第687話「エルレディアの放浪中の記憶」


「エルフは凄いな!こんな味噌って言うのは初めて食ったぜ?そのなんだ……その……さっきは悪かった。出来れば引き篭もらずに人間へ味噌を持ってこれねぇか?せめて俺がいる間くらいはさ?なんだったら仲間でヤベェのが居たら治療費って事でどうだ?」



 マモンにマッコリーニでも化現したのだろうか?……唐突に商売の雰囲気になってきた。


 外見は完全に人間のマモンなのだから、悪魔的な話をしなければ普通の人間だ。



「そう言えばマモンさんは物を食べる度に感動してますが……向こうでは何を食べてるんですか?」



「何って……何もくわねぇよ……だよな?ヘカテイア。魔素があるんだから、そもそも食う必要ねぇし……あ、ちなみに魔素ってのは『穢れ』とお前らが呼んでるもんだ。主に欲望や殺意って言う負の感情が根源だな……」



「食べないんですか!?食欲は欲望でかなり大きな要素では?……まぁその魔素がそれに値するのかも知れないですが……」



「魔素については……まぁ詳しくはまた今度話してやるよ。流石に危険な話だ。エルフは良いとして人間の耳が多いこの飯屋じゃ不味いのはお前だろう?」



 そう言って周りを見るマモン……


 当然『鑑定士』がその『問題の人間』である事に間違いはない。


 しかし鑑定士達が『鑑定』を行う事など120%ありえない……



 漏れ出た会話だけで既に命の危険が危ないのだ……会話の主は悪魔と言っており、龍種も間違いなく混じっている。


 その姿を目の当たりにしたのだから、疑う余地もない。



 しかし怖い物見たさというのは、何処も同じなのだろう。


 危険でヤバい物ほど興味が自制を上回り、近付いてしまうのだ。


「じゃあ俺らは飯食ったら一度トレンチに帰るわ……明日は王都の方に行ってみようって事になってるからよ。何を探してるか分からない以上、俺はヘカテイアから目が離せないんだがな……安心しろ何か馬鹿をやらかそうとしたら止めてやるよ」



「ちょっと待って?私じゃ無くヤバいのは貴方よ?自覚ない様だけど……皆もそう思わない?」



 僕はお互い様じゃない?と言いたかったが言葉を飲み込んだ。


 ちなみに既に時間は『19:34』で夕飯にはちょうど良いが、マモンは帰るというがそれに反してヘカテイアは、村での夜を楽しみたい様でもある。



 エクシアやロズは当然エールを飲んでいるので、ヘカテイアも注文する。


 代金は当たり前のようにロズ持ちだ。



「ところでエルレディアさん……奈落のエルフのなった後の話なんですが……」



「はい?ああ!お腹いっぱいで忘れてました!」



 エルフレアはその台詞に頭を抱える……



「エルレディアはこれが無ければもっと重要な任務につけられるんだが……ヒロ様申し訳ない。教育が行き届いてなく……」



「…………もぐもぐ……エルレディアさんはミミのエルフ族版だと思えば問題はないですよ?………もぐもぐ……なんか親近感が湧くんですよ!………」



 未だにユイナとミサの手料理を食べているミミが、自分でそう言った時に『ああ……自覚あったんだ……』と皆が激しく動揺したのは言うまでもない。



 そのエルレディアもミミが自分に似ていると思っていたのか『私達ってば、双子みたいな物ものですね?』と言い始め、周りをさらに騒つかせていた。



 ミミに劣らず、凄い逸材を発見した様だ。



「奈落のエルフになった時は何というか全てどうでも良くなりましたね……隔絶世界にエルフが帰る事も、森エルフと月エルフをまた一つにしたいという私の夢の事も。でも不思議なのは、そのどうでも良い気持ちが逆に無性に腹立たしくなってきて、自分自身が嫌いになった感じです」



「成程……自暴自棄ってやつですね?」



 話を進めて分かった事は、エルレディアが思い悩んで変質した事には裏があった様だ……


 しかし当然の事だが、エルフレアの一言でそれは止められた。



 エルフの国はプライドが高いので有名で、国の恥になる事ならば尚更だ。


 そして太陽のエルフは、エルフの眷属で一番頑固だと言うのだから情報漏洩などもってのほかだろう。


 しかし国以外で、放浪中の事については人族への危害も加えた可能性があるので、エルフレアは敢えて黙っていた。



「………エルレディアさん。という事は、奈落のエルフになってからは、今の意識とは似て非なるものの可能性があるって事ですか?」



「そうですね。自分が自分であってそうで無い感じが今はします。自分の中にもう一人自分が居るって言う感じですね。……今考えると、それが自分だったのかも分かりませんが……」



「所で奇妙な物を見たと言うのは……?」



「モノと言うよりゴブリン二匹ですね……此方を警戒しつつ群れを率いていきました。確か……ゴブリンが多く住む山脈の方に向かっていった筈です……問題はゴブリン種とダーク・ゴブリン種で、進化して既に『ホブ・ゴブリン』になっていた様です」



「「「ゴブリンとホブゴブリン!?」」」



 僕とエクシア、そしてエルフレアの声が揃う。



「エルレディア!その情報をもっと明確に思い出すんだ!其奴はトレンチにダンジョンから『抜け出して』宝石鉱山に向かったと思われる個体にほぼ間違いは無いだろう。其奴等は『名前持ち』だ決して野放しなどできる個体ではない!」



 エルフレアの説明に驚きが隠せないエルレディアだったが、すぐに記憶を遡り始めた……



「言われて見れば……異様でした。私が同じ混沌種になったとはいえ、相手は『各100個体のゴブリン種の群れ』だったんです。こっちが襲われるのは、言うまでもないと思うのですが……。私の存在に気が付きながら、急いでいる様で見向きもしていなかったのかも知れません……今から思えばですが……」



 ゴブリンの話が出た途端、ドワーフの姫の側にいた戦士団も席を立ち話に加わってきた……


 戦士団を代表してドワーフの姫ハルナが口を開く……




「アタイ達もゴブリン種には困ってるんだ。その話もう少し詳しく聞けないかい?」



 トレンチのダンジョンであった一連の話をベロニカとロズが皆に説明する……ダンジョンの廃墟を根城に巨大な群れを作り、トロルを使っていた事までだ。



 当然そのトロルは、ジェムズマインにいるギムドロル達である事も話す。


 姫様方は昨日既に薔薇村に来ていたので、トロルのギムドロル達を知らないからだ。



 しかし、ダークフェアリーの話は流石に黙っていた。


 話す内容にも問題があるが、相手が飲酒中なのだから色々とウッカリもありえるからだ。



 話の途中でハルナとミドリそれにエクシアが席を立ち、エールのお代わりに向かう。


 今エールをこの薔薇村で飲む場合は、自分でカウンターまで行かないとならない。


 人がかなり多く、料理を作り出すだけで手一杯だからだ。



「それにしてもドワーフの姫さん達はよく飲むねぇ?可愛い顔して豪酒かよ!」



「そう言うエクシアさんは、人間にしておくには勿体ないくらいの酒好じゃない?ねぇ?ミドリ」



「そうさね、ハルナの言う通りアンタ酒強いよ。実はドワーフなんじゃねぇか?ロズなんか既に酔っ払って寝ちまったのに………」



 エクシアはドワーフの姫二人と酒を飲み交わしているが、ロズは六杯目で寝てしまった。


 テリアが甲斐甲斐しく世話を焼いているので、どうやらそれが目的でガブ飲みした様だ。



 カウンターでエールを貰い、戻ってきたハルナとミドリがゴブリンの話で盛り上がっていた。


 鉱山や山に詳しいドワーフならば、あの名前付きホブゴブリンが短期間で群れなどを作って、いったい何処に向かっているかが分かるかもしれない。


 

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