第930話「暴走!?ラムセスの出来心」
「ヒロ殿……ヴァイス騎士団長から話は聞いてましたが……実はとんでもないお方なのですね?……あのこれ……」
「はい?あ?龍の……鱗ですか?」
魔導師ギルドを出た後は、ラムセスに案内されながら帝都の薬草屋と素材屋をしらみ潰しに探し回った。
その最中にラムセスが意を決したように出して来たもの……それは『スカイブルー色をした龍の鱗』数枚だった。
「じ………実は切り離された尻尾から、剥がれ落ちた数枚が私の足元に転がって来まして………つい出来心で………すいませんでした!!」
「え?それを偶然拾ったなら……ラムセスさんの物で良いじゃないですか?」
そう言ってから『そもそも水龍のウィンターコスモスさんは……もう地底湖の巣に帰っただろうし……あの落差は潜れないです。そもそもあの地底湖は強力な魔物が多くて、ラムセスさんでは絶対に返せませんよ?』と情報を付け足す。
そもそもウィンターコスモスの居場所さえ知らないのだから返し用がない。
「ですが……ウィンターコスモス様は『尻尾をヒロ殿に食事代として……』と言ってましたし………そもそもこんな高価な物を盗むとは……騎士にあるまじき行為でありまして。ほんの出来心で………本当に何時もはこんな事はしないんです!!」
「ならラムセスさんにあげますよ。そもそも鱗の使い道が僕にはわからないし……そもそも鱗数枚で使い物になるんですか?……」
僕はぶっきらぼうにそう言う……
何故なら今は水龍の鱗より、ディーナ用の万能薬素材の買い出しが最優先だ。
素材がなければ薬が作れない。
薬がなければ彼女は死ぬのだから、優先順位は鱗に比べれば間違いなく高い。
それに、明日には間違いなく帝都を出るのだから、急ぐ意味では其方が何を差し置いてでも優先だ。
しかしラムセスは『水龍の鱗は、下級種で既に寒冷防御や氷結耐性に使えるんです。他にはタリスマンへの加工や……他にも………』と説明する始末だ。
そしてモジモジして話に集中する余り道案内に集中できておらず、既に道を数回間違えている……
僕にしてみれば、迷惑甚だしいアイテムなのだ。
「へぇ……じゃあ寒い帝都では丁度良いじゃないですか!……ラムセスさんの帝都の道案内代でどうですか?……それに僕は氷結耐性だったら、既にステータスに持ってるから……」
精霊の話ともあり雪ん子の事はラムセスには伝えられない。
だが耐性的な問題であれば、尚更優先事項ではない……
「た……耐性持ちでしたか!!ヒロ殿流石です………で……ですが………それとコレは……」
「なら……1枚だけ返してください。あとはラムセスさんにあげる……で良いでしょう?」
僕はラムセスが手に持つ数枚の鱗から、一枚を引っ掴んでポケットにしまう。
「はい!コレで終了!……って言うか……ラムセスさん……この話をしてから道間違え過ぎです!明日にはコールドレインの街に帰るんですよ?だから急いで素材を買わないといけないので……できればもっと急げませんか?」
「も……もも……申し訳ありません!!りょ……了解いたしました!このラムセス!ヒロ殿の荷物持ちでも、なんでも致しましょう!!」
どうやら今度は空回りを始めたようだ……
全くもって暴走し過ぎなラムセスだ。
彼は僕を置いたまま猛ダッシュをして、あっという間に姿が人混みに消えていった。
『はぁ……もう周辺の人に場所を聞こう……その方が早そうだ………』そう思った僕は、店の聞き取りをしつつ素材を買い歩いた……
◆◇
「毎度あり!!あんちゃんは沢山買ってくれたから、前の店で一服して来な!あそこは俺の娘の店だ。此処で一定金額買ったら一杯無料でご馳走してんだ。行って来るといいぜ!」
「本当ですか?丁度喉が乾いてたんですよ……素材店巡りしてたので……」
「丁度よかったな!……おっと……すまねぇ……木札持っていってくれるか?無料の証だ!」
僕は『有難うございます』と店主に言って木札を受け取り、目に前の薬草カフェに向かう……
「すいません……コレを見せると一杯無料だって……」
「はい!ああ!父の店で沢山買われたんですね?この木札は軽食も付いてる物です。今はお店空いてるので、お好きな席にお座り下さい。今すぐ用意して持っていきますので!」
どうやら現代と違い、メニューは無く頼める種類は限られているようだ。
僕は『はい……あそこのじゃあ外の席でいいですか?』と言ってカフェテリアを指し示す。
「はい!了解しました。では出来次第持っていきますので、お座りになってお待ち下さい」
そう言われた僕はカフェテリアの一角に座り、通りを行く客を眺める。
帝都に来て2日……『まともに帝都街並みを見ていなかった……』そう思ったからだ。
そうして眺めていると、軽食と飲み物が届く。
どうやらメニューは、サラダにカットされたパンあとは果物を絞ったフレッシュジュースの様だ。
「ごゆっくりどうぞ!」
カフェテリアは客寄せには丁度いいのか、僕が座るとあっという間に客が増えて店内の席が埋まってしまった。
「すいません……もう生憎席が埋まってて……申し訳ありません……」
「ええ?も……もう席が無いの?折角来れたのに!店員さん……此処に来れるのは滅多にないのよ!お願いどっかでフルーツサンドを食べれないかしら?相席でも良いの!」
「そ……そう申されても……この店は基本……相席は……」
カウンター付近で何やら騒ぎがある。
店で食べられないお客は基本持ち帰る様だが、何故か今いる客は此処で食べたい様だ。
「持ち帰りができるなら持ち帰ってるわ!ウチは周りと違って面倒なの!爺やがそれはもう……今日だって漸く目を盗んで、巻いて来たんです!」
「ああ!貴族様でしたか……で……ですが……そ……そう申されても……ああ………」
相手が貴族の令嬢と分かり、非常に困っている様だ。
店員はキョロキョロして席が開かないか確認する。
しかし僕が座ってから増えたばかりの客なのだ……食べ物さえ届いてない客が殆どだ。
僕がたまたまチラリと見ると、店員だけでは無く貴族令嬢とも目が合ってしまう。
二人は僕と目があった事に気がついたのか、両方が僕を見ている……
しかし店員と客は、お互い同じ人を見ている事には気がついていない様だ
仕方なく僕は声をかける。
「此処で良ければ相席良いですよ?」
「お客様!本当ですか?」
「いいの?有難う!是非お願いしますわ!」
「「……!?……え!?………あはははは……」」
僕から声をかけられたのが自分だと思った二人は即答を返す。
だが真横から同じ様な返事が帰った事で、自分の勘違いかもしれないと思い声を揃えて大笑いをする。
「私達同じ人を見ていたのね?」
「本当にびっくりしました!えっと……では店員賄いのフルーツサンドで宜しいですね?お嬢様、毎度有難う御座います……この料理お好きですよね?でも賄いなので、まず頼む人いませんよ?」
「わたし貴女が食べてるのを見て『もうコレしかない!』って思ったの!習い事の日の唯一の楽しみよ?」
「そうなんですか?毎度有難う御座います!ではお座りになってお待ちください!」
「あ!まって!2個!2個でお願い!あの方にもお礼で……」
「ああ!成程……はい!追加のご注文有難うございます!」
何やら全部聞こえているが、僕にもお礼の料理が運ばれて来る様だ。
◆◇
「冒険者さん……ありがとう!今日は食べれないかと思って一瞬ヒヤッとしたわ!これはお礼なので是非食べて?」
「あ!有難う御座います……なんか逆に気を使わせてすいません……」
僕はフルーツサンドと呼ばれたサンドイッチもどきを食べる。
真ん中にフルーツが入っているが、ホイップクリームがこの世界にはない……
代わりに葉物野菜が入っていて、サラダサンドに近いフルーツサンドとは全く異なる食べ物だ。
「うん……美味しいですね……」
僕はお世話でそう言うと、貴族の令嬢は同じ味覚だと喜んだ様で大喜びした。
僕はまだ自分のパンを食べてないのだが、貴族令嬢が差し入れてくれた食べ物と比べるとかなりの差がある
そもそもサンドイッチでは無いのだから当然だが……
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