証言者探し

 イリーナとクララは、 “ユルゲン・クリーガー回想” と彼の遺品の資料から、彼の生前の交友関係を調べた。もし、今も存命の人物がいれば直接話を聞きたいと思ったからだ。


 イリーナは自分の手元のメモを見て話を始める。

「お爺様の交友関係を調べた結果、特に親交が深かったと考えられるのは、彼の弟子だった三人。オットー・クラクス、ソフィア・タウゼントシュタイン、オレガ・ジベリゴワね」

 “深蒼の騎士” は伝統的に子弟制度で剣術、魔術などの伝授が行われていた。大抵、師には二~三人の弟子が付き、その教えを乞う。 “深蒼の騎士” 達は、過去何十年もこの方法でやって来たという。共和国では、その伝統はまだ受け継がれているという。


イリーナは話を続ける。

「お爺様が生涯で弟子にしたのは、この三人だけのようね。他の “深蒼の騎士” についても少し調べてみたんだけど、お爺様の弟子の数は他の騎士と比べても圧倒的に少ないわ。でも、その理由はちょっとわからないわ」

「うーん。それは、私もわからないなぁ」

 クララは首を傾げて言った。

「何か、理由がありそうね」

「その内の一人、オレガお婆様は、街の北部の住宅街に住んでいるわ。私も彼女とは何度か会ったことがあるよ」

 オレガ・ジベリゴワはパルラメンスカヤ人民党の設立者で初代党首として “人民革命” を指導したヴィクトル・ナタンソーンの約四年間だけだがパートナーだった人だ。革命の内情も聞けるかもしれない。

「今度、都合のいい日を聞いておくね」

「お願い」


 その他の弟子であったオットーとソフィアの住所はユルゲン・クリーガーの遺品の中に手紙のやり取りをしていたのが残っていたので知ることができた。

 オットーの住所は、ブラウグルン共和国の第三の都市モルデン。ソフィアの住所は、同じく共和国の首都ズーデハーフェンシュタットとなっていた。


 イリーナはオットーに、クララはソフィアという風に分担して、『ユルゲンについての話を聞きたいので会えないか』、という内容の手紙を早速、この場で書くことにした。もし、彼らが存命で同じ場所に住み続けていたら、この手紙が届くだろう。手紙が届かなかったら、その時に改めて考えることにした。


 手紙を書き上げると、イリーナとクララは、さらに他の証言者が居ないか話し合ってみた。

 次にユルゲンが隊長を務めていた傭兵部隊の隊員隊達。

 ユルゲンと親しく、傭兵部隊の設立から所属していた隊員達の多くは “チューリン事件” で死亡していた。しかし、フリードリヒ・プロブストはその後も生き残って、副隊長を務めていた。そして、共和国の再独立後は、彼は定年で退官まで共和国軍にいたそうだ。しかし、彼の現在の消息は分からなかった。


 最後にブラミア帝国軍の人脈。

 彼の妻で皇帝親衛隊の隊長ヴァシリーサ・アクーニナ。

 彼の上官、第五旅団長ボリス・ルツコイ。

 そして、帝国の最後皇帝イリア。


 ユルゲンの妻、すなわち、クララの祖母であるヴァシリーサ・アクーニナは三年ほど前に亡くなっているという。クララによると彼女の遺品を調べてみたが、当時の参考になりそうな物は、ほとんどないということだ。

 ユルゲンの上司であったボリス・ルツコイは、もし、存命であれは百歳を超えるので、すでに亡くなっていると考えていた。話を聞くことは叶わないだろう。

 皇帝イリアは存命かもしれないが、“人民革命”の際、隣国のテレ・ダ・ズール公国へ脱出した後の消息は知られていなかった。


 その後、二時間ほど話し合ったが、二人は他に話が聞けそうな人物は、見つけることができなかった。仕方ないので今日のところは諦めて、イリーナは退散することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る