第734話「燕尾服を着た謎の貴族」


「今見せてやろう……私の記憶の断片だから、そこまで繊細には映ってないぞ?目も悪くなっているからなぁ……」



 そう言って曲面に映し出されたのは一人の男だった。


 魔法使いの様な格好をしていれば、それらしく考えられた………だが格好は貴族が着る燕尾服だった。



「貴族が?此処に一人で?ソーラー!マックスヴェル!コイツに見覚えは?」



「こんな奴は王国にはおらんぞ!?マックスヴェル……帝国や小国郡国家に詳しいお前なら、一度くらい見たことくらいあるんじゃ無いか?」



「今思い出しているが………全く無い………すまんな。全く思い当たる節がない……」



「二人ともよく見ておくれ!コイツは間違い無く『問題児』か『敵』何だぞ!!」



「エクシア!わかっとるわ!……いいか?よく聞け……この燕尾服は既に100天前の流行りだぞ?ワシの爺様を埋葬する時着せたのが、コレを見た最後だ!!だから誰も着ない服だ……そんな物着ていれば嫌でも目立つ。それにもう生産もしておらん」



 エクシアとソーラー侯爵そしてマックスヴェルが顔を並べて水晶をガン見する。



「おい、エルカーヤ……ちょっと行って解呪してやりなさい。」



「はい、お父様。」



 その簡単なやりとりにエクシアと僕はエルカーヤをガン見する………



「あら?顔に何かついてますか?………さっき果物を食べたので……もしかして……。お母様、すぐに布と鏡を………恥ずかしいわ!!」



 エルカーヤはそう言って、慌てて布と鏡を手にして自分の顔をみる……



「ちょ……違う!違うって!!解呪できるのか………って意味だよ!!」



「そうです!!僕も同じふうに感じたのでつい……」



「まぁ、エルカーヤに任せておけばどうにかなるだろう。なにせ魔法が大好きで、ほぼ全系統をマスターした自慢の娘だからな!!古代魔法の解呪なんて朝飯前な筈だぞ?」



「お父様!もしそれで解呪できなかったら私が恥をかきますから………辞めてくださいまし!」



 エルカーヤはニコニコしながらエクシアに着いていく。


 本来この様な状況だったら、お付きなどが付き添っていい筈だ。



 しかし村人は、女王が冒険者と何処へ行こうとも気にする素振りさえ見せない……



「エルカーヤさん、村人は何故あんな風に信じてられるんですか?」



「え?それは簡単ですよ……本体が向こうにあると言ったでは無いですか。ホラ……此処からならしっかり見えますよ。穢れと言う呪いを受け入れてしまった末路が……ですがそのお陰で新しい眷属の手がかりが掴めたんです……」



 僕はエルカーヤの話す内容を一文字一句を聞き逃さなかった。


 理由は『封印した身体』と『この場所』に関係があると踏んだからだが……


 しかし今、エルカーヤの機嫌を損ねることを言ってしまえば、解呪の望みは無くなる。



 それに問題を起こしエルカーヤを敵に回せば村人全員も敵になり、僕達は無傷では済まないだろう。


 彼女に『どんな理由』があろうが『此処で何をしようと画策』しているのかは、今は置いておく必要がある。



 後でどんな問題になるか分からないが、精霊が居なくなる事の方が重要だ。



「うふふふ………ヒロさんと言いましたよね?エクシアさんって本当に楽しい方ですね。それに貴方は不思議な人……仲が悪いエルフ族が共に行動するなんて」



「いや……それは僕が間を取り持った訳ではないので……勝手にこうなったと言うか……」



「ですが切っ掛けはどうあれ、ヒロさんと出逢わなかったら多分……全員が1箇所に集まることは無いと思いますよ?エクシアさんもそう言ってましたし。それで?何を気にされているんですか?」



 完全にバレていた……エルカーヤは覗き込む様に僕の顔を見るのだが、シャインが勘違いしてエルカーヤと僕の間に入る。



「エルカーヤさん……彼が『何が気になるか』ですか?ヒロさんの妻として私が言いましょう!!此処にいる理由と、あの村人をどうするのか……それが聞きたいんです。なんせこのダンジョンの近くには我々が住む街がありますし、目と鼻の先にはヒロさんの統治する領地がありますから!!」



 突然現れて感情的に喋るシャインとは対照的に、エルカーヤは『まぁ!?奥様?お綺麗なのに冒険者なの?』と言ってからニコニコしながら質問に答える。



「簡単な話です。私はリッチになったので『穢れ』を必要とする肉体になってしまいました。本体の封印で意識を保つことが出来ても、穢れが無くなれば私そのものが活動出来なくなります。そうなればいずれ消滅して、仲間達も同時にその命を終えてしまいます……」



「仲間が命を終える?村に住むエルフ達はアンデッドかもしれませんが……肉体があり自我もありますよね?エルカーヤさんが何かの方法で、仮初の命を与えていると言うことなんですか?」



 僕はエルカーヤの話をさえぎる形にはなるが、そう質問をする。



 エルカーヤの説明では、魔物のリッチとなったエルカーヤは彼らを助けたそうだ。



 元老院の企みで、従わない多くの市民を毒殺したと言う。


 その情報は、刺客の隊長格アンデッドにした時に記憶を読んで知り得た情報らしい。


 リッチになった彼女はその情報をもとに、アンデッドの兵士を送り返し魔法をエルフの王都内で展開した。


 その魔法は『大蘇生』と言うネクロマジックの範囲蘇生だと言うが、基本的には対象者はアンデッドになるそうだ。



 その結果、毒殺された多くの市民はアンデッドとして蘇った。


 だが、彼らがアンデッドになった事実が元老院に知られれば、今度は魔物として討伐されてしまう。



 憎い元老院に討伐の口実を与えた事になるので、彼女は魔法で操り全員を王都の外へ連れ出したと言う。



 そして、アンデッドになった刺客に元老院の行った暴挙の全てを話させた。



 自分が既に死んでいて、アンデッドになった……


 そしてそれは全て同胞の手により為されたとわかった事は、非常に酷いことではある。


 だがエルカーヤは、死んだ彼らには全てを知る権利がある……と考えたそうだ。



 その結果彼らは、エルフの王国を見限りエルカーヤについていく決心をしたと言う。



 しかし、元老院の方は毒殺する予定だった者が、全員翌朝にはいないのだ……何があったか既に把握も出来ない。


 その為エルカーヤに全ての罪を被せる計画を思いついたそうだ。



 その情報は、エルカーヤ討伐隊が編成された際に得ることが出来た。



 得る方法は簡単だったらしく、アンデッドにした騎士団隊長から直接聞けた情報らしい。



 それからは、新しい生活と住む場所を作るための準備をしてきて、現在に至るそうだ。


 ダンジョンの一部に棲家を作り、村を皆で作ったと言う。



 ちなみに見つからずにきた方法は、ジェムズマインの反対側から鉱山へ入り、ダンジョンの外壁に細工をして侵入したらしい。


 侵入口真下のこの階層に辿り着いたのは偶然のようだが、どうやらエルカーヤの話では地下大空洞と鉱山地下が連結しているようだ。


 その為2階層に渡って見られたケイブ達は、そこを使って入ってきていると思われる。


 視認阻害をかけているので普通は見えず目立たない穴らしいが、視覚を頼らないケイブ達には普通の穴に変わりは無い。


 魔物の体温を頼りに移動しているのだから……



 彼女の目的は、封印した自分の身体を側におき、仲間を助けつつウィッチエルフを種族として確立する為に新魔法開発に日々奮闘しているらしい。



 将来的には現状のアンデッドの肉体ではなく、元の身体に戻れる秘術を作り出すのが目的だと言った。



 だからこそ得意な魔法をより一層学んでいるそうだ。


 ちなみに精霊の力は取り込んでは使えないらしい。



 残念ながら、穢れが必要になった彼女の身体には精霊力がエルフの時のようには及ばないことが判明したそうだ。


 現状は魔道具を通じて、土精霊の精霊力を扱う実験に留めていると言う。



 しかし彼女は、その精霊力が最近使えない理由を知らなかった。



 僕が土と炎の精霊種が危険である事を教えたら、非常に驚いて村人に知らせるべく一度村に帰ろうとまでした。


 その慌てふためく感じを見たら、多分演技では無いだろう……

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