捜査3日目
捜査3日目~副市長の死
マイヤーとクラクスはその日、朝一でルツコイの執務室を訪れた。
ノックをして中に入ると、いつもの様にルツコイは椅子に腰かけて何やら書類を読みふけっていた。
「どうした?」
ルツコイは尋ねた。
「実は、副市長に聴取をしたいと考えておりますが、何とかなりますか?」
「捜査が進んでいるんだな?」
「副市長のエストゥスからも話を聞いてみたいと思っています」。
「わかった、そう言うことなら、私の権限で呼びつけよう。しばらく待っていてくれ」。
さすが、話が早い。ルツコイは帝国駐留軍の司令官、実質的にこの街の支配者だ。
ルツコイは執務室から出て行った。
副市長を待っている間、クラクスは落ち着きなく執務室の中を歩き回っている。一方のマイヤーはじっと座ったままで、たまにクラクスに話しかけていた。
数分でルツコイは戻って来た。彼、曰く、副市長を連れてくるのは部下で副旅団長のレオニード・コバルスキーに依頼したという。
さらに一時間程度待たされただろうか、副旅団長コバルスキーがエストゥス・ヴェールテ副市長を連れて執務室へ戻ってきた。
「ルツコイ司令官、一体何の用ですか? 私は忙しいんです」。
副市長はお冠のようだ。大声で文句を言っている。彼の額に汗を大量にかいているのが見えた。今日はそんなに暑かっただろうか? それとも、呼び出されて、あわてているのだろうか。慌てているということは、長男の殺害の犯人という事か?
ルツコイは副市長をたしなめる。
「良いから、彼らの話を聞きなさい」。
マイヤーは切り出した。
「あなたのお兄さんのハーラルトさんと、お父さんのブルクハルトさんの死について捜査しております」。
副市長はそれを聞いて、顔を上げて怪訝そうな表情を見せた。
「まさか、私を疑っている?」
「いや、お話を伺いたいだけです」。
「兄のことは知らないし、父は病死だ!」。
副市長は突然、叫んだ。そして、体を震わせている。
「落ち着いてください」。
マイヤーはたしなめる。マイヤーは彼のこの慌てように少々怪しいと感じた。
「お兄さんの事件について警察が捜査していたら、内務局からストップがかかった。誰かが手を回したのは間違いないのですが、それが誰か、ということです」。
「私は知らない!」。
副市長は大声を上げた。そして、汗を手のひらで拭う。
「では、パーティーに参加していた旧貴族で、そう言うことをしそうな人物をご存じでないですか?」
「知らない!」
副市長は再び叫んだ。
「まあ落ち着いて。少し体調が悪そうですが大丈夫ですか?」。
ルツコイは、部屋にあった水差しからカップに水を注ぎ副市長に渡した。
「これでも飲んでください」。
副市長は震える手でカップを受け取ると、水を飲み干した。
水を飲んだ副市長は少し落ち着いたように見えた。体の震えが止まったようだ。
しばらく間を開けてマイヤーが話かけた。
「では、続けてよろしいですか?」
副市長は、うつむいたままじっとしている。
「副市長?」
マイヤーは、もう一度声を掛ける。
「副市長!?」
ルツコイが肩をゆすった。
すると副市長の体は前のめりとなり、力なく椅子から床へ倒れ込んだ。手に掴んだままのカップから水がこぼれだす。
その場にいた三人が狼狽した。
ルツコイが叫んだ。
「医者を!」
クラクスが執務室を飛び出して、医務室に向かった。
数分後、クラクスが軍医のアリョーナ・ザービンコワを連れてきた。
軍医は、副市長の脈を取った。彼は首を横に振った。
「何ということだ」。
ルツコイが声を上げた
「毒か?」
クラクスが副市長が掴んだままのカップを指さした。
「そのカップの水! それに!?」
マイヤーも叫ぶ。
「待て、待て。水は、そこの水差しから注いだものだが、私も先ほどその水を飲んでいる」。
ルツコイは水差しを指さした。
「念のため、その水を調べるので、そのままにしておいてください。そして、その遺体を医療室に運んでもらえますか」。
ザービンコワはそう言って、一旦部屋を出て行った。
マイヤーとクラクスは副市長の遺体を担いで医療室に向かった。
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