第635話「獄卒二人の終わりの見えない争い」
チャンティコは大技を連発した……しかしそんな事をすれば間違いなく力が尽きるのは早い……
『はぁ………ストレスで暴れたりない。ああ……それどころじゃ無かった!!ああ……チョコ……チョコちょうだい!労働の対価を!!』
下半身を蛇に戻して、エクシアに主導権を渡す……チャンティコ
「あ……アンタ!急に主導権を持って行くなって!あっという間に燃料切れじゃないか!まったく……」
そう言ってから完全に姿を元に戻すと、エクシアはチャンティコを別の形で化現させる……
すると3歳位の髪の毛が燃える娘が現れる……
『チョコ!チョコ!』
「分かったって!アンタが手で持つと溶けてなくなるから、ホラ口開けて!2個目は後で帰ったらな!」
『約束だよ!ハムハム……エクシア忘れっぽいから……ハムハム……じゃあ帰る……』
チャンティコはそう言ったが、僕の方に来てじっと見ている……
仕方ないのでマジックグローブからおにぎりを出してみた……すると『ガプリ』とおにぎりを噛むと、その状態のまま消えてしまった……
呑気に会話ができるほど圧倒的な力で殲滅したチャンティコだった……
100以上はいた魔物が瞬間で居なくなるのだ……燃料切れも致し方ないだろう。
そう思っていると凄い剣幕で『獄卒にそっくり』なエクシアが来た……
『ヘカテイアかと思ったらエクシアだったので二度ビックリだ……』と冗談で言うと、エクシアの目は笑っていなかった。
「お前……今何を渡した?おにぎりだよな?具材はなんだ!?いいか、お前……具材はオルトスとか言うなよ……」
「しぐれ煮です……希少食材の」
「やめろーーそうやって味を覚えさすな!!」
エクシアのおかげで『のほほんとした空気』が漂うが、僕達がこうしていられるのは今のうちだ……
「エクシアさん……皆に避難を促しましょう……今すぐに安全部屋に。」
「分かってるよ……あれはアタイ達には無理だ。チャンティコも分かってたんだろうよ……だから手を出してない。両方が敵に回ればアタイ達は全滅だろうね。仲間割れしてるから助かってるけどさ」
「僕も同意見です……チャンティコと一時的にでも一緒に戦って勝利して、仲良く話あって終了……が一番良かったんですけどね……」
「ぷ!……相変わらずお花畑好きだな?……毎回そうはいかないだろうさ……だがアタイも今回はそれを期待しちまった。だって見てみな……チャンティコ見ても意にも介さず、笑いながら『殺しあって』やがる。チャンティコ出して運が良ければ片方はどうにか出来ると思ったが……あれはヤバイよ……」
エクシアの言う通り、彼等は周りなど相手にせず嬉々として相手を切り刻んだり、噛みちぎっているのだ……
無くなった部位は、相手を強引に引き剥がし投げ飛ばした隙に、即座に再生している……かなりヤバイ存在で間違いはない。
問題は選択肢を誤って相手の注意を引いてしまえば、誰かは確実に死ぬと言う事だ。
当然その選択肢とは『ヘカテイア』の事だ。
エクシアはある意味かけに出た……
此処で上手く逃げられても、獄卒二人のうちどちらか一方が生き残った時点で、その後このダンジョンに冒険者が来る事はまず出来なくなる。
だとすれば、片方をなんとか味方か休戦状態にする他ないのだ。
エクシアには、そうする選択肢しか『スタンピード』を防ぐ手段がない……
理由は、このダンジョンコアを得てダンジョンを掌握した今でも、僕より強い魔物が居た時点で手が出せなくなるからだ。
そして僕もそれを分かっている……既に彼女と上手く渡り合うしか、全員が生き残る道はない……
だが、エクシアはそれを僕には言えない……何をされるか意味が既に理解できないからだ。
自分に経験がない事で、それが万が一にも誰かが人で無くなる可能性があるならば、おいそれとお願いは出来ない。
例えその対象が、既に人からかけ離れた僕だったとしてもだ……
万が一、それが悪い方に向いて獄卒以上の化け物に変質したら人族は困るのだ。
僕の涙をみた時点で『自我が無事で居られる保証は無い……』と既にこの数日でエクシアは理解したのだ。
僕もエクシアには言えない……
ヘカテイアが何かをした後の、その状態で元の世界に帰れるかもわからない……
今でさえ、もう帰れる気がしないのだから……
獄卒擬きの目的はヘカテイアを『地獄に連れ帰る事』もしくは『出さない事』だろう……そしてヘカテイアの目的は『地獄』と呼ばれた場所から出る事だ。
目的が完全に相反する上に、力も拮抗して加減などしてられないのだろう……
そしてヘカテイアが負ければ、あの圧倒的な戦力の矛先は僕達へ向く……運良く共倒れが良いがそう行かないだろう。
しかし僕は情報整理の段階で気が付いてしまった……今のこれは始まりでしか無い……
今この状況下で出てきた魔物は『ガーディアン』では無い……と言う事にである。
このボス部屋は二重構造だ。
階層主を倒した後、条件を満たしていた場合には暫く時間を置いて『ガーディアン』と呼ばれる個体が登場する。
そして当然物量が多い……魔物が大量に出てしまう。
『ヘカテイア』も『獄卒擬き』もガーディアン個体では無い……理由は『今此処にいる』からだ。
「どうしたんだい?その顔はかなりヤバイって感じだね?何か気が付いたって事だろう?今更黙っていても仕方ないから、話してみな。」
「ガーディアンです……この後来るのは……今チャンティコが倒したのは元から居た『階層主』とペナルティでしょう?だったら……あの獄卒達がペナルティのボスって事なんでは?だとしたら今倒した周りの魔物は雑魚って事でしょう……」
僕は一度ここの戦闘を経験しているエクシアに説明をする……
すると少し前の事を思い出した様だ……
「マジかよ……あの地獄が……再来するのかい?でも確かに言われてみれば……前はダーク・トロルだったね……もうチャンティコは使えないんだよ!?アンタの方は?」
「トラロックは先日土地へ加護を与えたので休息中です……さっき確認しましたが、化現できても半刻も無理です……出たとしても『話して消えるだけだ……』と言ってました……」
僕はエクシアが前の戦闘を地獄と思っていた事を聞いて、情報を付け足す……『それもこの間より状況は最悪ですよ……撤退行動3回ですからね……今回は』と……
「マジかよ!……くそ……困ったねぇ……」
「とりあえず安全部屋まで引き返しましょう……ドロップアイテムはどうせ後で纏めて出るでしょうし……」
「アンタ……その状況でアイテム回収考えてんのかい?勝つ気かよ……余裕だね……アタイもその余裕が欲しいよ……」
僕はアイテム回収の事を大切にしたわけではない……
万が一、そのドロップアイテムを放置した場合、階層主部屋正門から冒険者が入り込む可能性もある。
すると当然魔物の総数は増えるのだ……それを避ける為に言った事だった。
ひとまず獄卒の狙いがこっちへ向く前に、僕はジャイアント・アクアプリンをゲートから帰還させる……
今ここにいれば間違いなく無駄死にするだろう。
獄卒は物理攻撃以外にも攻撃を絶対に持っている……『超速再生』が何よりもの証拠だ。
あれはMPを使うパッシブ効果だ。
だとすればMPをふんだんに持っていて、そのMPは『何かに使う』筈だろう。
その技を今使わないのは『不気味』でしかないのだが、それを皆に言うことは辞めておく事にした。
知ったところで単純に『絶望』しか待っていないからだ……
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