『閑話・帝都の姉妹は問題児!?・前編』 


「お父様にお姉様。これを見てくださいまし!このマジックアイテムを!」



「エクサルファ!!朝の祈りの最中に居なくなって……そんな事では、お父様がお目覚めになったら哀しみますよ?」



 エクサルファは姉の言葉など聞かずに、父親のベッドにダイブする。



「お父様!起きて聞いてくださいまし!!これはすごい素晴らしいマジックアイテムなんです!」



「今すぐお父様のベッドから降りなさい!全く……貴女は姉のペダルファを見習いなさい!」



「だってお母様……お父様が意識を失って随分経ちます……お父様の好きな音楽を聞かせれば、もしかしたら目が覚めるかもしれませんでしょう?」



 そう言われた母親は、怒る事をやめる……


 ペダルファと呼ばれた姉は、泣きそうな顔の妹を抱き寄せる……



「哀しいのは貴女だけではないの……エクサルファ。お父様が早く起きる様に、お母様と一緒に風精霊様にお祈りしましょう?」


「そうね……ペダルファにエクサルファ……お祈りしましょう」



 そう言った皇后は『でも悪いことばかりではないの……良い事もあるのよ?帝国を象徴する『水龍様』の尻尾が発見されたそうよ?本物かどうか分からないけど……今義弟のドネガンが調べてるから……」と言う。



 母親はそういうと、ベッドの前で風精霊に祈りをあげる。


 それを見たエクサルファとペダルファは、同じように復唱して祈りをあげた。



「さぁ……お父様を寝かしてあげましょう……私達はドネガン叔父さんが来るまで、お庭でお茶でも飲みましょう?」



「「はい!お母様……」」



「それで?エクサルファ……何か良いマジックアイテムを手に入れたの?まさか手に持っている板じゃ無いわよね?とてもリュートや小型のハープには見えないけど……」



「そうなんです!ペダルファお姉様……見てくださいまし!」


 エクサルファはベスト10の中から一番気に入った1曲を大音量でかける……



「え!?なに……それは?その板から何故そんな音が出るの?………と言うか声まで?そもそも誰の声なの?吟遊詩人にしては……やけに上手いわ……」



「エクサルファ……それは音を鳴らすマジックアイテムでは無く、音楽を奏でるマジックアイテムなの?」



「お母様……そんなアイテムは未だ嘗て聞いた事もないわよ?」



 母とペダルファは交互に質問をする……


 聞いた瞬間その音の虜になったエクサルファと同様に、ペダルファもスマホの虜になる。



「そんな物何処で手に入れたの?って言うか……幾らしたのよ?」



「えへへへ………気になるでしょう?おねぇ様も………」



「あ!!朝から走って行ったのはそれが目当てだったの?」



「え?違うのよ……風精霊様の神託があって、前日に助けて頂いたって話したじゃない?その方が何と宮殿にいらしたの!!それが風の神託であれば……運命だと思うでしょう?」



「か……風精霊様の神託!?何故それを言わないのよ!!……それも宮殿に!?と言う事は……コールドレインの関係者って事ですよね?」



 そう言った母親は『であれば冒険者では無いのですか?貴女帝国皇女である事を忘れましたか?』と更にお小言をいう……



 母にお叱りを受けたエクサルファは、苦虫を噛み潰したような顔をする。


 それを見たペダルファは何時もなら妹に注意をするのだが、今日は珍しく妹の肩を持った。



「お言葉ですがお母様……助けて頂かなかったら……エクサルファはもうこの世には……」



「!!……た……確かにコクゴウの報告にありましたね。手練れの冒険者で、一瞬で数名を無力化したと……」



 ペダルファは『宮殿に居ながら御礼を言わなかった皇族とならなかったのは、エクサルファのお陰でもありましょう……』と言う。



 しかしそれを聞いたエクサルファは非常に青い顔になる……


 何故ならジャイニズムを発揮して物を貰っただけで、御礼など一言も言っていないのだ。



 それどころか風っ子に言われたスライムのご飯を、彼女は勝手に食べた。



 『助けて貰った御礼を言わずに、欲しい物だけ手当たり次第に搾取した皇族』と言われても文句は言えない状況だ。



 そのエクサルファの表情を見て母親は……『貴女……その顔はまたやらかしましたね?………ま……まさか……そのマジックアイテム……』と言う。



 素晴らしく感がいい一言だ。



「え……えへへへへ……お母様……お姉様……どうしましょう……」



「「だから貴女は!!」」



 次女の行動に、親子揃ってそれはもう大激怒だった。


 メイドが見て『流石に哀れだな』と思うくらいボロクソに言われるエクサルファは、メンタルがゴリゴリ削られて泣き顔だ。



「はっはっは……また怒られているのか?エクサルファ殿下……今度は何をやらかした?」



「ああ!リベレート叔父さん!!良いところに……」



「リベレート叔父様……エクサルファを甘やかさないで!馬鹿な妹が今日は何をしたか……流石の叔父様だって、聞いたら驚くわよ?」



 エクサルファが怒られている所に、助け舟に乗ってきたのはドネガン公爵だった……


 流石に助けて貰った冒険者から搾取した話を聞いたドネガンは頭を抱える。



 しかしエクサルファは『叔父様……殿下はやめて!叔父様にそれを言われると……他人になった気になるわ!!』と違う事で憤慨している。


 ドネガンは『やれやれ……何時迄経っても、じゃじゃ馬は変わらんか……』と小さな声でエクサルファの母親にいった。


 それを聞いた母親は、周囲のお付きを下がらせて家族の空間を作る。


 ドネガン公爵が娘達へ叔父として接する時間を、彼女は大切にしていたのだ……


 唯一あらゆるしがらみから解放される家族の時間だ。



「いいか?エクサルファ……冒険者と貴族の約束事は規約としてあるんだぞ?ダンジョンから得た財宝を搾取する権限は、どんな王族や皇族そして貴族にも無いんだ……流石にそれは国潰しになるから気をつけるんだ……いいな?」



「リベレート叔父様……御免なさい。でも凄い方なんです。暖かく出来立ての美味しいご飯をクロークにしまってて……スライムなんかをテイムしているんです!よりにもよってあのスライムですよ?面白いでしょう?」


 そう言ったエクサルファは『それに見てください!このスマホと言うマジックアイテムを!欲しくなるのが仕方ないと思いませんか?』と言って、ドネガンの目の前にスマホを掲げる。



 『エクサルファはまた騙されたのか?』とドネガンは思い苦笑いしつつ、掲げられたそれを見た瞬間目を見開いた……



「そ………そそ………それは?まさかエクサルファ……ヒロの持ち物を搾取して来たのか?」



 母親とペダルファは顔を見合わせる……


 普段よりあまり驚く様を見せないドネガンが、まさかの表情だからだ。


 ペダルファはあまりにもびっくりしている叔父に質問をする……



「リベレート叔父様ご存知なのですか?エクサルファったら朝のお祈りの最中に走って行ってしまったんです!帰ってきたらその板を持ってて……それを知った私は、お母様と怒ってたんです!」



「ペダルファ……知ってるも何も……昨日持ってきた財宝を献上したのは彼だ……」



 それを聞いて皇后のクレセントムーンはびっくりして、大きな口を開ける。


 そして自分の指にはまっている、巨大なダイヤモンドの指輪を指差しながら、パクパク口を動かしている。



 余程驚いたのだろう……その口は閉まる事がない。



 ドネガンはその様を見てなお、話を続けた……

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