第811話「其々に訪れた思わぬ収穫」


「ケビン!スイッチだ!」



「おうよ。ロビン任せとけ!」



 アユニとアサヒの連携を見て、負けずとばかりに連携を真似した周りの冒険者は部屋の魔物をどんどん駆除する。


 僕達が部屋に来た時より、冒険者達の狩りスピードが格段に上がっている。



 何故そんな事が分かるのかというと、僕は休憩の準備中だからだ。


 ちなみに2人は、休憩の準備が終わるまで続けて戦わせている。



「アユニとアサヒ!休憩だよ。ヒロが飲み物の準備出来たってさ!」



「ゼェゼェ……は………はい………ゼェゼェ………」



「お……おおお………休憩………待ちに待った休憩………ゼェゼェ………死んじゃう……魔物に殺されなくても過労死しちゃう………」



 アユニは魔法特訓時の一件で既に慣れたのか、言葉を発する余裕がある。


 だが、アサヒは初めての猛特訓で口数が少ない。



「はい、お疲れ様ーココアだよ。甘いもの飲んで小休憩ね!」


 僕はそう言いながら、彼女達2人を鑑定する……



『アユニ・ドロシー レベル2(+6)』


『アサヒ・リトル レベル1(+4)』



 元のレベルは1しか差がないが、魔法特訓したアユニは経験値取得分が多いので、アサヒに比べて2レベルほど先行していた。



 しかし1差だった彼女達は結果的にはレベル8とレベル5になるのだ……かなり差がある。


 僕は何気なく、2人に此処以外での戦闘経験を聞いてみる。



「そう言えば、2人は今まで戦闘経験は?」



「私は住んでた村のそばに森があり、ホーンラビットの狩りを手伝ってました。数回だけトドメを刺したくらいですけど……アサヒは?」



「私はスライムを一度だけ……よわっちくてすいません……」



 内容を聞いて納得した。


 未経験のアサヒと、手伝いをしていたアユニでは経験値に差があってもおかしくはない。



「いやいや平気ですよ?僕だって初めてはあったんですから……今からいやでも戦うんです。って言うか……既に今日は常識では考えられない程戦ってますしね?お二人共」



「おう!!本当だぜ!!俺をこき使いすぎだ……レイラはいいよな!回収だけで……アサヒがバテてるのは無理もないぞヒロ?戦いながら箱に祝福って……ぶちゃけ、作業量はとんでもねぇぜ?」



「レックも馬鹿だねぇ……全部アサヒの為だろう?戦って経験値を得て、魔法使ってMP最大値を上げて、その上祝福レベルが嫌と言うほど上がるんだよ!」



「ま!マジか………なるほどなぁ……確かに効率的だしな。でも……なんで同じ回復師なのにアユニは祝福させねぇんだ?」



 レックはアユニの触れてはいけない部分に触れる………



「出来ないんです……祝福は……回復師の出来損ないで……すいません……」



「あ!………いやいや回復師だからって祝福持ってるわけじゃないし!たまたま気になっただけなんだ……」



 レックはすぐさまアユニに平謝りする……パーティーにほしくて願ってたまらなかった回復師様だから当然だろう。



 しかし僕は何故持ってないのか不思議に思い、アユニを詳しく鑑定をする……



『スキル ファースト・リカバーLV2 ・ヘルスヒールLV3 ・プロテクション・シールドLV4 ・『ギフト・スキル』天界の防壁LV1(※取得時、祝福の取得不可)※条件不足により使用不可・ホーリー・ウェポンLV1・パワー・オブ・マイティLV2』



 どうやら彼女は、生まれつきギフトで特殊なスキルを授かっている様だ。


 その関係で回復師を選択したが、祝福が使えない理由までは下手をすると知らない可能性がある。


 遠回りだが、ギフトのところから攻めて聞いてみることにした。



「アユニさんはギフト的な物があって回復師に?それとも単純に回復師を目指したかったんですか?………ってすいません。それは御法度な質問でしたね……」



「いえいえ大丈夫です。実は我が家は血筋で回復スキルを取りやすいみたいで、女性が殆ど間違いなく回復師になります。しかし祝福が使えないのも血筋の様で今まで誰も使えてないそうです」



「すいません聞いてしまって……因みに祝福について、取れない理由を調べたりはしたんですか?」



「調べ方がわからないと言いますか……。私以外は田舎の村で細々と冒険者兼農家をやってますので、村から出た事がないんです。因みにお婆さまは回復師にならずに、普通に村人として暮らしてたそうですが………母はひいお婆様と同じ様に、回復スキルの特性を引き継いだそうです」



「じゃあ……そのスキルのせいで祝福が使えない可能性もありそうですね………」



 僕がそう言うと、レイラもレックも興味を惹かれたのか、身を乗り出し話を聞く。



「どういう事ですか?そんな事は我が家には一切情報がないですけど……」



「いや……アユニさんが当てはまるか分かりませんけど、特殊スキルの弊害で、ある種のスキルは使えない場合があると聞いたことがあります………」



 僕は嘘を交えて、今貴女はその状態にあるとアユニに伝える。


 するとレイラが突然カミングアウトをする。



「実はアタイがそれだよ。ウチは弓限定の家系遺伝スキル持ちの血筋で、スカウトやアーチャーくらいにしか適性がないんだ。でも感知系スキルを網羅してるんだよね……通常の感知に加え、立体感知に感知範囲拡大そして熱源感知って感じで、今数えただけでも4っつもあるだろう?対魔物には有効だけど、感知を必要としない生活には不必要なギフトさね……」



「と言う事は……私の場合もそれにあたる場合があると?では回復は得意だけど、その代わり祝福が使いないと言う感じでしょうか?ちなみに私の母はエリアヒールまで使えました……修行なしで……」



 その言葉にレイラもアサヒも非常に驚く……



「私と同じかもねぇ……まぁアンタの場合は、他の奴に祝福は任せておくのがいいさ。祝福の代わりに得られる物が、アンタはデカすぎるからね!」



 僕もレイラの言葉を同様に考え、彼女の持つ『天界の防壁』をピックアップして鑑定をする……



『天界の防壁………種族特殊スキル(天使族)。スキル効果……天使を地上に召喚し絶対防御結界を張れる。防御結界へのダメージは無効。代わりに内部からの外への攻撃は不可能。効果時間残りMP10になるまで可能。スキル効果の使用には、回復師と吟遊詩人のデュアルクラスになる必要がある。専用装備武器はリュートなどの楽器のみ(スキル使用可能条件)』



 反則的効果を持つ能力に僕は驚きが隠せない。


 どうするべきか悩んだが、王国にも帝国にも『鑑定神殿』と呼ばれる場所があると、ガラスの靴事件の時に聞いた事がある。


 僕はそれを含めてヒントを出すことにした。



「まぁ能力は調べておいて損はないですから!今日はアユニさんは頑張ったのでかなり収穫が出ました。得た物で使わない物は売ってお金にして、専門家に『鑑定』して貰うのも良いと思います。帝国首都には『鑑定神殿』という建物があると聞きましたし。…とは言っても、僕は行った事はないんですけどね……」



「鑑定神殿……ですか?すいません。私は田舎の出なので無知でして……その名前を知りません」



「実は私も初めて聞く名前です……帝国の首都に行く前に此処の街に来たので……」



 僕は実際にそこへ行ったことがないので説明できない。


 その場所をよくも知らないでアユニに『行った方がいい』と言っても説得力はない。


 だが、彼女がそのスキル効果を知っているのと知らないのでは、大きく今後の冒険者家業に違いが出る。



 僕はなんと勧めたものか考えていると、レイラから思わぬ助け舟が出る……



「うん?あんなに有名なのに、アンタら知らないのかい?あそこは鑑定スクロールでは解らないものを鑑定してくれる場所だよ。でも、まさかヒロまで知らないとは意外過ぎだけどね!」



 僕は行ったら最後、鑑定スキルのせいで軟禁されモルモットにされそうで怖いから行けないのだが、それをレイラに言えるはずもない。



 何を言って誤魔化そうかと考えていると、後ろから声をかけられた。



「なぁ……これどうすんだよ?俺ずっと持って行くの嫌だぜ?お前達宝の扱いが雑すぎんだろう!!」



 そう言ってレックは集めてくれていた宝物が入った2つめの麻袋を渡して来た。


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