ソフィアの証言~隠された策謀~その3

「それでその後、お爺さまはどうなったんですか?」

「師は、反逆者として軍法会議にかけられて死刑を宣告されたけど、恩赦になって解放されたわ」。

「よかった」。

 クララは “死刑”という言葉にドキッとしたが、恩赦になったと聞いて安堵のため息をついた。そこで祖父であるユルゲンが死刑になっていたら、自分はいまここに存在していない。


 そんなクララの様子を見てオレガは微笑んだ後、話を続けた。

「共和国が解放されることになって、もともと、ほとんどが共和国出身者の多かった遊撃部隊は帝国軍から離れてバラバラになって、隊員達はそれぞれ共和国軍に編入されることになったのよ。でも、共和国軍を仕切り始めたコフのやり方が気に入らなくて、元遊撃部隊の多くが軍を辞めて行ったわ。その後、私たちは二か月ほどはモルデンに滞在していたの。その間に師から、『恩赦されて無事で首都にいる』と手紙を届けてもらったのよ。それをもらった時はとてもうれしかったわ」。

 ソフィアはそのことを思い出したのか、とてもうれしそうに微笑んで見せた。

 

「モルデンを掌握した話や、お爺様が一人で降伏して、軍法会議に掛けられたという話は、全く知りませんでした」。

イリーナは驚きをもって感想を言った。

「そうなの? なら、軍法会議の話も帝国の側で秘密にされたんじゃないかしら。その理由は、ちょっとわからないけど」。


 ソフィアが語る、“ソローキン反乱”についてはここまでだ。

 イリーナとクララは取材の内容のメモを改めて眺めていた。


 ソフィアがふと思い出したように言った。

「そういえば、先月、同じようにあの頃の話を聞きに来た人がいたわ」。

 イリーナは驚いた。自分たち以外にも同じように共和国の再独立の頃の謎について解明しようと思っている人がいるという事だろうか?

「それは誰ですか?」

「“ブラウグルン・ツワィトゥング”の新聞記者よ。名前は確か…、ブリュンヒルデ・ヴィルトという若い女の人だったわ。なんでも師の再評価をしたいと言っていたわ」。

 モルデンで、オットー・クラクスから聞いた人物と同じだ。二人はその名前をメモした。

 現在、この国でユルゲン・クリーガーは裏切り者と呼ばれ評価は悪い。それを見直そうとしている人物がいるのか。


 雑談を少ししたあと、そろそろ潮時と考えたイリーナとクララは、最後にコップの水を飲み干して立ち上がった。

「貴重なお話をありがとうございました」。

「また、いらっしゃいね」。

「はい」。

 二人は元気よく返事をした。そして、会釈をしてソフィアの部屋を出た。さらに、隣の部屋で家事をしていた息子ステファンにも挨拶をしてから建物を後にした。


 二人は、適当に街を歩いて、雰囲気のよさそうのカフェを見つけて中に入った。

 だいぶ古いお店みたいだ。中は少々薄暗い。ほかのお客はさほど多くなかった。

 ウエイトレスがメニューを持ってきたが、メニューもちょっと年季が入っている。メニューには店の名前が書いてあった。


 “カフェ・ミーラブリーザ”。


 二人は少し考えてから、イリーナは紅茶、クララはグレープジュースを注文した。


 そして、ソフィア・タウゼントシュタインの証言からわかったことを確認した。

 イリーナはメモをする。


【分かったこと】

 ・“ソローキン反乱”は皇帝がソローキンを排除するための謀略であったこと

 ・ユルゲンが率いる遊撃部隊が共和国の反乱に加担してモルデンを掌握したこと。

 ・そもそもユルゲンは、かなり前から共和国の独立派と内通していたこと。

 ・ユルゲンは一人で降伏し、軍法会議において反逆罪で死刑宣告を受けるが恩赦されたこと。


【謎】

 ・モルデン掌握、死刑宣告と恩赦について秘密にされている理由は不明。

 ・ユルゲンが裁かれた軍法会議の記録が残っているか確認する。


 その後は、今日の夜の食事を何にするかなどを話しながら待っていると、注文の品が運ばれてきた。


 早速、ジュースをストローで啜っているイリーナに向かって、クララはふと思いついたことを相談しようと声を掛けた。

「ねえねえ」。

「なに?」

「明日、“ブラウグルン・ツワィトゥング”の新聞記者に会いに行かない?」

「えっ?!」イリーナはその言葉に驚いた。本当なら、明日の朝にアリーグラードに戻るため、駅馬車で出発する予定だった。「まあ、他に急ぎの予定はないからいいけど」。

 お金は少し多めに持ってきたので、宿賃は、もう一泊ぐらいなら何とかなる。

「じゃあ、行きましょう」。

「ええと、名前は確か…、ブリュンヒルデ・ヴィルト」

 イリーナはメモを取ったノートをカバンから取り出して名前を確認した。

「その人、私たちの知らないことも、取材で知っているかもしれない」。

「会ってくれるかしら?」イリーナは首を傾げて考えた。「それに、会えたとしても、知っていることを教えてくれるかもわからないよ」。

「“ダメもと”で聞いてみようよ。ちょっと新聞社も見てみたいし」。

 クララは、にっこりと笑ってジュースをストローで一口飲んだ。


 二人は、新聞社“ブラウグルン・ツワィトゥング”に行くことを決めた。

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