第585話「厄介者……それは唐突に」
ミサが風呂を終えてから僕は乾燥で彼女の髪を乾かした。
彼女は生活魔法でも使えるのは、炎系の『着火』だけの様だ
乾燥を使って気が付いたのだが、洋服もそうすれば良かったと思った……色々使い慣れていないのでアイデアはあってもあまり役に立たない。
結局なんだかんだやって、ギルドに着いたのは19:30だった。
ギルドの中に入るとエクシア達がドワーフ王の護衛業務の報告していて、伯爵達とギルマスのテカーリンにサブマスターのデーガンもいた。
周辺には貴族?と思わしき人もいる。
ミオとメイフィは薔薇村で仕事中なのでギルドにはいないが、イーザとコーザが何故か銅級受付にいた。
「ヒロさん!お帰りなさい。大丈夫でしたか?なんかミオさんもメイフィさんも『獄卒』を化現させた様になってましたから……」
コーザがそう言うと、その後ろにまさにその獄卒になったテカーリンとデーガンがいた。
「これは!これは!ヒロ男爵様!まさか未開のダンジョンを踏破されて帰ってくるとは……本来は先にダンジョンの報告をされて、その中が安全か見定めてから『踏破』……と言う流れですがね?男爵様?」
テカーリンが怖い……やけに禿げた獄卒が怖い……
「ギルマスの言う通りですね!更にこの街をたたれる時に男爵様はですね『自領を建て直す』と言ってましたが?ダンジョンがある『場所』は『アモニア侯爵』親類の領地です!薔薇村ギルドからこっちに伝書鳩を送られるとは……それを知った伯爵様が今この街においでですが?』
デーガンも凄く怖い……獄卒が2匹も化現している……正にギルドが地獄だ!
そう怖がっている僕に、声をかけてくる人物がいた。
「まぁまぁ、事情を聞けば致し方ないとわかりました。まさか自分の自領で暗躍している輩が居るとは思いもしませんでした!あの国境付近では、たびたび小国郡国家の兵士とやり合ってますからな!まぁそれも全て、実効支配をする為でしょう!このままでは私が王都で赤っ恥をかくところでした。兄に叱咤される前に全てが終わり、寧ろヒロ男爵様にはお礼を言わねばなりません!」
そう言ってきたのは、笑顔がどう見ても作り笑顔の『私!貴族です!』と言う感じの男だった。
「申し遅れました!私は侯爵のアモニアの弟で、伯爵の爵位を持つリーチウムと申します。お礼はダンジョンの『それ』だけでは無いのですよ。実は貴方様のおかげで『水精霊・南の巫女』とお知り合いになれましてね……貴方様としては水鏡村が大変な時期でしょうが……。我々としては念願の力ある巫女様をお迎えできました」
ダンジョンの件で嫌味の一つは覚悟をしていたが、目の前の男は嫌味では無く本気でお礼を言っている様だ。
それにしても……あの地から消えた悪質巫女が頼ったのが、この男だったと聞いた時点で驚きが二倍だ。
「あ!ご安心しんください!南の巫女様はヒロ殿の事を悪くなど言っておりません。実はヒロ殿があの領地を治める以前より、水精霊様を崇拝する王都貴族に伝手を捜して居たのです。そして水郷村が『あんな事』になったので、こうなった今水精霊様をお祀りできる地を……とね!ですので兄の所領に水源地がありましたので、そこをお薦めしました」
「水源地ですか?王都付近にあるんですか!?そんなものが!?へぇ………」
僕は間抜けな返し方をしてしまった。
水源があると言うことは、水精霊がいてもおかしく無いからだが……彼は巫女の件で文句を言われるかもと、若干笑顔が引き攣りながら話を続けた。
「そうなんですよ!兄も大喜びでしてね!それと……ヒロ殿が王都に来た際に、その件で兄と問題にならない様にしたいと常々思っていた矢先、今回の件がありましてね。そのなんて言いますか……巫女様にも選択の権利位はあっていいものでは無いかと?」
僕はその言葉が嫌味だと分かったが、インチキ巫女を匿うのも嫌なので了承をする。
「ああ!全然構いませんよ?水精霊を心から信仰してくれる人だったら、願ったり叶ったりですから!沢山水精霊のシェアを増やしてあげてください!出来れば、風精霊や土精霊それに森精霊もお願いします!」
僕はインチキ巫女でも、本当の水精霊信仰の役に立てばいいと思った。
あの巫女を信じるんでは無く、しっかりと水精霊を信じればそれは精霊信仰に繋がるからだ。
すると満面の笑みで、リーチウム伯爵は話を続ける。
「おお!流石はヒロ男爵!心が広い!ならば私とて領地内で起きたダンジョン踏破は不問に伏しますよ!!さっき言いました通り、助かったのは事実ですからね!所で出た宝はどうでした?ああ!決して欲しいと言っているわけでは無いですよ!勘違いなさらないでくださいね!」
僕は宝の殆どを、一緒に踏破した冒険者に渡してしまった事を言う。
僕が貰った精霊アイテムについては渡したく無いのだが、問題を避けるために見せた。
精霊の神殿効果のあるアイテムだが、精霊使いになれるわけでは無い。
一応勘ぐられるのは嫌なので装備アイテムの詳細は言わず、デザインが良い上に防御値が上がるという事で誤魔化しておく。
僕が冒険者上がりの貴族なので、リーチウムは納得していた。
しかし、彼も人間で何かを得たなら欲しくなるのが人情だろう……
そこで僕は前に手に入れた武器だが、それを渡して誤魔化そうと思いつく……
何処で得たかなどは、手に入れた僕以外わからないからだ。
「リーチウムさんよければコレを……『硬く・硬い・モーニングスター』と言う銘付き武器です。コレも出た武器ですが、モーニングスターを使う近接戦士じゃ無いんですよ僕は……なのでよければ……お近づきの印にどうでしょう?」
「お!?おおおおおお!本気ですか!?なんと!!そんな!!凄いマジックウエポンですよ?ほ……ほ……本気ですか!?コレを兄に贈呈すれば、貴方だって伯爵位の上に兄の右腕の座は間違いないですぞ?」
「ならば、お兄さんに貴方様から贈呈なさっては如何でしょう?そうだ!どうせなら共同踏破って事にしませんか?リーチウム伯爵から僕にダンジョン踏破の依頼が来て、そしてそれを実行したって事で……。南の巫女を斡旋してくれたお礼を兼ねて、僕が今度は助けたとかにすれば?」
僕はテカーリンとデーガンのお小言が嫌だったので、逃げ道を用意したくてそう言ったつもりだが、リーチウムは大喜びだ。
「是非!是非是非!!そうして頂けると私もこの周辺で面子が保てます!いやぁヒロ殿はテカーリン殿やデーガン殿の言われる通り懐が広い!!怒る私が馬鹿の様だ!!大馬鹿だ!!はっはっは!!」
話を聞く限り、彼は面子さえ保てれば問題にはならなそうだ。
それに使わないアイテムなど、ウッドゴーレムに持たせる予定だったのだ。
彼が悪辣貴族だとしても、根っからの悪人とは限らない。
どんな間違いをしていたかは調べてみないと分からない……それに御近所付き合いは間違いなく続くのだ。
問題が回避できる上に、要らないものでそれが出来るならば処分するにもちょうどいい。
「テカーリン殿にデーガン殿!!この件は完全に不問だ!!はっはっは!!いやはや此度は我が悪かった!早とちりにも程があったな!彼がこんな気持ちいい人だとは想いもしなんだわ!2人に謝罪する!すまなんだ!!」
そう言った彼は、執事に言いつけて冒険者全員に酒を振る舞う。
「皆私からの奢りだ!是非呑んでくれ!!素晴らしい街だ此処は!このジェムズマインの街に幸があらん事を!!乾杯!!」
「「うぉぉ!マジかい伯爵様!」」
「「乾杯!!」」
単純だ!非常に単純だが……見た感じ問題は完全に片付いた!!
今まで若干不貞腐れていた顔の伯爵だったが、冒険者はそれを見て『厄介もんか』と思っていた。
だが、その伯爵が急に上機嫌で酒を振舞った事で、お祭り騒ぎになってしまった。
「思っていた事の斜め上を相変わらず行くな!!まさか……あのリーチウム伯爵まで丸め込むとはな!!」
テカーリンが執事から直接酒を貰い、苦笑いしながらそう僕に言った。
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