて」
ダーナの後ろに立つと、ばしんと、激しくダーナに裏拳をくらわされた。
「どこまでも嫌な奴だねリョウナ!私だって、少しは……」
思わずしりもちをつく。
目の前では、ダーナが獣に腕をかみつかれながらも、首根っこを押さえつけようとしていた。
「誰かのために何かをしたんだって、人を助けたんだって、誇りをもって、死ぬ時くらい……」
死ぬ?
冗談じゃない。
「誰も死なないっ、皆で助かる」
突き飛ばされた拍子に、リュックの開いた口からころりとこぶし大の塊が落ちてきた。
「狼煙……」
ディールの、狼煙。
火、火を。
「あぁああっ」
ダーナのうめき声が聞こえる。
ああ、腕の肉を食いちぎられている。
急いで手動ミキサーの中にポーションの瓶を突っ込み、半分くらい瓶を満たす。
「ダーナ、ごめん、ちょっとだけ頑張って。これをちょっとずつ飲みながら……」
口に、瓶を押しあてる。
すると、ポーションが少し口に入ったのか、すぐに腕の血が止まった。さすがにちぎられた肉はじわじわと戻るだけで即効性はない。当たり前か。
ダーナがちょっとおかしな笑い方をしている。
ポーションの瓶を、肉が盛り上がってきた手でつかんだ。
「はっ、なんだい、こりゃ……」
「助けを呼ぶから」
弓切式の手動ミキサーの弓だけ取り外す。
そのすきを狙って、獣が私にとびかかってきた。
やばいっ。
喉さえかみ切られなきゃポーションで……と、腕を出して体をかばう。
が、痛みはやってこない。
「ダーナ」
私の体を身を挺してダーナが守ってくれていた。
今度はダーナの肩に獣がかみついている。
「ぐぅっ。愚図リョウナ、助けを呼ぶなら早く呼びな」
痛そう。痛いに決まってる。
「ありがとう……」
ダーナはポーションの瓶から少しポーションをなめて傷を治すと、再び獣をにらみつけた。
「いくらでもかかってくればいい」
急がないと。急がないと。
いくらポーションで傷が治ったって、痛いことは間違いない。
それに、血を何度も流してしまえば失血死だってある。
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