第707話「穢れノームの迷宮」
「エクシアさん……周りの見る目が……」
僕はダンジョンの内部を進みながら、あからさまに異常な状態を目の当たりにする。
冒険者達が僕達に行く先を全力で譲るからだ。
しかし、ダンジョンへ入った当初からそうだったわけでは無い。
鉱山中腹の作業地でのゴーレム設置と説明が終わった僕らは、伯爵に報告した後に早速ダンジョンに足を踏み入れた。
しかし僕達の前には先行組がごった返して前に進めなかった。
理由は簡単で、最前の冒険者が地図を買っていた。
その冒険者が『俺には地図がある!皆ついて来い!!』などと言ったので、地図を買ってない冒険者は後をついて行く為前が詰まっているのだ。
それを見て僕は急いで魔法の地図を出す。
皆が進むのを後方で待っていたら、日が暮れてしまうからだ。
「おい………ファイアフォックスだぜ!お前たち道を開けろ」
「前の奴らエクシアさんが、いよいよダンジョン踏破に来たぞ!道を開けろ。最下層組の邪魔をすんな!」
無理に道を開けようとする冒険者達に僕は言葉を返す。
「あ、大丈夫ですよ皆さん。僕達はここで曲がりますから……」
「え?でも下層階段は向こうなのでは?」
「下層階段はそのまま進んでもいけますけど、転送陣はここを曲がらないと行けないんです。下層階段の先にある大広間の後ろなので……」
そう言ってしまえば、間違いなく道を知っていると思われるだろう。
しかし僕の手荷物魔法の地図を見て、周囲の冒険者は言葉にならない言葉をあげる……
大騒ぎすれば、間違いなく自分たちは置いていかれると分かっているので黙って後ろをついて来たわけだ……
その結果、僕達を知っている冒険者は道を譲りうしろについて来るようになった。
「エク姉さん、ゴブリンの群れですぜ。道的には進行方向では無い様ですけど……片付けますか?どうやら冒険者の声に釣られて来たみたいっすね……数はぱっと見で10っすね……なかなか多いです」
「ロズ、ソウマ、ベン任せた。アタイ達は先に行くから、アイツらが後ろからついて来ない様に片付けな!ベロニカはヒロに道を聞いて索敵だ。ちゃっちゃと行くよ!出発から遅れてんだからね……雑魚に構ってる時間は無いよ!」
ソウマとロズは勢い良く通路に走り込むと、ゴブリンへシールドバッシュを食らわせて戦列を乱す。
そして一番近い敵にベンが走り込み、両手の武器で次々と仕留める。
「おい!ベンお前俺の分も取っておけよ?」
「馬鹿言うな……俺たち姉さんに置いてかれるぞ?俺らは転送陣使えねぇだろうが!降りてねぇんだから……ヒロから逸れたら自力で降りるんだぞ?」
「うげぇ……そうだった!!おいソウマ、さっさと倒れてるゴブリンの頭を踏み潰せ!こんな雑魚で時間を使うなマジで置いていかれるぞ!」
「ロズさん、こっちはもう終わってますよ……あとはロズさんの飛ばしたやつだけです」
馬鹿でかい声で話しているので会話は筒抜けだ……エクシアは馬鹿どもめ……と言った後にニヤニヤしながら進んでいく。
わざとスピードを早めて意地悪をしているのだろう。
ちなみに周りの冒険者もそれなりに戦えるが、異様なほど早いソウマとベンの戦闘に驚きが隠せない。
「おい、お前さん達。あそこに落ちている死体が、ダンジョンに回収されたら何か出るかもしれねぇぞ……アタリかハズレかは自分達で確認しな……。まぁ要らないなら、放置しとけば後から来る銅級資格者が貰うかもしれないがな……」
カッコよくベンは周辺の冒険者にそう言うが、周囲の先行組は同じ銀級資格者だと忘れているようだ。
「ベン、何でもいいが置いてくぞ?……ゆっくり階段で降りて来いや。じゃあな!………」
ロズとソウマに置いていかれ『おい待てって!置いてくなよ!!』と言って急いで追いかけていく。
しかしこの後ここに残った冒険者はそのゴブリン達の死骸から宝箱を得た。
箱の中には大粒の宝石がたくさん入っていた為、一攫千金を果たすことをロズ達は知らなかった……まさに逃した魚は何とやらだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「エクシアさん。ここが5階層の転送陣ですね。通路を挟んで向こう側に階層主の部屋があります。ちなみに魔物はグレードアナコンダです。8階層に行きたかったんですが、何故か選択先に出てこないので……もしかすると下層域に何かあったのかもしれません。転送陣に関わる何かが……」
僕はそう言ってから、周りの部屋の大きさが映っている魔法の地図を見せる。
「まぁ……行けないものは仕方ない。此処に出たってことは7階も無理なんだろう?なら此処から降りる他ないさ」
「下層への階段は階層主の部屋を通らずにも行けますけど……どうしましょう?後続のためにも倒しますか?」
エクシアは転送陣で降りる前に、1階層の転送陣のすぐ横の大広間に拠点を作り始めた。
しかしその場所は大広間であり、安全部屋では無い。
魔物が終わることなく湧き出る部屋だ。
しかし遠征には危険がつきもので怪我も多い。
怪我人搬送に使われる転送陣の近くに拠点を作るのは当然だ。
そしてこの階層は、階層主であるグレート・アナコンダを倒さなければその転送陣には辿り着けない。
だからこそエクシアに聞いたが、その言葉は以前助けた土精霊ノーミーの言葉で選択肢にすらなら無くなった。
『マスター……今下層を見に行きました。土精霊達が穢れの影響で汚染されて階層侵食が始まっています。猶予は大凡ですが、3日でこのダンジョンは完全に変質が完了します……それ以降は土精霊を助ける事はもう出来ません……」
「エクシアさん、今土っ子が報告をくれました……3日でダンジョンの変質が終わり、土精霊はそれまでしか持たないそうです……」
「だったら選択肢は無いだろう?このダンジョンを今の状態で守れるのはアタイ達だけだ。それにここの階層主のグレートアナコンダに勝てないなら、下層での戦いなんか無理だろう?だからアタイ達は先に向かおう」
土っ子の説明で8階層に行けなくなった理由は、土精霊の汚染の現れだと言う。
多くの土精霊が汚染されたせいで、ダンジョンの変化に拍車がかかってしまっていると言う。
「エク姉さん話しているところ悪いんですが……向こうから変なものが来ます『岩の形』をしてますが浮いてますぜ……」
『アレは私達土精霊の成れの果てです……化現し力を使い切り弱ったところに、魔物が襲いかかったのでしょう。今は土の属性が魔物に混じった状態で、元の魔物は土属性を得てかなり強化されています」
土っ子は皆に聴こえるように念話を送る。
僕はその言葉に従って鑑定をすると……『アース・ゲイザー(汚染)』と出る。
たしかに土っ子の言う通り汚染された元土精霊の様だ……しかし名前が土精霊に関連がない。
その魔物は形状は、ゴツゴツした岩が複数集まった、巨大な岩石の様な物に見える。
大きさは1メートル程で形は円形、地面から30センチ位の場所を浮遊している。
「アース・ゲイザーという名前の様です……土精霊と関係が……」
僕がそう言った瞬間、目の前で浮いている岩の固まりの中央部が開く。
その中央部には大きな目玉があり、こっちを睨みつける……アース・ゲイザーと言うのは『土の監視者』と言う意味なのかもしれない……
「ゲイザー種!?くそ!まずったよ……ゲイザー系の魔物じゃ無いかベロニカ、今すぐ眼玉を潰すんだ!……がぁぁ………」
エクシアのとっさのベロニカへの途中で途切れる。
「エク姉さん……どうし……ぐあぁ………」
どうやら攻撃は特定範囲に効果を及ぼすのだろう……エクシアの身を案じて駆け寄ったベンは、突如悶え苦しみはじめた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。