聖人奪還作戦
吸亥杉 弥仁華須
第1話 再誕
聖歴683年 ユディーナ大陸
大小様々な国から成り、自然が多く、古代文明の遺跡が点在する広大な大陸。100年前の国家間戦争から立ち直り平和が続くこの大陸に影が差そうとしていた。そう、かつて世界を救った人間、世界中に広がった聖戦の火種、それぞれの生活の基盤となった教えを説いた者、異教の教祖。『聖人』が新たなる聖戦をもたらそうとしていた。
5人の男達が遺跡を目の前で集まっていた。
「ここだな。」
一人の男が短く言うと他の男達が周囲を警戒しながら遺跡の扉を開く。警戒しながら中に入り扉を閉める。
中は広くエントランスの様な空間が広がっていた。数年は手付かずの様だった。男達は会話も無く松明で照らしながら周囲を探索する。すると一人が壁のエンブレムを発見する。
「ボス、見つけました。『聖遺物』のエンブレムと一致します。」
ボスと呼ばれた男が持っている板状の物と壁のエンブレムを確認し頷く。
「この部屋の中にこの『旧人類の証』が対応する何かがあるはずだ。探せ。」
ボスがそう言うと男達はより詳しく探索する。
「ボス、この壁の一部が周りと材質が違います。あとここの溝が『旧人類の証』の幅がほぼ同じです。」
ボスが報告された壁に近づき『旧人類の証』をあてがう。報告通り幅が合っており差し込めそうだった。
「皆警戒しろ。何が起こるかわからんぞ。」
男達はボスを中心に警戒態勢に入った。それを確認すると『旧人類の証』を壁の溝に差し込んだ。するとエンブレムの描かれていた壁が割れ小部屋が現れた。
「この仕掛けは別の遺跡でもあったな。エンリーとノースはここに残って警戒を、残りは付いて来い。」
ボスがそう言うと2人は頷き、残りの2人はボスに続いて小部屋に入る。ボスは中にあった別の溝に『旧人類の証』を差し込んだ。すると壁が閉じ小部屋が動き出した。
「地下に向かっているのか。」
男の1人が感覚で動いている方向を察知する。
「国にあった遺跡では上に上がるものだったな。まぁあちらは塔でこちらは地表に出ている部分が少ないから予想通りだ。」
ボスが短く返し会話が終わる。無駄口を叩かないのか緊張しているのか、はたまたその両方かはわからない。
数刻経つと小部屋は止まりゆっくり壁が開く。3人は警戒しながら小部屋を出る。出た先はかなり広い空間だった。椅子や演説台、様々な形のモニュメントがあり周りにはいくつかの扉があった。その扉達の中の1つに明かりがついているものがあった。ボスが近づき、ドアノブに手を掛ける。後ろの2人に頷いて警戒を促す。
「開けるぞ。」
ガッ!
扉は開かなかった。鍵がかかっているようだ。3人は少し気の抜けた様な顔になりすぐに気を引き締める。
「鍵穴は無い。先程の様な溝もない。内側にしかないか何かしらの仕掛けだな。探すぞ。」
2人は頷き探索を始める。
「わからんな。」
3人はしばらく探索していたが、扉を開ける方法はわからなかった。遺跡にどんな仕掛けがあるかわからない内は下手に触れない事もあり、お手上げ状態だった。
「こじ開けますか?」
部下に言われボスは少し悩み決断した。
「それしかないか。だが火薬は使えん。扉の素材も遺跡によくある特殊金属だ。ノースが持ってる攻城槌を使うしかないな。私が取って来る。その間に扉の状態を詳しく調べておいてくれ。」
そう言うとボスは小部屋に戻り上がっていった。
数分後ボスがエンリーとノースを連れ戻ってきた。
「どうなるかわからんし、上は特に動きが無かったから連れて来た。扉はどうだ?」
「内開きで蝶番は3つ、鍵は1つ、扉の近くに物は無い様です。簡単に破れます。」
短く報告を済まし準備をする。
ノースが攻城槌を構えボスを見る。ボスが頷くとノースは体重をかけて攻城槌を扉にぶつける。一度では少し扉が歪む程度で、何度も叩きつける。すると6回目で周りの壁が壊れ扉が倒れる。全員が武器を構えるが中に動きはない。
「行くぞ。」
ボスが声をかけ突入する。中は一人用の居住空間の様になっていて不自然な物は無かった。
中央に置かれた棺桶を除いて。
「棺桶?こんなところに?」
ボスは疑問を示しながら棺桶を調べる。特に飾り気も無く、外側からは何もわからなかった。
「開けろ。」
ボスはすぐに判断し支持を出す。部下が2人がかりで蓋を開ける。その中には上半身裸の綺麗な遺体があった。
「なんだこれは?」
ボスはその遺体の不自然さにすぐ気づいた。綺麗すぎるのだ。遺跡の状態から入り口ですら数年は誰も入っていない。この地下に至ってはどれだけの時間人が入っていないのかも判断が付かない。にもかかわらず一切損傷の痕がない。まるで時が止まっているかの様だ。ボスは考えながら部屋を見渡す。何か不自然なところを探して。
「ボス!!」
部下が突然叫ぶ。驚いてボスが振り向くと衝撃的な光景が目に入った。
遺体が体を起こしこちらを見ていた。そこで5人の命は途絶えた。
ユディーナ大陸最大の帝国ユーガリア。その南方国境防衛大隊が巨大な閃光を確認した。場所は国家間共有地帯にある大戦前に発見され調査済みの遺跡と断定された。距離は約40キロ離れており、その爆発の大きさが伺える。ユーガリア帝国はこれを非常事態と判断し行動を起こす。
これが大陸を超え世界を揺るがす事件の始まりとは気付かず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます