第736話「地下11層への道」


「ヘカテイア様!!我々もダンジョンの外に出て『ウィッチエルフ』になるべく研鑽を積みます。どうかこれからも我々をお守り下さい!」



「薔薇村へ向かいなさい。そこがこの坊やの領地だから。街づくりを手伝えば貴女達の拠点くらいは作る許可はもらえるんじゃ無いかしら?ねぇヒロ?」



 もはやそう言われたら『嫌』と言えないとヘカテイアは思わないのだろうか……


「かなり住民が増えているので、暮らすには住居問題もありますが……協力して頂けるなら……」



「大丈夫です!我々に住居は組み立て式のログハウスですから、家は持っていきます。全員に転移と次元収納は覚えさせましたから、手間はお掛けしない事を約束します。場所だけ提供していただければ……頑張って役に立ってみせます!」



 それを聞いた僕は……『スペックが高すぎる』と思いながら許可を出す。


 周りにいた悪辣貴族達も、エルカーヤに物欲しそうな視線を送る。



 転移に次元収納持ちに自領に来て欲しいのは当然だが、何より『光のエルフ・大魔導師エルカーヤ』御本人なのだから当然だ。


「じゃあ、そっちの事は自分たちで解決してくれるかい?アタイ達には時間もないんでね!それで良いね?ヒロ男爵様?」



「だ!男爵様だったんですか?」



「そうじゃなかったら自領持っているのがおかしいだろう?アンタ……引き篭もりすぎだよ!」



 エクシアの言葉で満面の笑みで笑うエルカーヤ。



「じゃあ、また村で会おうや!いくよアンタ達。さっさと地下11階に降りるよ!!」


 エルカーヤが僕達を見送ってくれる中、僕達は更なる深層へ向かう。


 此処からは誰も行ったことがない未開の地だ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 エルカーヤの見送りを受けて階段をおりると、扉を潜った階段の先は巨大な平たい岩でできた岩の階段に続きそのまま下に続いていた。


 上には空があり、そして標高が高いのか下には雲も見える……



 扉を抜けた先はあまり広くなく、大人三人が横に広がると精一杯だ。


 そして左右は断崖絶壁で手すりはない……落ちたら大怪我では済まない100%滑落死だ。



「なんて所に出るんだい……こりゃ山の上だね……山間部じゃなくてかなり高い山の頂上付近の作りかい……なんでまた……」



 エクシアのボヤきにヘカテイアが答える……



「岩の作りからして土精霊の今の状況を示しているんじゃなくて?見た感じ『ボロボロ』でしょう?これは土精霊が既に危険な状況で、それをダンジョンに投影してるのだとすれば……。ホラ見てあそこ……所々崩れて少しずつ崩れて無くなっていってるわよ?この山………」



「ヤバすぎるじゃないか!ヘカテイアの言う事が正しいとすれば時間をかけてられないよ!!」



『ギーーー!!ギャギャ!!ギーー!』



 エクシアがそう言った瞬間、上から奇妙な鳴き声が聞こえて、猛スピードで襲いかかってきた魔物がいた。



「なんだい!?……くそ!満足に足場が無いってのに!!アタイは位置的に見えなかったけど……ベロニカ見えたかい?」



「エクシア姉さん、ハーピーの亜種だった気がします。かなり速いスピードで襲ってきました。多分、今のは斥候でしょう」



「エクシアにベロニカ、悠長に話してられないぞ!!ロズ!ソウマ手伝え正面からは俺たちで壁を作る弓隊は盾の背後で弓を!」



 そう言ってテイラーが前に出る。


「姉さん此処は前衛をテイラーさんに任せよう。下手な奴が前に出ると、滑落して被害が増えますぜ?」


 チャックがそう言うと振り向きざまに空中へダガーを3本投擲する……物凄い早技だ。



「ギャギャ!ギョエェェェェェェ………」



 ダガーが両目を貫いて視界を奪うと、最後の一本は喉に刺さる。



「ベンの旦那……勢い増して落ちてきますんで両断して斬り払ってくだせぇ!!」



「よくやった!チャック流石だな。落ちてくるやつは任せておけ!!」



 そう言うと、両手で剣を持ち落ちてくるハーピーの亜種を両断する。


 僕は消えてしまう前に真っ二つになったその遺骸を鑑定する……



『ストーム・ハーピー………嵐のような風魔法を扱う事から、その名がついた。ハーピーの亜種で、標高が高い岩場を好み群れで暮らす。群れは15から多い時は30匹もの群れを作り群れで餌を狩る。』



 風魔法をこの環境で使われたらたまったもんじゃない……


 そう思っていると『ギャギャ』と声が聞こえて、あっという間に空を埋め尽くす。



 皆への説明前に僕らは襲われた……



 それを見たベロニカとエルオリアスにエルデリアは、すぐに弓を構えて矢を撃ち込む。


 しかし真っ直ぐ放たれた矢は風魔法に阻まれて、対象に当たることは無かった。



「く!!風魔法が………矢を阻むだと?気をつけろ!魔法を使うぞあの個体!!」



「エルオリアス!あれはなかなか高レベルの風魔法だ……。相性が最悪すぎる……矢では抜けないぞ?どうする!?」



 僕は風っ子に乱気流を起こせるか聞く……風を使って飛ぶのがハーピー種だ。


 薔薇村にいるハーピーは、ゼフィランサスの様に魔力飛行を覚えようと必死だ。


 だから、多分此処のストーム・ハーピーは風を使って飛んでいると踏んだ。



「風っ子頼んだ!!」


「まっかせっなさーい!!アーチと考えた新魔法を喰らえ!!『ヴャトル・サイクロン』」



 ストーム・ハーピーの群れは、突然群れの中央に湧き出す様に現れた暴風を放つ球体から逃げることなどできなかった。


 球体からは非常に強烈な暴風が出る様で、風の流れから抜け出すことも出来ずにストーム・ハーピー達は岩肌に打ち付けられる。



『『アースニードル!!』』



「ギィィエェェェェェェ!!」


「ガフ……グギィ!!」



 壁に打ち付けられたストーム・ハーピーを逃さない様に、アースニードルの魔法で壁に縫いつけたのは当然ノームとノーミー達だ。


 仲間がクッションになったストーム・ハーピーは何とか被害を免れた。



 しかし逆に下敷きになったストーム・ハーピーは、岩壁への強打によるダメージの上、追加で放たれた土の針により絶命する。


 土の針と言えども、それはドリルの様に回転しながらせり上がり突き刺さる……そして土とは思えないほどの強度がある。



「くそ!!仲間がやられたのにあのハーピーは逃げないぞ!?」



「エルオリアス簡単だろう?此処には満足な餌が無く腹が減ってんだよ!アタイ達はアイツ達にとって朝飯か昼飯のどっちかだ。今なら矢が撃てんだろう?」



 エクシアがそう言うと、既に矢が大量に刺さりハリネズミの様になったストーム・ハーピーが落ちていく……



「エクシア!我々は指示を待っているほど戦闘の素人では無いですよ?ですが……二匹逃しました真上です!」



「だらし無いね?エルデリア!」



「ちゃんと仕留めないとダメだろう?」



 そう言ってエクシアとエルフレアが剣を横凪に振るい、一撃でストーム・ハーピーの首を斬り落とす。



 群れの1/3を倒されたストーム・ハーピーは距離を僕達から置く……。


「やっと終わったかい?面倒な相手だ。でもかなり強力な魔法を使う種族だったね。普通のハーピーより一回り大きいし……」



 エクシアは倒した個体を見ながらそう言う。


 しかしそう話し終えたエクシアは、突然ロズのタックルを喰らう。



「イッテェ………ロズ?脚が………」



「くー!!いてぇ……何だこの魔法………風が渦巻いて脚を斬りつけ続けてやがる……」



『バシュン!!』



「ぐあぁぁ……」


「いってぇぇ!」



 ロズが足に絡み付いた風の塊を見てそう言うと、絡み付いた風が弾けて風の刃が襲う。


 タックルで助けた筈のエクシアまで風の刃があたり怪我をする。



「二段仕込みってタチが悪いね!奴等距離を持った理由はこれかい!」



 エクシアがそう言ったので空を見ると、ハーピーが元の位置まで戻っていた……

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