第658話「阿鼻叫喚……馬車を抱えて爆走するトロル達」


「失礼ね?大の男がゲートを潜るのにビビってたから喝を入れただけじゃない!」



 ヘカテイアがゲートから出てくるなり、そうウィンディア白爵に告げる。



「貴女が噂のヘカテイアさんですね……。我々人間は貴女達に危害を加えない。だから私が……」



「そう言うのは要らないわ!私はこっちの世界に用事があるだけよ……暫く滞在するけど何時迄も仲良くやって行くつもりはないわ。そもそも貴方達人間に関われば『相剋』が邪魔をして、下手をすれば自分の首を絞めかねないから……関わるのは最低限よ!安心して……」



 そう言ってトロル達の方へ向かうヘカテイア。


 マモンも周りの風景を見て『ホウ……コレがこっち側か……覗くと来るでは大分違いがあるな……』と言いながらトロル達の方へ向かう。


 何故トロルの元へ?と思ったら『魔物』なので、相剋に値しないからと言う簡単な理由からだった。



 彼等はこの世界の情報を最低限集める努力を始めたらしい。



 その手始めが『トロル』と言うわけだ。



『あるじー動き出したよ!マラライが捕まった………どうしよう?タコの人街に居ないよ?』



 リュックの中のスライムから念話が届く………素晴らしい事にスライムは自分を分裂させ途中に配置する事で、街からここまで念話を伝達した様だ。



 スライム電話ならぬスライム念話だ……僕以外の周りが優れているので非常に助かる。



「テカーリンさん……暗躍人が動きました!急ぎ戻らねば……」



「なに!?もうか?……私がここに居ては計画が頓挫してしまう……急ぎ戻らんとならんな……」



 テカーリンの言う通りだ……この『マラライ救出計画のキモ』はテカーリンの現場検証と王様への献上品の破損だ。



「だが……此処から帰るにしても馬車でもかなり時間がかかるな………」



「理由は分からないが、俺には無理だぞ?ダンジョンだったらまだ移動した事があるから『ゲート』を好きな場所に繋げられるが、外は別だ!」


 マモンのゲートは『行った場所』がキーワードになっている様で、街へはいけない様だ。



「オイ、ヒロ。困っテルか?ウボォ馬車担ぐカ?馬ヨリハヤイ。日ガ暮れテイルカラ、オレ外歩ケル」



 巨大なトロル達は、どうやら馬車を担いで街まで連れて行ってくれると言うのだ。



「仕方ないねぇ……トロルにお願いする他無さそうだよ?まぁ馬は外すしかなさそうだけどね……」



 そう言ってエクシアはテカーリンに言う。



「仕方ないな……デーガンにイーザ、マグネとガウス馬を外せ!マグネとガウスは皆に馬を管理させて乗って戻ってこい。十分気をつけて帰って来るんだ。日が暮れているから魔物が既に出ている……いいな?イーザは馬車に載って帰る班だ。まだ街でやるべきことがある」



 ガウスとマグネは部位欠損しているが、冒険者の端くれだ。


 『オウ!』と挨拶をして、新人冒険者を仕切り始める。


 イーザも馬車から馬を外すのを手伝う……ソーラー侯爵達と一度地上へ出た冒険者達も宝と報酬の関係で、一度街へ戻る様だ。



 マグネ達も部位欠損して居るが、そこは助け合いで何とかなりそうなので安心できた。



「じゃあ、グルグアとウボォそれにトロルに皆さんお願いします」



「オウ!ヒロお前達ハ俺ガ運ぶ!安心シロ」



 そう言ってギムドロル王子自らが、馬車を掴んで持ち上げる。


 代わりに馬車に積んでいた荷物をギムドロルの家臣が運ぶ様だ。



「きゃぁぁぁぁ…………」



「ふえぇぇぇ………」



「うぉぉぉぉぉ!?」



 トロル達は馬車を雑に持ち上げるので、女性達だけでなく野太い悲鳴もあがる……



 まるで遊園地のアトラクションの様に浮き上がる感覚になる。


 そして横方向に身体が動き出す……


 一見楽しそうに思えるが、安全ベルトなど無いので天井を片手で押さえて、もう片手で周辺を掴み、脚で踏ん張る……態勢維持だけで全身運動だ。


 何故ならば、トロルは『頑張って走ってくれた』からだ。



 ちなみに女子全達の感想は『二度とトロルにコーチを担がせないで!!』だった……


 値段の高いキャリッジやよく見かける大型ワゴンをトロルに担いで貰おうとは思わないので、呼び方は馬車で良いのでは?と言ったら……『殴るよ?』と言われる前に殴られた……せめて先に言って欲しいものだ。



 ちなみにヘカテイアとマモンは普通に走っていた……どんな脚力だ……と驚いたが、ヘカテイアは『魔法で浮かせば良いのに』と言っていた……女子全員が『早く言えよ!』と思っただろうが、口に出せないのは分かりきった事だ。



 このトロル爆走の一件で喜んだのは、上下にぶつかってもへっちゃらな、かなり丈夫な龍っ子だけだった……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『おい!契約者ちょっといいか?……話辛いだろうから念話で話すぞ』


『どうしたんですか……マモンさん?改まって……』



 街に入る前に、トロルが城門に走って行く時に急に念話でマモンに話しかけられた。


 僕達は運悪く?捕まった……


 トロルが7匹も馬車を担いて走ってくれば、間違いなく捕まる。



 ……捕まったと言うより、武器を持った衛兵長含め30名に包囲された……当然人間で包囲するには、相手は七匹のトロルなので全く足りていない。



「そこのトロルに群れども止まれ!!その馬車のエンブレムは我が街の領主様である!それにザムド伯爵家のエンブレムも確認した。直ちに馬車を置いて離れるのだ、そうすればお前達に攻撃はしない!」



『ああ……もう……おせぇな?このまま馬鹿なトロルに走らせたら、こうなるって教えたかったんだ……まぁ仕方ねぇ。お前が撒いた種だ……まぁ頑張れや!ってか……お前トロル並に何も考えてねぇだろう?』



『ああ……ついギムドロルが知り合いだから任せてました!街にとっては彼等は野良のトロルですもんね……仮にもギムドロルは王子だから平気かと……』



 マモンは何気に面倒見がいい様で、ヘカテイアだけじゃなく僕の事も気に掛けているようだ。


 悪魔?と思ってしまうことが多い……顔が知って居る俳優で、声まで同じだからだ……細部まで作り込みすぎた様だ。



 しかしマモンも全ての面倒は見切れない様だ……声に諦めの色が出ている。


『なんだと?こいつ王子か……なんで王子がお前達を担いで走るんだか……お前が変だから周りも変だな……それはそうと、ついでに別件だ。あのダンジョンの最奥部俺とヘカテイアの雑魚寝部屋にさせろや。どうせ当分魔物配置しねぇんだろう?』



『何故ですか?あの場所は少ないと言え一応冒険者も来るし、面倒しか起きませんよ?もし居るなら……あのコア部屋が良いのでは?誰も入れないしあそこなら面倒は無いでしょうし……』




『あ?コア部屋は勿論使うぜ?多分ヘカテイアが占拠するだろうな……アイツ身勝手だからな。それはそうと……用途は簡単だ。魔素が無い時補充に行きてぇからな。まぁ中に入り込んだ人間は、五体満足のまま殺さずに外に放り出してやるから安心しろ!』


 そう言ったマモンは僕の了承を得る事なく、あの部屋を自分達の補給部屋にする様だ。




 しかしマモンやヘカテイアの様な魔物に認められてしまったので、名実ともに僕は『ダンジョンマスター』になったみたいだ。



 だが困った事に、この『トレンチのダンジョン』は名前の通り『溝』になってしまった。


 この世界と地獄を繋ぐ『溝』・『堀』と言う意味だ。



 階層は十階で低層帯のダンジョンだが、最下層の階層主は『死の女王』ヘカテーと『地獄の7大君主、王の一人』マモンが雑魚寝する暇潰し部屋……



 ダンジョンコアは変質して『ダンジョン自体がコア』の特殊ダンジョン……破壊も移動も出来ない。



 ちなみにダンジョンコアと思っていた物は、操作パネル的な役目になっていて、危険なゲートを出す事ができる。


 そのゲートとは『地獄』に旅行に行ける手段だ……だが片道切符で死亡保険も付いていない。



 渡ったら最後『デビルな人か、人族で天下一武闘会に出られる人』になるだろう。


 なので決して人間が利用して良い物では無い。

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