第606話「遠征準備に役立つ素材」


「ふぅ……ご馳走様!美味かった!格別に美味かった!!お前たち、ここからはワシが説明するから、お前たちも食べてしまいなさい!彼らには目の毒だ!!」



 バラスの部下も、よだれを垂らしてしまいそうな顔だったので、とても嬉しそうだ。


 バラスが食事を渡す前に、オレンジが帰ってきた。


 僕は遅れて戻ってきたオレンジさんに、用意していた労いのご飯と、アイスミルクココアを作り渡す……そしてお盆に乗せていた小皿に休憩時に食べるチョコを10個ほど置いておく。


 疲労困憊具合が顔に出ているので、甘いもので糖分補給が必要だ。


 後でチョコをおいた理由は、龍っ子とゼフィ対策だ。



「あ!ありがとうございます!これミオさんが言ってたチョコですね?」


 受付嬢のオレンジには、テカーリンから『せっかくだから食事にしなさい。またこの後も大変だろうからな!休んでおけよ?今のうちに』と声がかかる。


 

 それを見たバラスは『じゃあお前達もせっかくだし話を聞きながら、一緒に隣の机で食いなさい』と言って食事を渡すと、ようやく僕達に部位と素材そして装備の説明をする。




 バラスがギルド職員を数名呼び寄せて調べた結果、天翼の獅子のウルフハウンド、シュナウザー、ミュートの前衛3人はギリギリオルトスとアーマーセンティピードの複合鎧を装備できるそうだ。


 メインはアーマーセンティピードで要所にオルトスを使うそうだ。



 エクシアの他数名のギルメンの他に僕達異世界人はフルのオルトス装備が使えると言う。


 レベルが運良く装備適正とギリギリ重なった様だ。


 輝きの旋風組と銅級資格3グループは、時間が掛かるため後ほどチェックらしい。


 エクシアとユイナそれとアーチはオルトス・スキンのみで、僕とソウマ、そして意外にもミクがオルトス・スキンと骨素材の複合品、カナミとミサはオルトス・ボーンメイルが装備できると言う。



 皆カナミとミサに目が行く……当然だがその理由などしらないからだ。



「私はそう言うスキルがあるんです!!変な目で見ないでください!やだなぁ!ねぇ?ミサもでしょう?」



「そうですね!私もです……『装備拡張』のスキルですよ?」



 そう言うと、シュナウザーがミサを質問攻めにする……


 そして、スキルを得ると言い出して、不思議な色の結晶を砕く。



 それは何だろう?と覗き込むが『拡張石』と呼ばれるスキルポイントを得ることができる、すごいレアモノのアイテムの様だ。


 使える項目が限られているのが残念要素だと言う……エクシアが教えてくれた。


 スキルポイントってなんだろう?………



「おお!!たしかに!今シュナウザーさんが『装備拡張・ボーンメイル限定』を得たのでオルトスのボーンメイルが装備可能になりました!」



 そう言う係員……しかし僕とカナミの目線はミサを見る……


 皆が装備話に明け暮れてる間、カナミが小声で『知ってんなら先に言ってよ!……冷や汗かいた………』そう言った。


 カナミが皆に聞こえない様に言ったミサへのメッセージだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「「「「では、ヒロさん……本当にツケで良いんですか?」」」」



 困った顔で、商団トップのマッコリーニにフラッペ、そしてハリスコにギルド財務担当のデーガンが言う。



 ひとまず装備できると言われたものを製作して貰う。


 メインアタッカーのパーティーを優先で、ジェムズマインの在籍鍛冶職人が総出であたる。



 作るのは職人だが、金払いはマッコリーニ達だ。



 冒険者から見ると、装備作成費用は自分もち、素材費用は催促無しのツケ払いで決定した。



 基本的に冒険者は装備に金をかける……死にたくないからだ。


 作成費用は大概目星を立てて蓄えている……素材を得た場合すぐに作れる様にだ。


 それが無いことには『作れない』のだ。



 しかしその素材が曲者だ。


 手に入れるには戦って剥ぎ取るか、店で買うかしか無い。



 それを今回、特定の素材であればギルド斡旋の代金商団持ち裏のツテは『ヒロ男爵』と言い切ったのだ。


 裏の資金源を全部、男爵が負担すると言えば、ダンジョンアタックの参加者は大喜びだ。



 何故ならダンジョンアタックに参加する事で報酬は得られる。


 先に防具を手に入れられる上に、返済の目処がある意味成り立っている。



 倒した魔物は売れるし、ドロップ品も期待できる。


 ダンジョンだけに宝箱を得た場合、一攫千金も夢じゃ無い。


 当然参加するメンバー全員なので、他の銀級冒険者も銅級資格者も全員面倒を見る……


 装備できるのが前提なのだが、聞きつけた者がパーティーの仲間を呼び、その仲間が知り合いを呼んで、その知り合いが事情を知らない周辺の冒険者に話す。


 長蛇の列ができると、それは一列になってギルドの外にまで続いて、ギルドの外周をグルリと回るまでに至った。



 素材は?と言えば残念ながらオルトスの方は殆ど消費無し、アーマーセンティピードがメインアタッカーに、以前手に入れ3商団へ卸していたジャイアント・センティピードが大いに役立った。



 買取できる部分は既に商団が買い取って貴族へ卸していたが、ジャイアント・センティピード素材はルモーラが手当たり次第狩ったから未だにかなりあるのだ。


 僕は使うかわからないそれをマジックバッグに入れていても仕方ないので、全てを各商団に預けていた。


 それを商団倉庫に十分な在庫があるか聞いてから、彼等冒険者には魔法契約を結ばせた。



 これができる理由は僕と商団のコネクションがあるからだ。



 既に商団は僕に借金がある、なのでその借金で彼らの装備代金を肩代わりした。


 代わりに彼らは、それを支払い切るまでマッコリーニ達へ支払いをする。



 彼らは元手が掛からず、死んだら払わないことになる。


 しかし彼らは鉱山で死ぬ事にはならない……彼らの役目はスタンピード抑止の為だ。



 ゴブリンをただただ減らして貰うのだ。



 それに、マッコリーニと懇意になった彼らは、買い物を各商団でもする筈だ。


 そうすればマッコリーニ達がした僕への借金も減る。



 鉱山は安全を保て丁度いい。



 非常に甘く冒険者にリスクの無い取引だが、実は裏がある……


 良い領主は冒険者が寄り添うのだ……当然だろう。



 僕は街を建設中だが多くの収益は『冒険者』からなのだ。


 遠方からの移動、拠点の構築そして毎日の生活費、根が降りれば結婚・出産そして生活基盤をその街に整えるだろう。


 冒険者を引退して店の経営、衛兵への就職、騎士団への入団、選択肢はかなり多い。



 借金をしている領主が街を持っているなら、ほぼ必ずそこに行く。


 領主が『借金を回収する』その見込みで仕事をもらいに行くのだ。



 そんな行動を取る冒険者は非常に厚かましいが、回収せねば大損だから仕方なく雇う事が多い。


 雇わなくても『仕事の斡旋』はして貰える……一部の冒険者に取って借金は、生活の手段にもなり得ているのだ。



 今からするべきは、ダンジョン遠征の準備。


 僕が装備ができる数日中にやるべき事……それは『トレンチのダンジョンの破壊』だ。



 冒険者の分散はこの街の未来にとってはよく無いからだ……『トレンチのダンジョン』はコアの場所がわかるので間違いなく破壊できるが『穢れノームの迷宮鉱山』は破壊できる確証がない。



 理由は簡単だ……コアが何処にあって、どんな状態かわからないからだ。


 ならばトレンチから破壊するのが得策なのは当然だ。



 僕は長谷川くんが作った『漆黒の遠隔操作コア』(黒い球体)を取り出して念じて、破壊方法とその場合の注意点を確認する……すると頭に知識が流れ込んでくる。



 確認したかった理由は2つある。


 一つ目はダンジョンコアに不浄な力を与え、そして穢れと力を吸収し続けているダークフェアリーが、コア破壊と同時に実体であるコアがなくなり消滅する可能性があるからだ。


 下手すればそれが引き金になって、数百年後ダークフェアリーとして再誕生する場合もある。



 それだけは避けたい……


 何故なら人族への怨みが尋常ではない筈だからだ。



 二つ目は、制御を失ったダンジョンが単純に下層が広がる地下建造物になる件だ。



 この過程で今いる魔物がどうこの周辺の環境に影響するかを調べる必要が出てくる……新しいダンジョンの切っ掛けになどには出来ないからだ。


 それに周辺にも何か影響は出るだろう……少なくともこの個体群はダンジョンで穢れを宿している。



 僕は長谷川くんが纏めた情報から、トレンチのダンジョンコアを破壊した場合の予測を確認する。


 暫くすると大量な情報量のダンジョンの仕組みが書かれた場所に行き着いた。



 そして……ダンジョンコアの破壊の方法を調べていた時『コアの情報と修正登録』(詳細情報要確認)と言う項目を見つけたので、中を見た瞬間……意味がわからないことが始まってしまう。


 (詳細情報様確認)の意味は、『僕』にではなく『自分』に対して長谷川くんが確認用としてつけたものだった。

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