第825話「騎士団長の提案」


 僕はメリッサに、帝都の騎士団本拠地での訓練を提案した……


 騎士団ならではの盾捌きを習うには、もってこいの期間だ。


「ならメリッサさん、帝都にいる間は騎士団の特訓受ければ良いんじゃないですか?盾の使い方とかは勉強になりますよ?運良くナニカに目覚めてスキル手に入れたら役に立つし!」



「アンタ……やる事なすこと滅茶苦茶だけど……。確かに良い案だね!過ごす期間も無駄にならないし……どうだい騎士団さん?」



「うむ……そんな事だったら幾らでも構わんぞ?それで……この『蘇生薬』だが……其方達は我々騎士団へ売る気はあるのだろうか?……できれば皇帝陛下の『死屍のダンジョン』への次回遠征時に是非お持ちしたいのだ!陛下の命は、万が一にも失うわけにはいかんのでな!」



 僕は更に団長へ提案をする。


 問題点を潰す事で、この21人に降りかかる悪辣貴族の問題をなくす為だ。



 悪辣貴族にも色々いる……良い奴に心底ダメな奴……


 だが秘薬がらみで痛い目にあった僕は、ドクリンゴ女公爵の例を踏まえて悪い方の対処は事前にするべきだ……と思ったのだ。



 僕は騎士団隊長に、ポーションを得る事で色々な事が影響し、その身に危険が迫る事を知らせる……



「なら……信用がおける貴族をギルマスへ派遣すれば良いのでは?悪辣貴族や転売貴族に、貴方達騎士団が蘇生薬を持っている事を知られれば、このポーションを狙って騎士団へちょっかいを出しかねませんよ?それに団長さん……貴方も危険に晒されるでしょう」



「……うむ……確かに一理あるな……。我の身に何が起きようとも問題はないが……悪用は皇帝陛下のためにならん……なんとか対処を考えねばならんな……」



「悪辣貴族に渡ったら、蘇生薬自体もお金がらみで消えるのがオチです。所持していれば、有事の時には家族の手で間違い無く生き返れるのですから。内乱とかの悪用にも使用するだろうと考えられますし。皇帝陛下のことを考えるならば、一番王に近い近親者や下心が無い王権派の人がいいですけどね?できれば権力争いと無縁な……」



 ドクリンゴ女公爵事件の事があるので、明確に問題点を言う。


 すると騎士団長は暫く考える素振りを見せ、何か方法を思いついた様だ。



「ならば適任な者がいます……王の信頼の厚く、そして我々騎士団を束ねる大貴族様が!彼の方ならば、陛下を裏切る事は無くまず間違いは有りません……」



 秘薬問題では王都で一悶着あった。


 それを踏まえての意見だったが、どうやら帝都でも『蘇生薬』絡みで何かありそうな予感がする。



「成程……そんな人が皇帝陛下の側に居るんですね?ならばその人を軸に悪辣貴族から『蘇生薬』を守る構図を作れば、今仰っていた遠征には使えるんじゃないですか?それに変な相手に蘇生薬を使われずに済みますし」


 僕はそう言うと、騎士団長は僕を見て不思議そうな顔をする。



「…………話では『駆け出し冒険者』ですよね?……歴戦の冒険者の様な物言いと言い……貴族の問題と言い………ゴホン……こ……これは失礼した!冒険者には冒険者の生き方がありましたな……」



 それを聞いたガルムは大笑いをする。



「そうじゃ!冒険者には冒険者の生き方がある!儂がかつて騎士団に居たが、今は冒険者じゃ……そうだろう?ヴァイス!……」



 どうやらこの二人は、顔見知りだけの話では済まない関係の様だ……


 会話の内容からしてもそれが窺える。



 騎士団団長はその言葉を聞いて、今までの固い言葉を崩す……



「ガルムさんは相変わらず呑気ですね……ところで……話は変わるのですが……。今回の蘇生薬の一件を全て精査したいので、関係者全員を帝都の騎士団本拠地に呼べませんか?……ガルムさんならそれが可能ではないか……と言われたので……」



「儂がか!?………誰がそんな………ああぁ……テカロンお前か!!」



「ガルムなら……ってな。そのなんと言うか……お前は新人達のカリスマみたいな冒険者だろう?だから俺から団長に聞いてみてはどうか?と言ったんだ……まぁ個人の意思が尊重されるから全員は無理かもしれないとは言ってあるぞ?特に………」



「うん?………ああ!!………幼女好きの問題児か?」



「幼女は好きではないですから!男の子だと思ってたんです!!帽子の中に髪の毛しまって男の子に扮してるだろう!とか……会った時には普通考えませんよ?」



 ギルマスとガルムは僕を揶揄いながら大笑いをする。


 しかし僕とすれば帝都に行くのは願ったり叶ったりだ。



 そして僕の目的は、三人を鑑定神殿に連れて行く事だ。


 僕達自身にあまり関係のない問題より、この三人にとって良いチャンスの方を活かしたい……



「あのー……勝手で申し訳ないんですけど……帝都に行くならば、アサヒとアユニを鑑定神殿に連れてって貰えませんか?実は訳ありでして……鑑定神殿は、鑑定するモノによって行ってもすぐに鑑定して貰える場所ではないんですよね?」



「鑑定神殿ですか?……確かに鑑定神殿はそれなりに予約が必要で、一定期間予約で待つ場合が若干あります。ですが、待つ場合は『血種スキルや家系スキル』でしか……!!……成程……彼女達がそれにあたると……」



「付け加えるならば、彼女達の職業は数が少ない特殊ジョブなのですよ……何とは言いませんが……」



「!?……成程……ふむふむ……分かりました……要はその予約に割り込む手続きが欲しいと?……良いでしょう。是非とも協力しましょう。では騎士団で馬車の用意をさせましょう……それで女性3名ですか?それともヒロ殿も一緒に?」



「3名ですね……僕は鑑定神殿に用事はないので。この三人は多分ですが、今後同じパーティで活動すると思いますから」



「ヒロさん……でも!私達はまだ特訓中です!……まだレベル10にもなってませんし!5階層にも行ってません!」



「ならば……こうしませんか?実は私もこの街で用事があります故、実は今すぐは帰れません。2日後には一度帝都へ戻るので、アユニ殿達と『お目付役のヒロ殿を含めて』その時に一緒に同行する……。そして彼等……一度亡くなられた四人とその仲間達。そしてこの『蘇生薬』を売って頂ける冒険者は、第一陣で王都へ……では?」



 僕がそれを断る云々の前に、三人が『それでお願いします!』と言ってしまい、なし崩し的に僕は連行される羽目になった……



「では残り2日、頑張ってレベル上げと地下5層到着を頑張ってください!私もそれまで騎士団の用事を終えておきますので!」



 僕はこの三人どころか、あの場に居た21人全員が特殊経験値を貰い既にミッションをこなしている……と言いたかった。



 『特殊鑑定スクロールで鑑定して、窓口に提出すればテスト終了ですよ』と三人に言いたいが、僕はそれを伝えてはならない……とギルマスにキツく止められている。



 ギルマス曰く、自分でそれに気づくまでが試験だと言う……言われて見れば納得だ。



 ちなみに不思議な事に死んでいた四人は蘇生した時に『生存者』と認められて、経験値の取得はできた。


 しかし討伐報酬である『蘇生薬』は箱の出現時に居なかったので貰えない……と言う状態だった。


 どうやらあの特殊な経験値は、ボスの討伐経験値では無い様だ。



 ゲームで言ったところの、ミッションボーナスの様なものだろう。


 あの空間が閉まる迄、経験値だけは貰えると思ってほぼ間違いがない。



 そしてあそこで死んだ場合、死体はダンジョンの何処に行くか分からない……最下層なんかに送られたら、回収がほぼ不可能となる。


 それは中のものがダンジョン側へ転移させられると言う情報に基づいたものだ。


 なので、あの場で生き返った四人は本当に幸運だったのだろう。



 何故なら何か別なものが出ていたら、この世に生還は出来なかったのだから……

 

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