「どこから話したらいいかしら」。

　オレガは尋ねた。

　イリーナとクララは、 “チューリン事件” 、 “ソローキン反乱” 、 “人民革命” について知りたいと、あらかじめ手紙で聞いていた。

「時系列から、まず、“チューリン事件” についてお知りのことをお伺いしたいと思います」。

　イリーナは答えた。

　オレガは話し始める。

「“チューリン事件” ね。その頃の私は、お城で召使いをしていたのよ。だから、途中の詳しい経緯はあまり知らないわ。ただ、最後、師とアーランドソンの戦いは見たのよ」。

「お爺様の危ないところを助けたと聞きました」。

　クララが少々大きな声で尋ねた。

「そう。最初、城中に大きな音が聞こえたので、謁見の間に向かったのよ。大きな音の原因は“預言者”チューリンが壁や天井が破壊して崩れたせい。謁見の間の前には、帝国軍の兵士がたくさんいて、何とか、その隙間から覗くと、師達がチューリンとの戦っているのが見えたわ。途中から、ソフィアさんや “雪白の司書 ”の二人が加勢に入って、なんとかチューリンを倒しました。その後、皇帝が現れて、師を連れて謁見の間に入ったの。その間、アクーニナさんやオットーさんたちは、兵士たちにチューリンを殺害したということで牢屋で連れていかれました。私はそのまま影に隠れて、師が出て来るのを待っていたの。でも、しばらくして、謁見の間の壁が突然崩れたと思うと、師が足を怪我した状態で姿を見せました。その後、すぐに皇帝も姿を現しましたが、ただ事でない雰囲気でした」。

　オレガは一息つき、お茶を一口飲んでからから再び話を続ける。

「そして、師と皇帝が戦って、すぐに皇帝が師の体を魔術で吊り上げて、自分は皇帝の体を乗っ取った魔術師で次の乗り移る体を捜しているという風に言っていました。そこで、皇帝が偽物だとわかり、師の体を乗っ取ろうとしていたので、私は咄嗟に床に落ちていた剣で皇帝に突き刺しました。でも、皇帝はそれぐらいでは倒せず、逆に私は皇帝の放つ魔術の稲妻に打たれて気絶してしまうの。でも、それで、師は皇帝に出来た僅かな隙をついて倒したと言っていたわ」。

「お爺様が殺されなくて、本当に良かったです」。

　クララは、そこでユルゲンが体を乗っ取られていたら、自分も生まれていない。本心からそう言った。

　イリーナは別の用意してあった質問をした。

「そういえば、オレガさんがユルゲンさんの弟子になったのは、いつのことですか？」

「師が “チューリン事件” のことで首都に訪れていた時、その時に無理を言ってお願いしたのよ。私は母を生まれて間もなく亡くして、父も“イグナユグ戦争”で戦死していたから、天涯孤独で。だから、自分自身の境遇を変えたいと思ったの。師の弟子になって首都を離れたら何か人生が開けるかもしれないと思ったのよ。弟子になってからは、師は父か兄みたいな存在だったわ」。

「弟子になってからは、ズーデハーフェンシュタットに移住したと聞きました」。

「そうね。師の率いる遊撃部隊がズーデハーフェンシュタット駐留軍の所属だったからそのせいね。すぐあとにイリア皇帝の直属の部隊になったのだけど、しばらくはズーデハーフェンシュタットに留まって活動していたわね」。

「その遊撃部隊に所属していたのはどれぐらいの期間だったのですか？」

「一年ぐらいね。ズーデハーフェンシュタットにいたのもそれぐらいになるわ。共和国が解放された後、遊撃部隊は解散してしまってので、それまでの間よ」。