第940話「乗合馬車の組合員と商工ギルド」


 コールドレインの街に着くなり、ハリスコの大激怒でお迎えになった。


 怒られているのは僕に捕縛に参加した御者達だが、この一件で僕は新たな繋がりを得た。



 各方々へ乗合馬車を運行する、乗合馬車協会だ。



 彼等の母体たる協会の出資の一部は、商工ギルドの有力者となったマッコリーニとハリスコも出資していた。


 大株主がマッコリーニであり、帝国拠点をハリスコが用意したのだった。


 

「すまねぇ……まさかハリスコ親父さんの恩人とは………」



「構いませんよ?色々僕も教えて貰えたし……。そもそも乗合馬車協会なんて物があるとは思いもしませんでしたから!」



「まぁ……乗るだけの客がそれに興味を持つ方がおかしいからな……」



 そう言った彼は『俺は全世界規模の協会を目指しているんだ。今はまだ帝都近隣の比較的大きな街や村と、周辺諸国にしか手がまわらねぇけどな!』と説明をした。



「って事は……この周辺の地理感も詳しいんですよね?」



 僕はそう言った後、国境付近で危険が少ない移動経路を訪ねた。


 理由は、人間同士の戦争に巻き込まれず冒険者を続けるためと答える。



 もしディーナの亭主がダンジョンを利用して他の領土に移動したならば、数種類の戻り方を探しておく必要がある。


 五体満足にダンジョンから脱出できていれば御の字だが、ドドムはなんせ単独行動でダンジョンアタックをしているのだ。



 悪い方の可能性も考えておく必要がある。



「うん?俺等はたしかに乗合馬車やってて、周辺諸国やら国境情報には詳しい方だぜ?今回はアンタにかなり迷惑をかけた……もし利用するなら一言で声かけてくれや!悪い様にはしねぇから!」



「是非お願いします。僕は冒険者であり傭兵ではないですから。戦争地帯だけは避けておきたいので……」



「ああ!国境馬車だったら俺達に分があるから、是非頼ってくれ!それにアンタだったら護衛雇うのも少なくてすみそうだしな!」



 御者がそう言うと、ハリスコは力一杯その頭をぶん殴る。



「馬鹿を言うな。山賊や盗賊なんぞを相手だと?万が一そんな事を任せでもしたら、襲ってきた奴は跡形も残らんぞ?」



「ハリスコの親父さん……そう言えばそうっすね……水龍サザンクロス様と普通に会話してた事を忘れてましたぜ!」



 そう言われたハリスコは大きく口を開けたまま………『はががががが』と言いはじめた。



 ゼフィランサスとエーデルワイスだけでも充分すぎる戦力に水龍を加えたのだから当然だろう。


 双子の水龍ウィンターコスモスの事は、ハリスコには黙っておいた方がいいだろう。



「それはそうと大親分!テカロンが戻っていたらギルドに顔出せと言ってましたよ?」



「え?テカロンギルドマスターが?モルダーさん……要件はどんな事か聞いてます?」



「ダンジョンの事と、武器の事とか言ってましたぜ?」



 僕はモルダーにそう言われて、すぐにギルドに向かう………


 ◆◆



「ギルマス!!仕事の時間終わったからって飲み過ぎですよ!?」



「うるへぇ!飲まずにやってられるか!!駆け出し冒険者は武器がねぇと死んじまうんだ。既に3人も帰ってこねぇ……血濡れの武器と盾……回復さえ持ってれば、死なずに済んだ命かも知れねぇんだぞ?飲まずにいられるかっての!!」



「いやいや……冒険者ですぜ?死ぬのも覚悟して潜るもんでしょう?ってかヒロが帰ってきた様ですよ?」



「おい!ヒロ………オメェ……武器を……武器をありがとう……うわぁぁぁ!お前の陰で駆け出しの死亡率が久々に減少したんだぁぁうわぁぁ……」



 そう言って酒臭い顔を寄せてくるテカロンを、僕は遠ざける。



「って……もの凄く酒臭いですよ?いつからに飲んでるんです?ギルマス……んで?また何か問題が?」



「オメェがモルダーに武器を降ろしたおかげで、ダンジョンに潜る駆け出しの危険が………うっぷ…………」



 どうやら相当飲んだのだろう……話している最中にギルマスのテカロンは猛ダッシュをする。



 周囲に居た冒険者はそれを見て笑いながら『またやってるよ……泣くか笑うか、黙るか吐くか……ハッキリしろよ!』と言われている。



 どうやら、モルダーに渡した武器が格安で駆け出し冒険者に販売されて、その結果がギルドにしてみれば良い方向に動いている様だ。



「でもさっき……誰かが死んだとか……」



「ああ……それなんですけどね……。どうやら気合いが空回りした奴がいたみたいで、装備と持ち物の一部だけ発見されたんですよ……」



「ダンジョン第5層まで降りたみたいなんで……あそこの魔物は階段付近はテンタクルワームがメインだけど、近くにダンジョンスカラベの巣が有りますからね……死んだ場合は虫の餌決定ですよ……」



 僕が死亡事故の話を聞くと、思わぬ弊害が出てきた。


 実力に共わないない武器を手に入れた事で気が大きくなって、下層へ挑んだ結果痛い目を通り越した……と言う事だろう。



「でもテンタクルワームが相手なら、傷薬があれば最悪ぢうにでもなるんじゃ?」


 僕がそう聞くと『5層のテンタクルワームは特殊麻痺を使いますから……1階でも稀に使う触手の攻撃ですよ……』と冒険者の一人が言った。


 冒険者の情報を整理すると、テンタクルワームの麻痺針で動けなくなった冒険者は、ダンジョンスカラベに生きたまま食われるそうだ。


 とんでもないコンボである……



「そんな危険な連携だと、危険階層扱いじゃないんですか?」



「大親分そうでもねぇんですよ。そもそも仲間と行動してますよね?だから大概は仲間の護衛でなんとかなります。魔物と言っても、所詮は小型昆虫類ですからね」



「モルダーさんの言う通りです。5階層で雑魚ですから……そもそもその奥には「コボルド・スカベンジャー」「コボルド」「コボルド・ウォーリアー」が居ますから……脅威なのは寧ろ知能が有るそっちですね……」



 僕はそれを聞いて『なら不注意からの事故って事で間違い無いのかな?』と確認すると、ほぼ全員がそうだと言った。


 しかし傷薬が街に少ないのは確かな様で、怪我人が続出している話はあちこちで聞かれた。



 『ならディーナさんの件もあるし……下級冒険者の手に入れ易い傷薬メインで作れば、製薬経験値の底上げにもなるし一石二鳥だ……』と僕は考えた……



 しかし問題は何も片付いてはいない……僕を呼んだ張本人はトイレに一直線したからだ。



「因みに……僕が呼ばれた理由はなんでしょう?何か頼み事なんですかね?」



「ああ……多分13階段の事じゃないかと……ここ最近ギルマスは銀級冒険者を伴って、13階段を調査してますから……」



「13階段?なんか……嫌な響きですね……どんな場所なんです?」



「13階層の中心部にある不壊の階段で、何処にも通じてないんですよ。どう見ても設置途中の階段なので、何の為にあるかずっと疑問だったんです。それをギルマスは改めて調査すると、突然数日前に言い始めたんです」



 ギルマスが言い出した日が、僕達が帝都へ向かった日か聞くと二つ返事でそうだと答えるギルド職員に、僕は『成程』と答えた…


 僕が帝都に行っている間にも、ギルマスはそれなりに調査をしてくれていた様だ。



「成程……それで………」



「お兄ちゃん!!なんですぐに帰らないの!?お母さんもメルルもずっと待ってたんだよ!!」



 話の続きを聞こうとした僕に『きぃー!!』と怒るメルルは、二日間ギルドと家の往復を何度もしている様だ。



 何故ならギルドにいる冒険者が『坊主!お前また来たのか?』『坊主……朝もいたよな?』などと口々に行っている。



 『ずんずんずん』と冒険者の足元を強い歩調で抜けてくると、僕の手を取り『早くメルルと帰るの!お薬作ってくれるんでしょう!?』と言ってきた。


 前までは男装までしてダンジョン前に居たが、今はギルドの中にまで来ているようだ。


 

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