第761話「火焔窟第二層」
「全員!臨戦態勢を取れ……暗闇から来るぞ!!」
僕達は階段を降りて2階層をひた進んだ………
この世界で変質してしまい、マジックアイテムになった懐中電灯の灯りはかなり先まで暗闇を照らす……
2階層の階段を降り切ると、そこはゴツゴツした岩壁で決して広くない通路があった。
しかし天井が高く、ケイブ・スクリーマーとの戦闘を思わせる作りだった。
しかしその岩壁も、少し歩くとすぐに姿を変えた。
周囲は寂れた城下町の様な作りになり、奥には転々と松明が点在する様になった。
この異常な有様はダンジョンならでわの光景だ。
初めこそ魔物の強襲は無かったが。
城下町に着いた辺りから魔物の襲撃があったのだ。
魔物は巨大な蝙蝠の魔物で『スピアー・バット』と言う魔物だった。
「貴族は全員冒険者か騎士団の後ろへ!スピアーバットは頭骨が異常発達した魔物だ!刺さった槍状の頭骨の先から致死性の毒を出す!絶対に刺されるな!」
刺されるなと言うが、かなりまずい状態だ。
相手は暗闇から暗闇へ飛翔する……突然現れて突進してくるのだから始末が悪い。
感知で居場所はわかるが、それが分かるのは『感知持ち』だけなのだ。
「ソウマさん右2時方向そして左11時方向、同時に来ます!」
「右は盾で受ける!ヒロ左の始末を頼む!」
「ベロニカ!次はどっちだい?」
「エクシア姉さん真正面から3匹来ます!」
「鬱陶しいねぇ!!ヘカテイア!マモンお前達居場所が分かるんだろう……焼き払っておくれよ!!」
「またなの?でもタダ働きはもう嫌よ?……変異素材10個で手を打つわ……どう?」
「分かったからさっさとやってくれ!マモンは後ろな!素材10個で今すぐさっさとやってくれ!!」
「仕方ねぇなぁ……でも……素材くれるなら話は別だ……毒持ち様様だな!!ヘカテイア……」
「面倒だけど仕方ないわね……背に腹は変えられないもの……」
貴族達は『来るんじゃなかった!!』『化け物ばかりで致死性の毒だと……』『こんな危険な魔物が棲息してるなんて聞いてない!!』などと泣き言をいっているが、流石のマックスヴェルも頭を下げてて盾に頭を隠している。
『フローガ・ウズルイフ!!』
マモンが穢れノームの迷宮で使った魔法を唱える……既にこの場所では2回目だ。
一度目とは違い、暗闇の中に『死亡』のステータス情報が沢山浮かび上がる。
かなりの数が居るのを知っていて、マモンはそこへ魔法を打ち込んだ。
『ガンドゥフェン・ターゼィーブオーダ!!』
マモンが炎系の爆発魔法を唱えた後に、ヘカテイアの魔法が別の場所で炸裂する。
その魔法はフロスティが使った魔法だった。
当然名前もちの悪魔が使う魔法なので、威力も範囲も桁違いだった。
氷結魔法を受けてあっという間にスピアーバットは凍りつき、その心臓もろとも氷りつき停止する……
効果範囲が大きいので、暗闇から離れた場所にあった松明の炎が一度消えて再度燃え上がる……
ヘカテイアの氷結魔法は、魔法の炎まで瞬時に凍らせる威力の様だ。
非常に不思議な光景だが、此処の松明は決して消えることがない作りの様で、消えても再度灯がともる……
この現象はダンジョンの不思議だろう。
「所詮雑魚の魔物だな……強大な魔力源を感知したせいで逃げていくぜ……」
「ヒロにベロニカ……マモンが言って事は本当かい?感知で見てくれると助かるんだけどねぇ……」
「はい……はぁはぁ………逃げてます!………エクシアさん、ちょっと待って息が切れて………」
「エクシア姉さん………逃げてますね……流石に指示と攻撃の両方は………はぁはぁ……しんどいです……」
ベロニカも流石にヘトヘトなのかその場に座り込む……
「ベロニカ!!大丈夫か?怪我はないか?掠ってないか?毒は平気か?」
「だ………大丈夫だから……ソウマ……ちょっと!………皆が見てるから………」
その様を見てアーチはニヤニヤして………『はぁ……炎魔法をやめてくださいよエクシアさん!暑くて!!』と言う……
「アタイが暑くしてるんじゃないって。勝手に熱くなってる2人がいるだけだって………ねぇ?ベロニカさん?………」
「こ!この先に安全部屋があるってヒロさんが言ってましたよね?急ぎますよ!!ほらヒロさん息切らしてないで案内してくださいよ!できないなら地図貸してください!私が先導します!!」
エクシアもアーチと一緒に揶揄うと、ベロニカは勢いよく立ち上がりソウマを盾代わりに爆進する……
スピアーバットとの戦闘は、ほぼ暗闇だったので防戦一方だった為1時間にも及び、非常にシビアな戦いだった。
ソウマとベロニカ弄りは、張り詰めた皆の気を休めるのには良いタイミングだった様だ。
◆◇
「エクシアさん、この安全部屋のある周辺からは灯が豊富ですね……」
「そうだね……形状が王都の街並みに似ているから、此処も例の話通り『旧王都』なんだろうね……まぁ松明があるから明るいのはわかるけど……何処までこれが続くか分からないから注意するに越した事はないね……」
僕とエクシアがそう話していると、ベンが安全部屋に入ってくる……
「エク姉さん、階段の方をベンと見てきやした。どうやらあのスピアーバットはこの周辺から完全に逃げたみたいですね……宝箱が幾つか転がってたんで、チャックに言いつけて罠解除と開封はさせときました。宝箱の管理は全部マックスヴェル侯爵様に御願いましたぜ?」
「宝箱が出たのかい?それならあの侯爵様は大喜びだっただろう?」
「それがですね………チャックの奴がスピアーバットの頭部を切り離してて、どうやらあの魔物の頭部から先が『ポイズンスピア』って言う武器になるそうなんですよ……。致死性の毒を生成するヤベェ武器らしくて……今その話で持ちきりですぜ?」
「そうなのかい?チャックは余計な物を、余計な奴等に教えちまったねぇ……。貴族だから殺したい奴の1人くらいは居るんだろうけど………。はぁ……また問題の種が増えちまった……。そんな元闇稼業出身者を貴族の馬鹿が知っちまったら……あの馬鹿引く手数多だって気が付かないのかねぇ?貴族の暗部に再就職まっしぐらだよ?」
ロズとベンの報告にエクシアは苦笑いをするが、マックスヴェルが安全部屋に飛び込んでくる……
「エクシア!あのチャックを我が侯爵家に派遣してくれんか?この遠征が終わってから暫くの間でいい。報酬は言い値で出す!!今すぐ契約だ!!どうだ?そうだな……お前達のギルド建て直しなんかどうだ?我が侯爵家で責任を持って建て直すぞ?」
「物騒な物を作らせる気なんだろう?政敵を排除する的な………もう既にベンとロズに話は聞いたよ?」
「なら話は早い。その通りだ!チャックはな……複数の毒に解毒薬をセットで作れるらしいのだ!是非私に貸してくれ!!」
安全部屋の外で『辞めてくれ』とばかりに腕を使いバツ印を出すチャックだったが、エクシアは呆れ果てながら……
「チャックを貸すか貸さないかはアンタの出方次第だよ?あいつに危害が及べばアタイが黙ってない。アタイが黙ってないって事はヒロが関わる。そうすれば誰が関わるか分かってるのかい?ゼフィにエーデル、マモンにヘカテイアが挙って大挙するが?……それでも平気なんだよね?」
「え?………あっ………いや………そ、そうだな!まずチャックの安全を確保しなければだったな!よし、ちゃんとそこは考えておく……そこが出来たら是非貸してくれ!其れまでは『保留』で良いぞ!だが貸し出しは我が侯爵家が一番をしてくれ!報酬は前払いで構わんから安心するが良い!わっはっはっは………」
笑いながらマックスヴェルは、部屋に隅にいる自分のお付き達の方へ行く。
チャックは申し訳なさそうに部屋に入ってくると、10本の毒瓶と持ち手を付けた簡易投槍を出してきた……
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