第679話「異世界のテントと鑑定士」


「すまんが……村長よ案内してもらえるか?ソーラー侯爵様にザムド、リーチウム!行きましょう!……」



 ウィンディア伯爵は村長の言う方向に歩き出すが、龍っ子をみた鑑定士達は群れをなしてすっ飛んでくる……





「ヒロ男爵様はどちらに?龍男爵のヒロ様は、何方ですかな?……ヒロ様!!あの『テント』お譲りいただけないか?」



 あたり構わず聴きまくる『鑑定士』だが、流石に伯爵や侯爵の爵位持ちに『男爵』は不味い……



「お前たち不敬罪で即刻首を刎ねてやろうか?我は『侯爵』ソーラーである!!」



 怒られた……マジで本気でガッチリ全員が怒られた……


 全員が『やっちまった!!』と思ったのか即座に平伏する。



「邪魔である!!即刻退くが良い!!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げ始める『鑑定士』の群れ……



「おいヒロ……お主……この村で何をやった?『あのテント』とはなんだ?」


「父上!!………『あのテント』とはアレのことです……異『ムゴ……ムグムゴムグ』」



 そうリーチウムが口走るのを全員で口を塞ぐ。


 不敬罪に処す!と言われてもおかしくない行為だが、流石にリーチウムも不用意な発言だったと皆に謝罪をする。



「本当に……お前は本当に馬鹿なのか?こんな大量にそれも……こんな素材。……かぁ…………羨ましいぞ……よもやこの村では……村民が使っておるのか?」


 ソーラー侯爵がテントに走り寄り撫で繰り回す。


 しかし僕はそれどころではない……『鑑定』をせねばならないのだ……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


品番KB–10・テント5人用『変質済み・魔力拡張可能』


大手メーカーの人気のテント。

残念ながら新製品が出た為、店内ランキング2位に転落。


しかし、機能には一切問題なく、十分に使用できる。

尚このテントは特価品として販売された製品。



内部にいる間のみ特殊効果が得られる。


・特殊効果『HP・MP急速回復』

・防寒対策『冷気・氷結魔法無効』

・UV耐性『光属性攻撃を遮断』

・風耐性『風魔法耐性100%』



『寝袋効果』


寝袋がある場合以下の効果を得られる。


『安眠』短時間で身体の疲れを回復可能。


・リフレッシュ効果『24H士気up』

・タフネス2倍up

・他ステータス1.15倍up効果



テント耐久度『980/1000』修復不可


・各種攻撃を受けると耐久度が10減る。

・経年劣化により耐久度減少。(-1若しくは-2)


『変質完了……変質MAX(5DAYS)』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 非常に困った特殊能力を持っている……既に彼等はこれを鑑定しているのだろう。


 欲しがるのは当然だ。


 その上フレディ爺さんが言っていた『拡張付き』だ。


 全部がフレディ爺さんが作ったマジックテントに変貌を遂げる。


 問題は魔法で持ってきたテントとは大きく異なる事だ。



 フレディ爺さんの方はステータス補正がない。


 だが僕の方は盛り盛りの盛りだ……寝袋があれば更に補正される……これは間違いなく大工を探して『寝袋を使っているか』問いたださなければ……


 それにしても変質マックスとは何だろう……5日でマックスと言うことは段階があった……と言うことだ……


 僕は一つのテントに勝手に入りマジックグローブから新しいテントを出し鑑定するが全くそんなことは書いてない。



 どの段階で変質が始まるかもわからない……



「あれぇ?ヒロ男爵様。どうした?俺のテントに何か用か?」


 大工の一人が偶然仲間と帰ってきた。



「いや定期確認です。作ってからメンテナンスしてないから」



「ああ!なんかすいません。壊さない様に大切に使ってるんですが、最近寝袋買ったんですがすごく体調が良くって、皆いってるんです。少し金払っても寝袋を買ったほうがいいぞ!って!」



「寝袋って……道具屋で売っているアレですか?」



「んだんだ、あの寝袋です!多分ヒロ様が敷いてくれたこのマット言うのが、かなり良いんだと話になってます。でも寝袋を使うと、コレまた暖かく寝られるんですよ。そして翌朝は疲れもサッパリで、凄い仕事が捗ってー。外の建物見てください!7日かかるのが3日で出来ちまったんですよ!!」



 方言なのか話し方がなまっているが、興奮も混じって尚更なまりが際立って話す大工は外を見る様に僕へ言う。


 外に出て見ると既に建物が2棟出来上がっていた。



「スゲェでしょう?決して手を抜いたわけでないんですよ?ハーピーたちも屋根板持ち上げてくれっから、事故もなく更に体調がいいからあっという間に出来ちまったんですよ!皆してびっくりって言ってます」


 大工が興奮して話すので、皆が集まってくる。


「それであの家で今は鑑定士に人とドワーフの方々皆てねますよ!いい木の匂いで風も入らねって大人気です!何人かの鑑定士が移住する言ってましたよ?」



 それは不味い!!非常に不味い………


 手当たり次第に鑑定されたらそれこそ『異世界製品』だとバレてしまう。



「そう言えばテントを持ち逃げしようとした輩も居てですね、ギルドの檻に数人閉じ込められてます。もうこのテントが大人気なんですよ!」


 そう言った矢先、冒険者の一人が鑑定スクロールで鑑定をしているのが目に入る………



『やっば!やっぱりだ!!』


 僕は走り寄って話をする……



「貴重な鑑定スクロールで何をされているんですか?個人の持ち物ですよね?」



「え!?あ……ああ……すいません。今冒険者で噂になっているんです。このテントが『ダンジョン産』だって……。皆が鑑定スクロールを持ってきて鑑定して同じ物をダンジョンで探すんだって言ってたので……だから僕もつい……」



「ああ!成程『ダンジョン産』の場所を知りたいから鑑定したと?でもダンジョン名は出ませんよ……探すならばトレンチに行くといいです」


 運良く情報を聞き出せた……まさか『異世界製品』ではなく『ダンジョン産』と思われているとは……


 僕は情報料の代わりにスクロールの結果を見せて貰う。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


テント5人用


内部にいる間のみ特殊効果が得られる。


・特殊効果『HP・MP急速回復』

・防寒対策『冷気・氷結魔法無効』

・光耐性『光属性攻撃を遮断』

・風耐性『風魔法耐性100%』


『寝袋効果』


寝袋がある場合以下の効果を得る。


『安眠』短時間で疲労回復。



テント耐久度『988/1000』修復不可


・各種攻撃で耐久度が10減る。

・経年劣化により耐久度減少。

 (-1若しくは-2)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 びっくりした事に表示内容が大きく異なる……


 僕は『ハ!』っとする、マッコリーニの鑑定を思い出したのだ……今までアレについて調べる余裕などなかったのだ。



 すると冒険者は僕に謝ってきた……コレは僕にとって良いきっかけになった。


 鑑定スクロールと鑑定スキルでは情報の多くが異なる点……これは凄い情報だ。


 お礼をしたいくらいだ。



「すいません勝手に……男爵様の配給品だと知らなくて……」


「ああ……いやちゃんと鑑定すると耐久値が見れるので見せて貰っただけですよ?」



 そう言って僕は誤魔化すために耐久値を指さす。




「成程!ならテントを使う時に魔物避けも使い必要があるってことですね!あと経年劣化か……有難うございます!実は僕この村の出身でして出稼ぎでジェムズマインで冒険者やっているんです!」




「因みにこの鑑定スクロールは店で買ったもの?」


「僕は安い鑑定スクロールしか使えないので……レベル的にも、財力的にも……でもこの上のスクロールでもこれと同じ内容でした。これがその時メモった内容です」



 そう言って彼は全く同じ内容の羊皮紙にインクで書いたメモを見せてくれる。


 所々滲んでしまい読み辛いが内容さえ知っていれば難なく読める。


 しかし疑問が残る……


 内容を知っているのに、何故スクロールで鑑定を?と言うことだ……

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