捜査12日目~刺客
クリーガーは、オストハーフェンシュタットに足止めされていた。本来であれば、今日はすでにズーデシーシュタットへ向かっているはずだったが、警察によって街を出ることが許されないでいた。
しかし、久しぶりのオストハーフェンシュタット滞在なので、部屋にいるのはもったいない。泊っている宿屋から出かけて、街を散策することにした。警察には “街を出るな” とは言われたが、“街中を出歩くな” とは言われていない。
クリーガーは制服を着て、剣とナイフを持ち宿屋を出た。徒歩で街で一番賑やかなところへ向かおうと思った。少し離れた後に、ついてくる人物が二人いる。クリーガーは、それにすぐに気が付いた。おそらく警察の関係者だろう。わざとわかるように尾行している。クリーガーに監視しているという事をわからせるためだろう。
クリーガーは尾行を気にせず街の中心部に向かう。
オストハーフェンシュタットはズーデハーフェンシュタットと同様の港町なので、雰囲気はよく似ている。街中には帝国軍の監視が立っているが、住民の人出も多かった。住民は監視をさほど気にしていないようだ。
クリーガーは、街中の市場に向い、そこにあるレストランで昼食を取った。時間をかけて魚料理を食べた後は、港の方へ向かった。港は昨日、貨物船から降りた時と同様に人で賑わい、船からの下した荷物を運ぶ人であふれていた。
街や港を散策し、市場で食料の買い出しをして過ごすと、いつの間にか時間は夕刻になり、日が落ち出てきた。
一般住民は夜間外出が禁止されているので、通りの人出が減ってきただろうか。クリーガーもそろそろ宿屋に戻ろうと思った。
宿屋に着く頃は日も完全に落ちそうになり、辺りを暗闇が包み、通りにはほとんど人がいない状況になっていた。光は、窓から漏れるランプの明かりと、通りを監視している帝国軍が持つ松明の明かりぐらいしかない。クリーガーの後ろには監視の警察が少し離れたところで相変わらず尾行している。
クリーガーは宿屋に入り、自分の部屋に入った。
ランプに火を灯す。市場で買ってきた食料を袋から出して、それを食べたりして、くつろいでいた。しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。
誰だろう? ここを訪問する予定の者はいないはずだ。警察関係者だろうかと思いつつ扉を引いた。
少し扉が開いたところで、突然、外から勢いよく扉が開かれた。クリーガーは意表を突かれ後ろへ倒れこんだ。
中に入ってきたのは、二人の男だ。見覚えがあるが、警察関係者とは違う。二人とも剣を抜いている。クリーガーの剣はテーブルの上だ、立ち上がって取るには間に合わない。ここは魔術を使って対処する。
クリーガーは床に倒れこんだまま両手を二人に向けて上げた。火炎魔術を使い、火の玉を放った。
先に入ってきた男に火の玉が命中し炎に包まれた。その男は叫び声上げながら床に倒れて、転げまわっている。もう一人はそれを気にせずクリーガーに向かってきた。クリーガーをめがけて剣を振り下ろす。クリーガーは床を転がり、寸前でその剣を躱した。剣は木の床に突き刺さり、男はそれを抜くために数秒、時間がかかってしまった。その隙にクリーガーはテーブルまで駆け寄り、剣を鞘から抜き、鞘を放り投げた。
一対一では、精鋭 “深蒼の騎士” であるクリーガーに勝てるものはそう居ないだろう。決着は一瞬でついた。男の剣が向かってくるのを弾き、クリーガーの剣は相手のみぞおちあたりに突き刺さった。
男はうめき声をあげながら、床に崩れ落ちる。
一方の火だるまの男も黒焦げで動かなくなっていた。魔術の火は普通の火とは違い、高温で消しづらい。一人で消すことは不可能だったろう。人の焼け焦げた嫌な臭いがする。クリーガーは部屋の中の空気を換気しようと窓を開けた。外の冷たい空気が入ってくるのが感じられた。
そうしていると、先ほどクリーガーを尾行していた警察の二人が、騒ぎに気付いたのか部屋に入って来た。その内の一人が床に転がっている二人の遺体を見て質問をする。
「これは一体?」
「二人が突然、部屋に入ってきて襲われました」。
二人は倒れている刺客の様子を調べてみた。両方とも絶命している。
「この二人に心当たりは?」
この二人、どこかで見たことがある。クリーガーは少し記憶をさかのぼってみた。
そうだ、ズーデシーシュタットからここに来るために乗っていた貨物船の甲板にいた二人だ。
「心当たりがあります」。
クリーガーは貨物船での話をした。二人とは少し会話をしただけで、それ以上の関係はない。
警察の一人は一旦部屋を出て、ノイマン警部を呼んで来るとのことだ。
宿屋の主人もやってきた。ほかの宿泊客も廊下へ出て、こちらの部屋をうかがっているようだった。
クリーガーと警察関係者は事情を宿の主人に説明した。主人は部屋の焼け焦げた部分の修復について心配しているようだった。クリーガーは軍に修復費を出すよう依頼すると言うと、主人はその場は納得したようだった。
しばらくして、ノイマン警部が部下を数人引き連れてやってきた。
警部は部屋の中を見回して言った。
「話は聞いた。ひどい目にあったね」。
「相手が二人であれば、やられたりしません」。
クリーガーは部屋のベッドに腰を下ろして答えた。
「なるほど、腕が立つんだな」。
警部はそういうとしゃがんで二つの遺体を覗き込んだ。彼の部下が遺体をまさぐって持ち物を調べる。しかし、身元が分かるようなものは何も見つからなかった。
警部は立ち上がってクリーガーに向き直った。
「船で二人を見たと聞きましたが、狙われる心当たりはありますか?」。
「あります。傭兵部隊は元共和国軍のよる反乱分子の弾圧なども行っていて、彼らには裏切り者と言われます。なので、敵視するものは多いでしょう」。
「なるほど。反乱分子か。なぜ彼らが貨物船に乗っていたかだ。船はヴェールテ貿易の持ち物何だろう? ヴェールテの家族が殺されている件と関係あるのでは?」
「ヴェールテ家の事件と関係があるとして、なぜ、私を狙うのでしょうか?」
「事件を調べているものを亡き者にしようとしているとか。要は捜査妨害だ」。
「捜査妨害?」
クリーガーは言葉を繰り返すと、嫌な予感がして、ハッとなった。マイヤーとクラクスも狙われるのでは? 思わず立ち上がった。
その様子を見てノイマン警部は不思議そうに尋ねた。
「大丈夫ですか?」
「部下たちが危ない」。
クリーガーそういうと、出発のために荷物をまとめようとする。ノイマン警部はその様子を見て静かに話した。
「落ち着いて下さい。この時間では駅馬車も出ていません」。
「では、馬をどこかで調達して一人で戻ります」。
「待って下さい。クリスティアーネ・ヴェールテの死の件で、まだあなたにはここに居てもらわないといけません」。
「私を疑っているのですか?」
クリーガーは少々荒っぽい口調になった。
「はっきり言うと、そうです」。
ノイマン警部はきっぱりと言った。
「私は今、命を狙われたのですよ?」
「しかし、この二人がヴェールテ家の事件と関係あるとは決まっていません」。
クリーガーはそれを聞くと、力が抜けたようにベッドに座り込んだ。それを見て警部は穏やかな口調で言った。
「だから、まだ、この街に居てください」。
クリーガーはため息まじりに答えた。
「わかりました」。
「拘束しないだけマシだと思ってください。部下に引き続き監視をさせておきます。少しでも怪しいが者いたら、宿屋が入らせないようにさせます」。
そういうと、ノイマン警部は部下達に言って、遺体を運び出させた。
しばらくして、部屋から全員退出した。
クリーガーは、部屋の扉の様子を見た。先ほど刺客の二人の激しく開けられたが、壊れてはないようだ。クリーガーは扉を閉めた。そして、換気のための開けていた窓も閉めた。
テーブルの上を見ると、先ほど市場で買った食料が袋に入っているが、この騒ぎのせいで食欲は完全になくなってしまった。
クリーガーはもう一度ため息をつくとベッドに座り込んだ。
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